2016年4月25日月曜日

内田隆三『ベースボールの夢』岩波新書

 

野球の始まり

uchida2.jpg・ベースボールはアメリカ発祥のスポーツである。フットボールやバスケットボールに押され気味という傾向にあるが,歴史からいえば、アメリカを一番に代表すると言える。内田隆三の『ベースボールの夢』は、その誕生のいきさつについて、定説に疑問を投げかけると同時に,定説が誰によってなぜ生まれ定着したかを説き明かす内容になっている。

・野球発祥の地はニューヨーク郊外のクーパーズタウンということになっている。だからここには野球博物館が作られ,殿堂入りした選手や、歴史に残るゲームと選手のユニホームやグラブ、バッド、そして写真などが飾られている。野球を考案したのはダブルデーという名の南北戦争に従軍した北軍の兵士で、野球をしたのは1839年とされている。しかしダブルデーがクーパーズタウンで本当に野球らしきものをしたかどうかについては、確証はない。

・そのことを史実として強く主張したのはアルバート・G・スポルディング(スポルディング社の創設者)で、彼は野球がイギリスに起源を持つゲームの発展したものではなく,純粋にアメリカで生まれたスポーツであると考えた。そのために、開拓時代を彷彿させるスモール・タウンや、合衆国を二分した南北戦争をいわば創世神話に取り込もうとしたのである。南北に分かれて戦っていた兵士が,共に野球に興じていたことは、アメリカという国の統一にとって欠かせない物語だったというわけである。

・メジャーリーグが始まった19世紀の末はアメリカが政治的にも経済的にも,そして社会的にも大きく変貌した時期だった。自ら開拓した農地で生きてきた農民たちにかわって農業は企業による大規模な形態に変わりはじめていた。その他の産業も起こり、多くの人びとは自営ではなく,雇用されて給料を受け取る生活に変わった。当然、田舎から都市に移り住む人たちも激増した。かつての中間層が没落し、コミュニティも衰退化した。そんな変容の中で,古き良きアメリカを体験できるスポーツとして、ベースボールが国民的なものになった。プレイするのはもちろんだが,スタンドで応援することによっても実感できた。

・「産業化と進歩の時代を生きる都市の人間が求めた『田園のアメリカ』」という「理想的なイメージ」というわけだが、このように成立したベースボールやメジャーリーグは、黒人を排除した白人だけのものになり、新興のミドルクラスが楽しむものになり、男だけに限られたマッチョなスポーツになった。

・この本はベーブ・ルースが登場するところで終わっていて、そこが、これまで書かれたベースボールやメジャーリーグの本と違うところだ。野球を通して、19世紀から20世紀にかけてのアメリカ社会の変容を描き出す。そんな試みに,新鮮さを覚えながら楽しく読んだ。

・メジャーリーグの本拠地は,全米の大都市に分散されている。カンザスシティのように50万人程度の都市でも,それはけっしてスモールタウンではない。しかし、スタジアムに入って野球を見はじめれば,見ず知らずの人たちが同郷の人間であるかのようにして,ホームチームの応援をする。桁違いの年棒を稼ぎ、頻繁に移籍を繰り返す選手が多くなったとは言え、野球はフィールド(野原)で行われるゲームであり、古き良きアメリカをノスタルジーとして体感できるスポーツとして楽しまれている。

2016年4月18日月曜日

春が来た

 

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・暖冬だったとは言え,3月になっても寒暖を繰り返していたから、片栗の花がなかなか開かなかった。数えると今年は80を超えた。去年が65で一昨年が50だったから、毎年順調に増えている。ずいぶんな数になったが,一面片栗の花となるのは,まだまだ先の話だろう。我が家に春の訪れを告げるのは,この片栗の花と蕗の薹で、蕗味噌も堪能した。

katakuri2.jpg・暖冬だったとは言え、この冬の薪の消費量は例年以上で、今でもストーブをつけたり消したりしている。来冬用の薪はすでに全部割り終わった。8㎥の原木をチェーンそうで切って斧で割る。その作業がいつまで続けられるか。だんだんきつくなってきた自覚はある。



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light1.jpg・とは言え、この冬には2階の二部屋の四面に60cm幅で2m50cm前後の本棚を20も作った。仕事部屋が文字通りの書斎になって気分一新で、長年使ってボロボロになった和紙の照明器具も折り紙で張り替えた。なかなかいい環境になったと満足している。さて何を研究テーマにしようか。それが問題だ。

・大学が始まって,体調がすぐれない。その一番は頻尿だ。少しましになったが夜中に何度もトイレに起きる。授業の一時間半を持たせることに気をつかわなければならない。老化現象といえばそれまでだが、漢方やハーブの薬を試しはじめている。気になるせいか,テレビのCMや新聞広告によく見かけるようになった。

forest132-1.jpg・とは言え、暖かくなったので自転車に乗り始めた。桜が満開で快晴の日は,自転車に乗りながら,ビデオも撮った。それにしても、今年は観光客が多い。アジアの人は観光バスでやってきて、富士山や桜を撮そうとして,平気で道路の真ん中に立ったりしている。欧米から来る人たちは電車でやってきて,レンタサイクルで湖を一巡りしている人が多い。ロードバイクに乗っていると,どちらもやっかいだ。何しろペダルと靴がくっついているから,こちらは急には止められないのである。

forest132-2.jpg・カヤックも乗り始めている。しかし、お決まりの西湖にも観光客が来始めていて、わいわい来ては富士山を撮してさっと引き上げる。日本人は週末限定だが,外国人は平日にもやってくる。だから、まだ静かな奥河口湖に乗り出した。満開の桜と富士山、それに新緑に変わりはじめた山。なかなかいい。いつまでも静かでいて欲しいと思うが、そうもいかないかもしれない。

2016年4月11日月曜日

Bob Dylan at Orchard Hall

 

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Twitter @SonyMusicLegacy

2016_tour.jpg・ボブ・ディランのコンサートは6度目で,前回は1997年だったから20年ぶりということになる。最初のコンサートは1978年で、僕は20代でディランは30代、20年前はぼくは40代で彼は50代。本当に長いつきあいだとつくづく思う。
・今回は彼はもう70代の半ばだが,相変わらずエンドレス・ツアーを実践している。日本にも頻繁に来ていて、2010年と2014年に長期のツアーをしている。ただしオール・スタンディングの会場だったから行く気にはならなかった。今回はここのところ何度も行っている渋谷のオーチャード・ホールだったし、もう最後になるかも,と思ったから行くことにした。

・ディランはけっして懐メロ歌手ではない。レジェンドだのレガシーなどと言われるが、積極的にアルバムを出し続けていて、あっと驚くものが少なくない。たとえばクリスマス・ソングを集めた『クリスマス・イン・ザ・ハート』やフランク・シナトラのナンバーを歌った『シャドウ・イン・ザ・ナイト』があって、その意外性に戸惑ったりしたが、聴き慣れればなかなかいいという印象だった。
・もちろんその他にも自作を集めたアルバムも出していて、不思議なのは評判だけでなく、売り上げも最近の方が多いことだ。ディランは日本では名前ほどには売れないミュージシャンの代表だったのにである。2012年の『テンペスト』はアメリカとイギリスでともに3位になり、2009年の『トゥゲザー・スルー・ライフ』は米英で1位になっている。こんな傾向は1997年の『タイム・アウト・オブ・マインド』からで、2001年の『ラブ・アンド・セフト』、2006年の『モダン・タイムズ』も1位やそれに近い数字を出している。もっとも日本でも売れたかどうかはわからなかった。

・コンサート会場にはあらゆる世代の人が集まっていて、若い人に関心を持たれていることに,今さらながら驚いた。ディランのライブはほとんどおしゃべりがない。次から次へと曲を連ねて,終わったらさっさと帰っていく。そのサービス精神のなさは今回も一緒だったが,前半の最後に「アリガトウ」と日本語で言った。僕がはじめて聴いたディランの話す日本語だった。
・歌っているのが何なのかがよくわからない。これも毎回のことで、前半の最後の「タングルド・アップ・イン・ブルー」もこの歌詞が聞こえて初めて気づいたほどだった。もっとも、セットリストを見ると、多くは最近のアルバムからで、とりわけ『シャドウ・イン・ザ・ナイト』のものが多かった。何しろ後半の最後が「枯れ葉」だったのである。

・アンコールの1曲目は「風に吹かれて」で,これも見事にわからないようにアレンジされていたが、僕にとっては思いの深い曲だったせいか、すぐにわかって、とてもよく聞こえた。ただしピアノの前で座ってのもので,今日彼はギターを一度も手にしなかった。ハーモニカを2曲。曲にあわせて舞台の背後に映し出される照明は落ち着いたもので良かったが、ディランの顔はいつも影になっていて,よくわからなかった。
・何をとってもディランらしいいいコンサートだった。ただし、懐かしさを捨てきれない僕には今ひとつもの足りない感じもした。ダメだね、古い地図に囚われている僕の方がずっと老けていて,ディランの方がずっと若い。今の自分を演じる楽しさに徹底しているディランに、改めて敬意を払いたくなった。コンサートに来た若い人たちは,もちろん、最近のディランがお目当てだったのだろう。最後まで立ち上がる人のいない静かな客席だったが、満足顔の人が多かった気がした。

2016年4月4日月曜日

がんばれサンダース

・アメリカの大統領選挙が混迷状態化しています。共和党のトランプ候補は「冗談から駒」で,放言や暴力沙汰にもかかわらず、予備選で勝ち続けています。支持をするのは白人の貧困層のようで、口にはできない個人的な思いを公言する態度が受けているようです。この人が大統領になったら,いったいどうなるのか。アメリカはもちろん,世界がめちゃくちゃになるのではという恐れも感じます。

・他方で民主党は、クリントンがリードしているとは言え,サンダースの支持も根強いようです。直近のワシントン州(73%)、ハワイ州(70%)、そしてアラスカ州(82%)では圧勝と言っていい結果でした。支持をするのは白人の若者で,インテリ層です。貧困層ではないが学費の負債を抱えたり、就職難に直面して,現在や将来に不安や不満を持つ人たちのようです。

・サンダースは民主社会主義者を表明して、この大統領選のスローガンを「革命に参加せよ」としています。掲げた政策は弱者の立場に立ったラディカルな改革で、仮に大統領になっても,共和党多数の議会の反対にあって,ほとんど実現できないのではないでしょうか。8年前のオバマへの期待が落胆と失望に変わったように、同じことのくり返しになるのかもしれません。

・それでも「今度は」と思って期待する。そんな楽観的で前向きなアメリカ人の姿勢には半ば呆れもしますが,それ以上に感嘆もしてしまいます。理想を掲げる人に対する支持は、日本ではほとんどゼロに近いからです。もっともSEALD's以来、若い人たちの発言や行動が,日本でも目立つようになりました。保育所不足騒動で女たちも怒っています。ただし、この怒りや主張を受け止める政党が日本にはありません。民主党が民進党と名前を変えても、支持率はほとんど上がっていないようです。

・アメリカの大統領選は共和党と民主党の2大政党間で行われています。ただし今回は、トランプもサンダースも党員ではありません。アメリカでも政党不信は大きいのです。だとしたら、日本でも、誰かがはっきりとした主張を掲げて新党を立ち上げ,既成政党がそれに呼応するといった動きが出ないものかとも思います。

・そのためにも、サンダースにはがんばって欲しいです。代議員数ではクリントンに差をつけられているとはいえ、カリフォルニア、ニューヨーク,ペンシルバニアといった大きな州での予備選次第ではどうなるかわかりません。トランプとサンダースによる大統領選では,アメリカは大混乱になるかもしれませんが、安倍政権の思いのままという日本の現状には、大きな波風となってくれるのではないでしょうか。

・既成政党への不信と,左右両極の対立。そんな不満の根源には貧富の大きな格差や現状や未来に対する不安や不満があります。そしてアメリカに追従する日本もよく似た状況にあるのです。毎日がエープリル・フールのような安倍政権の言動や、プチ・トランプが続出している自民党に三行半を突きつけるために、日本にもサンダースが登場して欲しいものだと思います。