2019年9月30日月曜日

久しぶりのラグビー観戦

 

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・ラグビーのワールドカップが始まった。ラグビーをテレビで見るのは久しぶりだが、その面白さに惹かれている。日本を応援するというのではなく、どの国の試合も見ている。いかつい男たちが身体をぶつけ合う、その激しさに思わず興奮してしまっているのだ。サッカーとも違うし、格闘技とも違う。もちろんアメリカンフットボールとも大違いだ。

・ ぼくはもともとラグビーファンだった。特に大学院を出た頃には同志社大学が全盛期で平尾や大八木といったスター・プレイヤーもいた。他にも釜石の松尾など、ラグビーはアマチュア・スポーツの花形だった。年末から正月といえばテレビでのラグビー観戦。それは箱根駅伝以上に人気番組だった。それがなぜ、マイナーなスポーツになってしまったのか。一番はサッカーのJリーグだろう。やがてワールドカップにも日本が出場するようになって、ラグビーとサッカーの位置は逆転して、その人気は桁違いに大きな差になった。何しろ日本のラグビーは世界に歯が立たないほど弱かったのである。

・そんなラグビーが復活するきっかけになったのは、前回のワールドカップだった。優勝候補の南アフリカに勝ち、キックをする時の五郎丸の仕草が流行になった。そして次回の大会が東京で開催されることになった。東京オリンピックは誘致活動から始まって、国立競技場の建設の不手際、猛暑の中での開催という日程、予算の大幅な増加等々問題ばかりで、今でもぼくは反対だが、ラグビーは楽しみにしていた。

・いくつのも試合を見ていて気づいたのは、ぼくが見ていた頃とはルールがずいぶん変更されたということ、試合運びも違うし、何よりユニホームがまったく変わってしまったことである。ぼくは今でも白い襟のついたラガー・ジャージーを愛用しているが、今のユニフォームには衿がないし、身体にぴったり密着している。だから選手の体型がそのまま出るのだが、筋肉隆々の巨漢ぞろいで、その選手が激しくぶつかり合うから、まるで格闘技のようになってしまった。バックスが球をつなぎ、華麗にステップをしてトライをする。そんなシーンが少なくなったように思った。

・しかも激しくぶつかっても、大げさに痛がる選手が少ない。ちょっと交錯しただけで悶絶するサッカー選手とは大違いである。もともとは同じスポーツで枝分かれしたものだが、今ではまったく違うものになっている。そんな感想を改めて持った。とは言え、どのチームも負傷者続出のようだ。ラグビーはサッカーと違いプロ化が遅かった。アマチュア・スポーツであることに誇りを持っていたからだが、ワールド・カップに参加した国の選手のほとんどは、今ではプロである。ただし、サッカーに比べたら、選手がもらう報酬は桁違いに少ないだろう。

・ワールドカップの試合会場はほとんどJリーグで使われているところである。収容数の多いスタンドは立派で、綺麗な芝生が敷き詰められているが、スクラムを組めばすぐに芝がめくれ上がってしまっている。会場の管理者はラグビーには使わせたくないだろうな、などと心配したくなるほどだ。そう言えば正月に国立競技場でやっていた大学や全日本の選手権試合では、黄色い芝がどろんこになり、選手も真っ黒になって、誰が誰やらわからなくなるほどだった。今は大雨が降る試合でも、選手が泥だらけになるなどということは全くない。

・そんなことをいろいろ思いながら観戦していたら、日本がアイルランドに勝ってしまった。アイルランドは北アイルランドとの連合チームで、それはアイルランドが独立する前からだったようだ。激しい紛争があって、テロなども頻発にあった。そんな中でもラグビーだけは統一チームだったという。番狂わせだがランク2位のチームだから、決勝には残るだろう。日本も決勝トーナメントに進む可能性が生まれてきた。日程は長丁場で決勝戦が行われるのは11月に入ってからだから、しばらくは目が離せない。

2019年9月23日月曜日

大谷翔平選手に

 

・大谷翔平選手の今シーズンは5月中旬に復帰して、9月中旬に終わるというものでした。成績は打率.286、18本塁打、62打点、12盗塁。悪くはないですが、少し物足りなさを感じました。何しろぼくにとって彼の出現は、野茂英雄以来に興奮する出来事で、去年も今年も彼の出場する試合のほとんどを見てきたのです。きっかけは何といっても去年のアニメマンガを思わせるような華々しい活躍でした。肘の靱帯損傷で投手としては不満足なシーズンでしたが、「ビッグ・フライ・オオタニサン!」とアナウンサーが叫ぶホームランは圧巻でした。今年は打者に専念するということで、その登場を首を長くして待っていたのです。

・今年はぜひ、彼の打つ姿を生で見たい。そう思ってアメリカ旅行を計画して、シアトルで試合を見ることができました。残念ながらホームランは出ず、エラーばかりで3度出塁という結果でしたが、準備運動をするところからじっくり見た満足できる経験でした。そして彼はこの後、6月だけで9本ものホームランを打って、この調子では30本以上打てるのではと思わせる活躍をしたのです。

・ところが、オールスター明けからさっぱりホームランが打てなくなって、7月は3本、8月1本、そして9月が2本という尻すぼみの結果になってしまいました。打球に角度がつかないとか、データを読まれて弱点を突かれているとかいろいろ解説されましたが、9月中旬に突然、左膝の二分膝蓋(しつがい)骨の手術で今シーズンは終わりというニュースが流れて、体調が万全ではなかったことを知らされました。ホームランが出ないことに、「しっかりしろよ」などとぶつぶつ言いながら見ていた自分を反省するニュースでした。

・故障カ所は先天的なもので、スポーツ選手が過剰な負担をかけると痛みが出るというもののようです。2月のキャンプから自覚していたと報道されましたが、日ハムの栗山監督によれば、以前から出ていた症状だったようです。すでに手術は終わっていて、投手としても打者としても来年はキャンプから普通に練習できるということです。そうなると二刀流での大活躍を期待したくなるのですが、彼は日ハム時代から毎年のように負傷をしていて、シーズン通して出場できた年はなかったようですから、投打に渡る華々しい活躍を期待するのはよくないなと思うようになりました。

・彼は投手として160kmを越える速球を投げるところが一番の魅力です。しかし、メジャーリーグでは速球投手の多くが、今年も靱帯の負傷でトミー・ジョン手術をしています。靱帯は鍛えることができない部分ですから、速球が負担になるわけですから、何キロ出たと言って大騒ぎするのはよくないことだなとつくづく思い知らされました。同じことはホームランについても言えます。フライボール革命で、打者は大振りしてボールを高く打ち上げることに精出しています。自打球で足の骨を折る選手も増えているようです。

・ホームランは派手ですが、犠打の少ないメジャーの試合がさらに大味なものに感じられるようになりました。イチローの活躍で、一時スモール・ベースボールがはやりましたが、今はとにかくホームランということになっています、一方で、大振りすれば空振りにもなるわけで、三振の数も増えています。そんな傾向は、見ていてつまらない試合を増やしていると思います。出塁すれば次の打者は決まってバントといった高校野球や日本のプロ野球もあまりに型どおりですが、もう少し多様な戦術があってもいいように思います。

・ところでエンジェルスは今年も5割に充たない成績でした。エース格のスキャッグスが薬物摂取が理由で急死しましたし、補強した選手がことごとく不調だったこと、マイナーから上がった選手が期待通りに成長しなかったことなど、原因はいくつもありました。おかしな投手交代をする監督や、補強策に失敗したGMの責任などを並べると、エンジェルスを強いチームにするためには、しなければならないことがたくさんあると思います。タラウトと大谷二人だけでは来年もまた、厳しいシーズンになるでしょう。

2019年9月16日月曜日

カビと腐食

 

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forest161-2.jpg・台風は雨も風も強かった。屋根に枝が落ちて大きな音もした。庭に散乱した枝を集めると一山ほどになった。枯れたら細かく折ってストーブの焚きつけにする。我が家では停電も断水もなかったが、千葉では大きな被害が出て、復旧がずい分遅れたようだ。猛烈に暑い日が数日続いたから、被害に遭った地域の人は大変だったと思う。SNSには窮状を訴える声が溢れているのに、テレビは内閣改造や韓国叩きばかりだった。もうこの国の政治やメディアは完全に腐っている。

forest161-3.jpg・今年はとにかく雨がよく降る。長梅雨に夕立、そして台風。森では地面が乾く暇がないほどだが、おかげでカビが大繁殖している。雨ざらしで積んである薪にはカビが咲き放題だが、雨が当たるログにも付着していて、腐食が進んでいるところがあった。気づかずにいたのだが、さっそくコーキングをして固めて、針金で補強をした。想像以上に腐食が進んでいて、コーキングのチューブが何本も必要だった。完全に崩れて修復不能でなくてよかったと思うが、さてどのくらいもつだろうか。

forest161-4.jpg・カビや腐食は屋外だけではない。家の中にはカビが蔓延していて、あちこちから臭いがする。風呂場のログに黒くなったところがあって、押すとへこむようになった。針を刺すとかなり深くまでめり込んだから、慌ててほじりだしてみた。そうするとかなり腐食していて、タイルとの間に大穴があくほどだった。ちょうどシャワーの下あたりで、水がたまって腐ったようだった。何年もなぜ気づかなかったんだろう。穴が大きいからと、薪割りでできた木っ端を埋めて、その隙間にコーキングをし、数日後に浸透性の防水塗料を塗った。

forest161-5.jpg・家のメンテナンスは大事だ。気づかずにいると大変なことになる。定住でもこんなだから、別荘に利用している家では、カビ取りや修復のためだけに時折来るなんて人もいる。歳を取ると別荘を持つのも難儀なことになる。
・長雨で元気なのはカビだけではない。雑草の繁茂の仕方も尋常ではなかった。もうすぐ原木を運び入れてもらうからと思って汗をかきかき草取りをしてやっと通路ができた。木を覆い尽くすような蔓があちこちに勢力を伸ばしていた。やたら広がったミョウガに実が少ししかできなかった。根がはりすぎたせいだというから、掘り起こして間引きをした。ざる一杯の収穫が再現できることを期待するが、さてどうなるか。

forest161-6.jpg・久しぶりに西湖でカヤックをした。ぼくは自転車で行ったのだが、帰りにパンクをして、いったん帰った自動車で迎えに来てもらった。木ネジが刺さっていたが、誰かがまいたのだろうか。自転車で10km走り、カヤックを組み立て、漕いで、畳んで、また自転車で10km。さすがにくたびれて、昼食後は高いびきとなった。
・今年の夏は客が少なかったが、結構忙しかった。それにしても時間が経つのが早い。秋になれば、薪割りも始まるし、落ち葉の片づけや栗拾いもある。自転車にもいい季節だ。身体だけは腐らないように、精出すことにしよう。

2019年9月9日月曜日

音楽とスポーツ

 

宮入恭平『ライブカルチャーの教科書』(青弓社)
浜田幸絵『<東京オリンピック>の誕生』(吉川弘文館)

・今回紹介するのは大学院で長年一緒に勉強した、二人の若手研究者の作品である。宮入恭平さんはすでに多くの著作を公表している。ぼくと一緒に『「文化系」学生のレポート・卒論術』(青弓社)を編集したし、単独で編集した『発表会文化論』(青弓社)もある。『ライブカルチャーの教科書』は以前に出した『ライブハウス文化論』(青弓社)を大幅に改訂したものだ。もう一人の浜田幸絵さんが出した『<東京オリンピック>の誕生』は、前作の博士論文をもとにした『日本におけるメディア・オリンピックの誕生 』(ミネルヴァ書房)の続編である。

kyohei1.jpg・「ライブカルチャー」とは録音や録画されたものではない、生で行われる文化全体をさしている。この本では主に音楽を扱っていて、レコードやラジオが登場して以降に一般的になった記録され、再現されるものに代わって、最近ではライブハウスから野外フェスティバルに至るまで、音楽(産業)の主流になりつつあることに注目している。音楽はレコードやテープ、そしてCDとして購入するものではなく、ネットを介してダウンロードをしたり、課金を払って聴き放題が当たり前になっている。

・この本は、そんな現状を歴史的にさかのぼり、また理論的に裏付けて、大学の講義に使う教科書に仕立て上げている。昨今論争になった音楽と政治の関係やストリート・カルチャーと法規制、アイドルばかりが売れる傾向と音楽の産業化、そしてアニメとテーマソング等々の多様化など、時事的な問題や流行も取り入れていて、学生にとっては興味を持ちやすい内容になっていると思う。講義内容準拠のテキストは、ぼくと一緒に何冊も作ったから、お手の物だ。

sachie1.jpg・『<東京オリンピック>の誕生』はやや硬質な専門書という内容である。東京オリンピックといっても1964年に開催されたものではなく、1940年に開催が決まったが、第二次世界大戦によって中止になった「幻の東京オリンピック」が主題になっている。明治維新以降、西洋に追いつき追いこせをモットーにしてきた日本にとって、東洋でのオリンピック開催は、その国力を世界に誇示する希有の機会だった。活発な招致活動をやり、国民に一大イベントへの期待を植えつけ、もうすぐ開催というところで中止になった大会である。

・1964年のオリンピックは、この中止になった40年から敗戦を経て、経済成長が本格化した時期に行われた。高速道路や新幹線を開通させ、東京の町を整備して、敗戦からの復興を短期間で成し遂げたことを世界に向けて発信する大きな機会になった。この本は最初の招致活動から中止、そして戦後の再招致活動から開催までを、新聞記事などを丹念に調べながら追っている。

・前著の『日本におけるメディア・オリンピックの誕生 』は日本が戦前に参加したロサンジェルスやベルリン大会について、主にラジオと新聞による報道を分析したものだった。それこそライブ中継ができなかった時代に、どうやって臨場感のある中継をするか。そんなことも含めて、日本という国の盛衰や、さまざまなメディアの発達とスポーツの関係がよくわかる内容になっている。

・映像や音声の技術がデジタル化して、いつでもどこでも好きなものを楽しむことができるようになったのに、音楽にしてもスポーツにしても、ますますつまらないものになっている。ぼくはこの2冊を読みながら、そんな皮肉な現象を再認識した。来年の東京オリンピックなどは愚の骨頂だろう。


2019年9月2日月曜日

香港と韓国

 

・香港でのデモは、返還から22年の記念式典が開催された7月2日に始まった。主な理由は犯罪容疑者を中国本土に引き渡すという「逃亡犯条例」の改悪に反対するものだった。デモの参加者は最大で170万人にもなったようだが、これは香港の人口が740万人ほどだから、4人に一人が参加したことになる。これほどの数の人が反対の意思表示をする理由は、単に条例一つだけにあるのではない。それは香港の歴史そのものに関連するものである。

・香港はアヘン戦争後の1842年にイギリスの領土になって発展した都市である。それが「一国二制度」という条件で1997年に中国に返還された。つまり、香港は特別行政区として独自の法制度をもち、政治を司る「立法会」の議員を選ぶ権利があり、表現の自由も認められていて、中国本土とは大きく異なる制度を50年間は保証されたうえで返還されたのである。ところが、現在では議員選挙にしても、トップである行政長官の選び方にしても、中国の意向が強く働くようになっているし、批判的な団体や人びとが捕らえられたり、行方不明になったりもしている。香港がじわじわと中国化している。デモに参加した人には、そんな強い危機感があると言われているのである。

・香港に住む人の多くは漢民族だが、自分たちを中国人ではなく、香港人と思っている。何しろ150年間イギリスの支配下にあって、社会的にも文化的にも西欧流が根づいているのだから、共産党が支配する中国を拒絶するのは当然のことなのである。その形骸化した「一国二制度」もあと30年ほどで解消されてしまう。そうなる前に独立したい。それが香港人の世論なのである。

・2014年の「雨傘デモ」以来、抗議活動をリードしてきた黄之鋒と周庭の二人が警察に一時逮捕された。デモの沈静化を狙ったトップの逮捕だが、逆にデモの拡大や先鋭化を招くかもしれない。香港に隣接する深圳には中国の軍隊が待機していて、いつでもデモを制圧できる態勢になっている。アメリカは中国を牽制しているが、日本政府は沈黙したままだ。

・他方で、韓国で行われているデモは日本政府に対するものである。「反日」ではなく「反安部」なのだが、日本のマスコミはプラカードに書かれたハングルを「反日デモ」と偽って報道した。テレビでは連日、嫌韓を煽る番組を流している。徴用工の賠償請求や従軍慰安婦を巡る問題に反発して、安倍政権は半導体の製造に利用する材料などの輸出規制を強化した。いわゆる「ホワイト国」から除外という措置だ。テレビの嫌韓煽りの影響か、この措置を7割以上の人が支持しているという。

・対抗して韓国は日韓の軍事協定である「日韓秘密軍事情報保護協定(GSOMIA)」を破棄した。この条約は北朝鮮の核開発やミサイル問題に対応するために、日韓が協力して情報を交換し合うという趣旨で2016年に締結されたものである。ここには日韓だけでなく、米国も強く関わっている。日韓の関係は最悪の事態に陥っていると言えるのである。落としどころも見いだせない、とんでもない状況に陥ってしまっているが、日本の政権は一体何を目的としてこんな行動に出ているのか。理解に苦しむというほかはない。貿易も観光も、両国にとって大打撃にしかならないというのにである。

・しかし、日韓の間にある問題もまた、歴史的にしっかり見直す必要がある。日本が朝鮮半島を侵略して「日韓併合」をしたのは1910年のことである。ここから第二次大戦が終わる1945年まで、朝鮮半島は日本の植民地となり、朝鮮人も日本人として扱われた。このような歴史に対して1965年に「日韓基本条約」が結ばれ、戦争の賠償や戦後の補償として総額6億ドルの供与を行っている。徴用工や従軍慰安婦の問題も、この時点で解決済みだというのが安倍政権の姿勢だが、ここにはいつまでも謝ってはいられないという、韓国の人びとの気持ちを逆なでするような態度もある。

・しかし、侵略して植民地化し、多くの人が強制労働や兵隊の性欲処理の道具に使われたこと、戦中はもちろん、戦後もずっと在日韓国・朝鮮人に対する差別が横行してきたことなどを考えた時に先ず優先すべきは、いつまで謝る必要があるかは、加害者ではなく被害者である韓国や朝鮮の人びとが判断するという姿勢なのである。それを自虐史観などといって嫌韓を煽っていたのでは、関係はますます悪くなるばかりだろう。それで泥沼に陥るのは韓国ではなく日本の方なのである。