・日常生活でもですが、特にテレビを見ていて、言葉づかいが気になることが多くなりました。要するに、バカ丁寧と思われる話し方が、当たり前化しているのです。たとえば、テレビ番組に始めて出たタレントが「出させていただきました」というのは理解できるが、誰もがそんな言い方をします。それに影響されたのか、ゼミで学生が発表する前に、「発表させていただきます」と言ったりして、「いただきますはいらない、発表しますでいい」と言ったことも何度かありました。
・日本人の人間関係は上下を基本にすると言われてきました。言いたいことを言おうと思ったら、下手に出て相手の気分を害さないようにする。そんな態度は今に始まったことではありません。しかし、最近では、対等な立場の中にも、丁寧であることが望まれるかのような空気が漂っています。へりくだらなければ上から目線と思われるのではないかと恐れているのかも知れません。しかし、こんな言葉づかいをしているかぎりは、関係は少しも深まらないのではないかと思います。
・ぼくは、必要以上に丁寧な言葉づかいで話す人は信用しないことにしています。何か下心があるのではと疑りたくなるからです。こちらが客で、何とか買わせようとする店員やセールスマンはその好例でしょう。電話での売り込みには辟易としていますから、最近ではベルが鳴ると、ボタンを押して電話に「迷惑電話防止のため、お名前を名乗って下さい」と言わせることにしています。それで切る場合がほとんどですが、逆に、知人からの場合は、説明をして納得してもらうことも少なくありません。
・他方で、ネットでの見ず知らずの人に対する誹謗中傷や、ひどい言葉づかいも気になります。ヘイトな書きこみを躊躇せずにやったりする人も、現実の人間関係の中では、やっぱりバカ丁寧な言葉づかいをしているのではないでしょうか。その使い分けこそが、最近の言葉づかいに関わる最大の問題なのではないでしょうか。あるいは、店員や駅員に暴言を吐き暴力まで振るう人が増えたといった話も良く耳にします。自分が上であることがはっきりしている、とたんにそんな態度に出るというのも、同じことだと思います。
・気に入らないと言えば、政治家の発言の仕方です。「国民の皆様にご理解していただけるよう、丁寧にご説明申し上げます」などと言いながら、何の説明もしないのです。丁寧な言葉づかいさえすれば、中身の説明は丁寧でなくてもいい。都合の悪いことはすべて隠し通して、白を切る。国の政治を司る人たちがこんな態度ですから、国民全体に広まるのは仕方がないのかも知れません。
・ぼくはどんな人に対しても、対等であることを基本にしてきました。それは、高校や大学で習った先生などに、そんな態度で接してくれた人が何人もいたせいだと思います。目上であっても「〜さん」と名字ではなく名前で呼ぶ。そんな言い方を若い人からされるのは、距離が縮まった証拠と思ったものでした。しかし世の中の風潮は、それとは真逆に進行しているようです。
・もっとも、テレビですっかり定着してしまった感がある、知らない人に向かってタレントがする「おとうさん」「おかあさん」という呼びかけには、相変わらず抵抗があります。「おじさん」「おばさん」「おじいさん」「おばあさん」ではなく、なぜ「おとうさん」「おかあさん」なのでしょうか。結婚しているのかどうか、子どもがいるのかどうかわからない見ず知らずの人に、よく使えるなと思うのですが、そんなことをどこまで意識しているのか、と思います。
・妙に丁寧だったり、気安かったりすることに強い違和感を持つのはぼくだけなのかもしれません。しかし人間関係の親密さに応じた距離の取り方、それに伴う言葉づかいが壊れかけている。そんな印象を強く感じる今日この頃です。