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2024年4月29日月曜日

地震対応に見るこの国のお粗末さ

 



taiwan14.jpg台湾の花蓮で4月3日にマグニチュード7.7の大きな地震があった。ビルが傾いたりして被害の大きさが報道された。僕は2012年に台湾一周旅行をして、花蓮にも数日滞在し、太魯閣峡谷に出かけている。海でできた分厚い石灰岩が大理石に変成し、隆起した後に、長い年月をかけて雨によって削られた場所で、何千万年という時間が作り出した絶景だった。ところがこの地震で一番人的被害が多かったのがこの地域で、がけ崩れで埋まった人やトンネルに取り残された人、あるいは交通遮断で孤立した人たちなどが多数いたのである。一度行ってその景観に圧倒されただけに、その峡谷が崩壊したらと考えただけで恐ろしくなった。

しかし、もっと驚いたのは花蓮で避難所を設置する様子で、それほど時間が経っていないのに、体育館にずらっと個室が並んでいたのである。まだ被災者がほとんどいないのに食べ物や衣料など、必要なものも整えられているという報道だった。日本では正月に能登の地震があって、相変わらずの体育館に雑魚寝の様子が伝えられていたから、その違いに驚かされた。

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花蓮は最近でも2018年と22年に大きな地震に見舞われていて、その度に大きな被害を受けている。だから地震に対する備えが出来ていたのだろう。報道では、台湾の災害対応は1999年の地震以後に日本から学んだということだった。花蓮では2018年の地震でうまく対応できなかったことを反省して、必要なものの備蓄を整え、人々の訓練も行われてきたと報じられた。傾いたビルの撤去がすぐに始まったことにも感心させられた。花蓮では23日にも大きな余震があってビルが傾くなどの被害があった。おそらくまた迅速な対応をしているのだと思う。

ところが日本では能登地震から4ヶ月が過ぎようとしているのに、未だに避難所生活をしている人がいる。家が住める状態だとしても、上下水道が普及していないところが多いようだ。仮設住宅の建設もほとんど進んでいないのである。倒壊した建物や、破損したクルマがそのままに取り残された光景を見ると、4ヶ月も経っているのに、いったい何をしているんだろうと怒りたくなる。

もっともテレビは、そんな普及の遅さを批判的に伝えたりはしない。水道が使えないのにレストランやカフェを営業しているなどといった事例を美談のようにして紹介するものが多いのである。政府や県の対応のまずさ、というよりはやる気のなさが目立つのに、強く批判するメディアがほとんどないという現状には呆れるばかりである。ネットでフリーのジャーナリストの現地報告を何度か聞いたが、能登の人たちがまさに棄民状態に置かれたままであることを一様に話していた。被災した人たちの政府や自治体、そしてメディアに対する不信感はかなりのものようだ。政治もダメだがジャーナリズムもダメ。この国のお粗末さは、いったいどこまでひどくなるのだろうかと空恐ろしくなる。


2024年4月22日月曜日

散々な一日

 

河口湖の桜が満開になりました。自転車で湖畔一周と行きたかったのですが、ちょっと前から軽いぎっくり腰になってしまいました。その前も、雨が多くて、なかなか行ける日がなかったのです。腰の痛みもだいぶ取れ、天気も良かったので、一ヶ月ぶりに自転車に乗りました。ところが湖畔は人やクルマで大賑わいで、渋滞箇所もあちこちにあって、すいすいとはいけない状態でした。

止まっているクルマの脇を通り抜けようとした時に、溝にはまってこけてしまいました。足の擦り傷ぐらいでたいしたことはなかったのですが、タイツは破けてしまいました。クルマに乗っていた人が驚いて、「大丈夫ですか?」と声をかけてきて、かなり驚かしてしまっただろうと思いました。少し血が出ていましたが家に帰って、傷の手当てをしていると、肩が痛くなってきました。自転車は何ともなかったですし、この程度ですんでよかったと思ったのですが、自転車はしばらくやめることにしました。

virus1.jpg 夜になると肩の痛みがだんだんひどくなったのですが、パソコン(iMac)を開けるといきなり、画面がフリーズして、「あなたのパソコンに『トロイの木馬』というウィルスが侵入しました。すぐにAppleセンターに電話をしてください」という表示が出てきました。35年近くパソコンを使ってきましたが、ウィルスにやられたことはありませんでした。そこで疑えばよかったのですが、画面にある電話番号に電話をしてしまいました。

するとインド訛りの日本語を話す人が出て、「すぐに対応しないとパソコンが壊れます」と脅してきました。どうしたらいいと聞くと、修理に3万円かかります。至急コンビニで払ってくれれば直しますという返事でした。それでこれは怪しいと思い、いろいろやり取りをしましたが、相手はコンビニで3万円を繰り返すばかりでした。Appleはそんなことでお金の請求をするはずがありません。そう言って、コンビニに行く気はないとこちらも繰り返すと、結局相手が諦め、「30分後に再起動したら戻ります」と言って電話を切りました。再起動すると、確かに何事もなかったように立ち上がりました。

ほっと一安心ですが、パソコンのデータを抜き取られたのではと心配になりました。そこでAppleのサポートに電話をして、相談することにしました。待ち時間が長かったですが、親切に対応してくれ、まあ大丈夫だろうということになりました。ところが一緒に立ち上げていたMacbookがフリーズして動かなくなっていました。Apple サポートと画面を共有する作業をしている時にiMacではなく、Macbookが反応していましたから、これが原因だろうと思いました、もういちどAppleに電話をしたのですが、すでに9時を過ぎていて終了していました。この間、肩の痛みは忘れていたのですが、寝る時に寝返りできず、痛くて何度も目を覚ましました。散々な目に遭った一日でした。

翌朝もう一度、Apple に電話をしました。Macbookのフリーズは相談する直前に直ったのですが、他にもう一つ、古いIDで買ったソフトが更新できなくなったという問題がありました。詳細は省きますが、共有画面にして長時間あれこれ試みて、うまくいきました。こういう時のAppleの相談員は丁寧で感心します。それにしてもiMacは2012年製で、システムの更新もありません。主な使用はMacbookにしなければと思うのですが、大きな画面に馴れているのでなかなか決断できないのです。


2024年4月8日月曜日

大谷騒動とメディア

 

メジャーリーグが始まったが、今年は今一つ、楽しめていない。理由は言うまでもなく、水原一平通訳が起こした出来事だ。振りかえれば、大谷選手の移籍の動向以来、ネットもテレビも大騒ぎだった。確実な情報がほとんど出ないから、憶測記事が氾濫して、それがドジャースに決まるまで続いた。ロスからトロントに向かう飛行機に大谷が乗っているのではといった記事が出て、それが間違いだったと訂正されて、大谷獲得を狙う球団やファンを大慌てさせたりした。

このあたりのニュースはネットの方がはるかににぎやかだったが、入団会見から山本投手のドジャース移籍、そしてキャンプ開始になると、テレビのワイドショーはもちろん、ニュース番組までが、大きく取り上げたから、もういい加減にしろよと言いたくなった。で、結婚していることの突然の発表である。その日は国会で政倫審の中継があったが、NHKは放送中に大谷選手結婚のニュースをテロップで流したのである。実際、国会もすっ飛ぶ話題で、その日の報道番組は、その話で持ちきりだった。

ohtani5.jpg 結婚相手は「普通の日本人の女性」という以外明かされなかったが、ネットではすぐに、バスケットの選手ではないかといった記事が載るようになった。それがほぼ確実だとわかっても、テレビはそのことを明示しなかった。大谷選手の機嫌を損ねてはいけないという配慮だったのだろう。開幕戦は韓国のソウルでパドレスとおこなう。それに向けて飛行機に乗る画像を大谷選手がインスタグラムに載せ、そこに結婚相手も写されていた。で、田中真美子さんという名前であることが明らかになった。

ここまでは、大谷選手のメディア操作は見事だったが、初戦のダルビッシュや松井との対決で盛り上がった後、一夜明けて、大変なニュースが飛び込んできた。水原通訳がドジャースを解雇されたという目を疑うような見出しだった。ギャンブルにのめり込んでいて、大谷の口座から450万ドルあまりを盗んで返済に充てていたというのである。そこから後の騒ぎは、もう大谷の手に負えるものではなく、野球の試合そっちのけで、さまざまな憶測記事が氾濫することになった。

アメリカに戻って、大谷選手が事の経緯を自ら発表すると、日本ではそれを信じて納得するという論調が多かった。しかしアメリカでは邪推も含めて、批判的な記事が多く出た。水原元通訳についても、経歴にあった大学に在籍した記録がないといった記事が出て、実は通訳としても有能ではなかったなどとも言われるようになった。ギャンブルにのめり込んだのは大谷で、水原はスケープゴーツにさせられたのではといった憶測も出て、アメリカではもう手に負えない感じだが、日本ではメディアもネットも、大谷を批判する発言は目立っていない。

アメリカに戻ってからも、彼はすべての試合に出て、ベンチでも明るく振る舞っている。しかし、信頼していた相棒が裏切りという形でいなくなって、その一端は彼にも責任があるのだから、心中は穏やかではないだろう。ホームランが出なくたって無理もない。そう思って見ていたら、9試合目でやっと出た。するとシカゴに遠征した試合でもう一本。日本人選手4人が出るシリーズで、しかも4人とも大活躍だった。もっともっとやってほしいが、あまりに派手になると、ジャパン・バッシングが起こるかも知れないといった心配もしてしまう。大谷選手にまつわる報道には、嫉みや人種差別を感じるものが少なくないからである。


2024年4月1日月曜日

ライブの記録はいつからOKになったのか

 
ビリー・ジョエルの東京ドームでのライブについては、以前にこのコラムで書いた。忘れていたのだが、その当日にYouTubeですぐにアップされていて、あー、そうだったと思い出した。もちろん、客席からの録画で、音もこもっていて良くはなかったが、今終わったばかりのライブなのにと驚いて、その様子を最後まで見た。しかも、アップされているのは複数で、中には公認といったことばが入っているものもあった。

自分で録画したライブをYouTubeに許可なく載せることは、今でも違法だと思うが、いったいいつから、ライブでの録画が許されるようになったのだろうか。そんな疑問を感じて調べて見ると、日本では今でも、アーティストや主催者が認めた場合を除き、原則禁止になっているようだ。ただし、スマホを会場内に持ち込めないようにすることはできないから、電源を切って録画しないようアナウンスするしかないようだ。

densuke1.jpg僕が良くコンサートに出かけたのは京都に住んでいた1990年代までだった。会場の入り口で、テープレコーダーやビデオカメラを持っていないか、手荷物をチェックされたことが何度かあったと記憶している。今覚えているのは、京都の円山音楽堂で、一緒に行った友人が「ビデオでんすけ」で録画していて、係員に注意されてやめたことだった。多分70年代で、その大きくて重たいビデオカメラはあまりに目立ちすぎたのだが、それを会場に持ち込んで録画しても大丈夫だと思っていたのだ。そんな機材を持っている人はごく少数で、当時は普及しているのは、カメラを除けば、録音できるラジカセぐらいだった。もちろん、その時代には公にする手段もなかったから、あくまで個人的に楽しむために限られていた。

walkman1.jpg録音や録画が厳しく禁止されるようになったのは、レコードがCDに代わった80年代初めからだったのかもしれない。その頃にはウォークマンやハンディタイプのビデオカメラも普及して、誰もがどこでも気軽に録音や録画ができるようになった。もっとも、有名なミュージシャンのライブを無断で録音した海賊版と呼ばれたレコードは古くからあって、僕もボブ・ディランの伝説的なライブを何枚も買った。極めて悪い音が大半だったが、中にはレコード会社が録音したものが流出したと思えるようなものもあった。ディランの海賊版は、のちに正規の形でほとんど発表されていて、僕もそのほとんどを購入した。

ところで、ライブとYouTubeの関係だが、オフィシャルなものはもちろん、そうではない違法なものも多く蓄積されていて、ミュージシャンの名前で検索すると、大昔のものから最近のものまで、山のように出てくるのが珍しくない。これではライブ盤など出しても売れないだろうと思うが、ミュージシャンにとっては、それが宣伝効果として有効だと判断される場合があるのかも知れない。実際、ビリー・ジョエルについては、正規に記録されたと思えるライブがいくつもあって、東京ドームについても、すぐにアップされていたのだった。

2024年1月15日月曜日

お正月に見た映画

 

いつものことだけれど、暮から正月にかけては見たいテレビがほとんどない。というより、 NHKのBSが一つになってから、それまではつけていた食事中も、テレビを消したままにすることが多くなった。テレビはこのまま無用のデカ物になりかねない。そんなふうに思うことが多くなった。それでも2日と3日は箱根駅伝を長時間見た。青山学院の独走で、今一つ面白くなかったが、正月が来たと思うことはできた。

もっとも1日に起きた能登の地震の後は正月番組を潰して地震情報ばかりになった。「津波が襲う危険があるので早く逃げてください」とくり返し放送していたが、全国放送で長々やる必要があるのか疑問に思った。それに被災地だって、テレビが映るのかどうかわからない。そうしたら、突然の羽田空港の航空機衝突事故である。正月から大変なことが起こって、明けましておめでとうどころではなくなってしまった。

potter1.jpg"・薪割り仕事は終わったし、代車では遠出をする気もないからと、久しぶりにアマゾンのプライム・ビデオを見ると、『ハリー・ポッター』がすべてフリーで公開されている。で、毎日2本ほど見ることになった。1作目の『ハリー・ポッターと賢者の石』は1997年に出版されている。作者のジョアン・ローリングが極貧生活の中で書き上げた作品は、児童文学の枠を超えて世界中で読まれ、その後2007年までに7冊が出版された。総発行部数は6億部を超えたそうで、日本でも3000万部近く売れているようだ。

で、映画だが、一言で言えば、これは「ハリー・ポッター」の成長物語である。孤児のハリーが12歳の時に、魔法使いの家系に生まれていることを告げられ、寄宿制の魔法学校に入ることになる。さまざまな魔法を覚え、いくつもの事件に出くわして、何とか解決して大人になっていく。最初は12歳だったハリーも、だんだん成長して。最後は子どもを持つ父親になっていた。映画は2001年が初作で最後は2011年だから、12歳だった少年も映画と一緒に成長していったのである。こういう物語はいつまで経っても歳をとらないことが多いから、原作を読んだら、だいぶ違うのかもと思った。

beast1.jpg"・アマゾン・プライムにはローリングが脚本を書いた『ビースト』の三部作もあった。このうち2本は以前に見たが、今回また見直した。大人である僕には、こちらの方がはるかに面白かった。暗いお城のような魔法学校が主な舞台だった『ハリー・ポッター』と違って、『ビースト』はロンドンやニューヨーク、あるいはパリが舞台になっているし、魔法を使う動物がいろいろ出てくる。時代も半世紀前の20世紀前半で、今とはだいぶ違う。映像技術にも驚くやら感心するやら。いずれにしても、連日複数の映画を見て、さすがにかなりくたびれてしまった。

『ホビット』や『ロード・オブ・ザ・リング』を見た時にも思ったが、ファンタジー映画の映像技術には本当に驚かされる。残るは『スター・ウォーズ』だが、これもアマゾンでやってくれないかなと期待している。

2024年1月8日月曜日

ビリー・ジョエルが東京ドームでやるそうだ

 



joel1.jpg"もうライブには出かけないが,ウドーからライブの知らせがやって来る。ほとんど興味がないミュージシャンばかりだから、配信停止にしてもいいのだが、面倒だからそのままにしている。先月ウドーからビリー・ジョエルのライブの知らせが入った。1月24日に東京ドームで一回だけのコンサートだというのである。ちょっと信じられない気がしたし、どのくらい客がはいるのか疑問を感じた。

僕にとってビリー・ジョエルは過去のミュージシャンだったから、今でもコンサート活動をしているとは思わなかった。確か21世紀になって活動を休止していたはずで、NHK BS の「街歩き」でニューヨークをやった時に,犬を散歩している彼が映って驚いたことがあった。そんなふうに気ままに暮らしているんだと,その時思ったことを今でも覚えている。

彼は僕と同じ1949年生まれである。1973年に発表した、なぜかハーモニカの印象が強い「ピアノマン」が代表曲だ。この後いくつものヒット曲を出したが、活躍したのは80年代の前半までである。僕はこの「ピアノマン」の他に「オネスティ」や「ストレンジャー」、そして「心のニューヨーク州」など、好きな曲がいくつもある。ただしあくまで,80年代までの人であって、後はほとんど忘れていたミュージシャンだった。

だから、東京ドームでライブをやるということに驚いたのだが、「ウィキペディア」を見ると、日本には1978年以降、何度もやってきていて、東京や大阪、あるいは福岡でコンサートをしている。会場は日本武道館や大坂城ホールの他、東京、大阪、名古屋、札幌などのドーム球場だから、相当の人数が集まっていたのだろう。その日本での人気に改めて驚かされたが、最後は2008年だから15年ぶりということになる。

で、YouTubeでジョエルのライブを検索すると、古い日本公演から割と最近のものまで、いくつも聴くことができた。もう頭は禿げ上がって、恰幅も良くなっているけれども、ステージでは精力的に動き、ピアノのうまさも健在で、声も昔のままだったから、聴き応えのあるものが多かった。昔の曲ばかりだけど、エンターテインメントとして十分に楽しませることはできる。そんな感想を持った。多分、東京ドームでのライブも、満員になって観衆を満足させるだろうと思った。それにしても、最近のライブでも若い観客がけっこういるのは、どうしてなのだろうか。

2023年12月11日月曜日

加藤裕康編著『メディアと若者文化』(新泉社)

 

journal1-246.jpg 「メディアと若者文化」というタイトルは何とも懐かしい感じがする。そう言えばずっと昔に、こんなテーマで論文を書いたことがあったなと、改めて思った。1970年代から80年代にかけての頃だが、自分が若者とは言えない歳になった頃には「若者文化」には興味がなくなっていた。

この本の編著者である加藤裕康さんは、僕が勤めていた大学院で博士号を取得している。ゲームセンターに置かれたノートブックをもとに、そこに集まる人たちについて分析した『ゲームセンター文化論』は橋下峰雄賞(現代風俗研究会)をとって、高い評価を受けた。そんな彼から、この本が贈られてきたのである。

僕にとって「若者文化」は何より社会に対して批判的なもので、メディアとは関係なしに生まれるものだった。それがメディアに取り上げられ、社会的に注目をされると、徐々にその精気を失っていく。典型的にはロック音楽があげられる。そんな意識が根底にあるから、日本における70年代の「しらけ世代」とか80年代の「新人類」、そして90年代以降の「オタク」などには批判的で、次第に関心を薄れさせていった。当然、現在の若者文化などについてはまったく無関心で、そんなものがいまだに存在しているとも思わなかった。

「若者」は第二次大戦後に注目された世代で、政治的、社会的、そしてもちろん文化的に世界をリードする存在として見られてきた。それが徐々に力を失っていく。この本ではそんな「若者論」の系譜が、加藤さんによって、明治時代にさかのぼって、「青年」といったことばとの関係を含めて語られている。そう言えば大学院の授業で取り上げたことがあるな、といった文献やキーワードが並んでいて、何とも懐かしい気になった。

若者文化がメディアとの距離を縮め、やがてメディアから発信されるものになったのは80年代から90年代にかけての頃からだった。「新人類」とブランド・ファッション、「オタク」とアニメがその典型だろう。しかし、2000年代に入ると、メディアは携帯、そしてスマホに移っていき、若者文化もそこから生まれるようになる。あーなるほどそうだな、と思いながら、彼の分析を読んだ。

で、現在の若者文化だが、この本で取り上げられているのは、「自撮りと女性をめぐるメディア研究」や「『マンガを語る若者』の消長」そして「パブリック・ビューイング」に参加する若者の語りに<にわか>を見る、といったテーマである。知らないことばかりだったから面白く読んだが、現在の若者文化とは、そんなものでしかないのかという感じもした。そう言えば、この本には「語られる『若者』は存在するのか」という章もある。そこで指摘されているのは。「若者」に対して語られる、たとえば保守化といった特徴や、それに向けた批判が、この世代に特化したものではなく、全世代や社会全体に現れたものだということである。

そう言った意味で、この本を読んで感じたのは、それで「若者」はいなくなったし、「文化」も生まれなくなったということだった。あるいは、かつては「文化」を作り出す上で強力だったマス・メディアが、スマホやネットの前に白旗を掲げたということでもあった。

2023年11月13日月曜日

4 Non Blonds "Bigger, Better, Faster, M"

 
YouTubeには見聞きした傾向にあわせて並べる機能がある。あるいは、一つ見ると、類似のものが続く機能もある。レディ・ガガのライブをクリックした。曲目は"What's Up?"で、聴いたことがあるいい歌だと思った。それが終わると次に同じ曲で、ピンクやドリー・バートンのライブになって、その後、4 Non Blondsという名のバンドになった。知らなかったから調べると、この歌を作ったバンドで、歌っているのはリンダ・ペリーという名前だった。今度は4 Non Blondsやリンダ・ペリーで検索すると、騒がしいのが多かったが、いくつかいい歌もあった。で、Amazonで買うことにした。

4nonblonds.jpg" 見つかったのは、4 Non Blondsでは1枚だけで、発売されたのは1992年だから、もう30年も前である。"What's Up?"は「どう?」「どうしたの?」といった意味だが、歌の中には出てこない。代わりにくり返し歌われているのは "What's going on?" で、どちらも同じような意味である。調べて見ると、同名の歌がすでにあるから"What's going on?"ではなく、"What's Up?"にしたとあった。

4 Non Blondsはブロンドでない4人という意味で、女三人、男一人の編成だ。女ばかりでやりたかったようだが、いいミュージシャンがいなかったとあった。そんな姿勢と同様、歌詞も男中心の社会を批判する内容だった。「目標に向かって希望の丘を登ろうとしたが、世界が男で成り立っていることがすぐわかった」とあって、こんな社会ってどうなんだ?と繰り返す。リンダ・ペリーの声はハスキーがかってボリュームがあるから、説得力は十分という感じだった。このアルバムのタイトルになっている曲はない。「より大きく、より良く、より早いM(男?」という意味だろうか。

rindaperry.jpg" 4 Non Blondsはこの1枚だけで解散したが、リンダ・ペリーは歌い続けていて、1枚だけアルバムを出している。女の立場からの社会批判という姿勢は一貫していて、収められた歌の中には、他のミュージシャンに提供されたものもあったようだ。実際彼女は、プロデューサーとして何人もの女のミュージシャンをデビューさせてもいるし、ジャニス・イアンやアリシア・キーズ、それにピンクなどとも共作したり、アルバムの製作に関わったりもしているようだ。

彼女はデビュー時から自分がレスビアンであることを公言して活動してきた。活動の拠点がサンフランシスコだということもあって、LGBTの運動を支え、リードする役割もこなしてきたようだ。1965年生まれだから、もうすぐ60歳になる。しかし、最近も歌っていて、その迫力は衰えていない。

2023年9月25日月曜日

ヴァン・モリソンの2枚

 Van Morrison "Moving On Skiffle"
"What's It Gonna Take? "
 

このコラムでは、今年は死んだ人ばかりを取り上げてきて、僕自身も、聴いてきたミュージシャンも、そんな歳になったのだと、改めて気づかされた。そう言えば、新譜もとんと見かけない。そろそろ更新しなければと思っていたら、Youtubeでヴァン・モリソンがベルファストでやったライブを見つけた。Van Morrison - Up on Cyprus Avenueというタイトルで8年前とあるから2015年に行われたものだ。森に囲まれた公園の特設ステージは満席で、その周囲に多くの人が立って聴いている。1時間近いライブを見ていて、ヴァン・モリソンが気になった。

morrison12.jpg" 探してみると、毎年のように新譜を出していることがわかった。このコラムで取り上げたのは21年に出た『Latest Record Project Volume 1』で、コロナ禍でコンサートが禁止されたことに抗議して作られたと紹介してあった。『What's It Gonna Take?』は翌22年に出ていて、全曲がコロナ禍での国の規制や人々の振る舞いに対する批判になっている。このアルバムには賛否両論あったようで、自己中心的で悪質だとする批判や、文化の最近の抑圧を描写しているといった肯定的な評価もあったようだ。確かに、メッセージは直接的で辛辣だが、聴いている限りはいつものモリソン調で軽やかだ。それにしても80歳近いのに元気だと感心した。

morrison11.jpg" そのエネルギーはまだまだ衰えを知らないかのようだ。今年も『Moving On Skiffle』という名のアルバムを出していて、やっぱり軽やかに元気に歌っている。スキッフルというのは50年代のイギリスで流行った音楽だが、もともとは20年代のアメリカで、まともな楽器を持たない黒人たちがタライや洗濯板などを使って始めたものだった。だから音楽的にはごたまぜだったのだが、イギリスでリバイバルしたスキッフルもまた、ブルースやフォーク、カントリーなどが混在する音楽だった。

ただしモリソンはそんな音楽を聴いて成長し、やがて本格的にミュージシャンをめざすようになった。このアルバムは当時のヒット曲を23曲も収めた2枚組みである。いくつかはアメリカのフォークソングとして聴いた曲もあるが、サウンドはいつものモリソン節である。毎年出していることに驚いたが、モリソンの次の新譜が11月発売と予告されていて、次はロックンロールをとりあげた『Accentuate The Positive』だという。自分史を作ろうとしたのか、20世紀のポピュラー音楽を振りかえったつもりなのか。回顧的なアルバムを作るのはすでにボブ・ディランがやっているが、アメリカとイギリスを代表する二人のミュージシャンならではだと、改めて思った。

2023年8月28日月曜日

Xって何?

twitterx.jpg" 「Twitter」が突然「X」になった。何で?と思ったが、ツイート自体に変化はない。それにしても、長いこと馴染んできたロゴが消えて、謎の「X」になるとは。どうせイーロン・マスクの仕業だろうと思って、理由を調べることにした。

「X」はイーロン・マスクがこれまでも好んで使ってきた文字のようだ。彼がPayPalと合併して作った会社が「X.com」で衛星打ち上げ企業は「Space X」、さらにテスラにもモデルXがある。息子の名前にもXを使っているし、最近立ち上げた人工知能のベンチャー企業名も「xAI」だという。そして、単に「X」が好きというのではなく、彼には未来に向けた遠大な計画があるようだ。

 Xは、オーディオ、ビデオ、メッセージング、支払い/銀行業務を中心とした無制限のインタラクティビティの将来の状態であり、アイデア、商品、サービス、機会の世界的な市場を創造します。AIを活用したXは、私たちが想像し始めた方法で私たち全員を結びつけるでしょう
「Twitter」は鳥のさえずりを意味することばを使って名づけられた。日本語では「ピーチクパーチク」で、周囲にうるさくまき散らすイメージだが、どういうわけか「つぶやき」と訳された。「さえずり」は周囲に向けたコミュニケーションのやり方だが、「つぶやき」は独り言で、相手を意識しない。いかにも日本人的な発想で、始まった頃に批判した覚えがある。面と向かったやり取りではなく、独り言をつぶやきあう。もちろん、つぶやきに反応してつぶやくのだが、さえずりよりは発言の力が弱められて広がることになる。発言に対する責任回避のやり方だと思ったものだった。

しかし、「Twitter」が「X」になることで、やがてこのSNSは「さえずり」でも「つぶやき」でもない別のメディアになってしまうのだろう。イーロン・マスクの野心には、そんな危惧も持つ。「X」は、これから彼が経営する他の「X」と名のつく企業と連携させて、よりビジネスに傾斜したものにするつもりだからだ。もうそうなったら、僕には用がないなと思ってしまう。

そう言えば、最近は「Twitter」をチェックすることも減っていたし、「FaceBook」などは、ほとんど見なくなっていた。どっちにしても、自分で書き込むことは、もう何年も前からやめていたが、最近では書き込む人の数もずいぶん減っていた。それに、どちらにしてもCMが多くなって、開けてもうんざりして、ろくに見もしなくなっていたのだ。

ネット上で面白いなと思ったメディアが人気になると、やがて買収されてビジネスの道具になる。その途端にCMが溢れ、面白さが失せていく。YouTubeもCMばかりだし、Amazonプライムも値上げをした。テレビに続いてネットも面白くなくなったら、何を見て毎日を過ごそうか。そんな不満を感じることが少なくない。


2023年8月21日月曜日

iMacのモニター接続で一苦労

 

imac2.jpg" 以前にこの欄で書いたようにiMacが古くなり、システムの更新もできなくなったから、1月にMacBookを買った。その時に、モニターで使っているCinema Displayの方が少し新しいからとMacBookと繋げられるばか高いアダプタも買ったのだが、Cinema Displayの方が壊れてしまった。夜寝る前は何ともなかったのに、朝起きてつけたら反応がない。さあ困った。画面二つで使っているから何とも不便で、新しいモニターを買うことにした。Apple純正のStudio Displayは22万円もするから今回は問題外。ネットであれこれ見て、Iiyamaの27インチを買うことにした。少し高いがAmazonではなく、馴染みの電気屋さんに注文した。

imac3.jpg" 東北旅行をはさんで、モニターが来た。MacBookとはUSBのTypeCで繋がったのに、iMacと繋ぐためには接続のためのアダプタを買わなければならない。iMacの出力はThunderbolt2だからそれをHDMIに変換するコードを買えばいい。あるいはUSBからHDMIでもいけるだろう。と思ってAmazonに二つを注文した。翌日には来て繋いでみたのだが、どちらも反応がない。ネットで調べると、iMacの製造年によって繋がるものとそうでないのがあることがわかった。しかたがないから、iMacは2012年製だからそれにに適合しているものを探して再注文したのだが、やっぱり繋がらない。

Macは30年以上使っているが、こんなトラブルはこれまでにもよくあった。その度にいらいらして胃が痛くなった。またかと思ったがもう諦めよう。そんなふうに考えたのだが、念のためにともう少しネットで探すことにした。そうするとThunderbolt HDMI変換ケーブルで、確かに2012年製のiMacに繋がると画像つきで紹介しているサイトを見つけた。コードはこれまでの黒と違って白色で、丁寧にワンクリックでAmazonで買えるようになっていた。もう一回試してみようかと思ってまた注文。半分ダメだろうと思っていたのだが、接続するとついたではないか。新しいモニターは解像度が低いし、スピーカーはお粗末だが、値段が5分の1だから仕方がない。とにかく、使えるようになって大助かりだった。

imac4.jpg" それにしても、同じアダプターでも繋がるのと繋がらないのがあって、iMacの製造年で違うとは、どういうことだろうか。Appleらしいといえばそれまでだが、こんなトラブルもこれっきりにしてほしいとつくづく思った。いずれにしても、2画面で使うことができるようになったので一安心だ。もっとも、このiMacももう12年目だから、いつ壊れてもおかしくない。その時のためにMacBookをもっと使うようにしようと思うのだが、やっぱり使い慣れた、大きな画面の方を使ってしまう。

2023年7月30日日曜日

旅行者には円安がよくわかるはず

大谷選手の試合を見にロサンジェルスまで行った人たちがYouTubeに観戦記を載せています。おもしろいのは、球場までの乗り物について説明したり、球場内のストアでユニフォームや帽子などを物色したり、食べ物や飲み物を買ったりする様子で、一様に値段の高さに驚いています。

たとえば球場内でのビールの値段は16ドルで、円に換算すると2200円ほどになります。大きいとは言え紙コップ一つですから、買うのを躊躇したりする人も多いです。バイキング形式のレストランは35ドルですから5000円にもなりますし、スタンドで買う食べ物も2000円ぐらいはざらのようです。大谷選手のユニフォームは150ドル前後しますし、帽子だって50ドルもします。入場料を払い、飲食をして、お土産にユニフォームをということになると、一人でも数万円で、家族で行ったりすれば、10万円を超える出費になってしまうのです。

アメリカは好景気が続いていますから、物価の上昇はすさまじいようです。しかし、収入も増えていますから、暮らしている人たちにとっては、それほど驚くことではないでしょう。ところが日本人にとっては円安で1.5倍ほど多く払わなければなりませんし、上がりはじめたとは言え、日本の物価はここ10年以上、ほとんど変わらなかったのです。もちろん賃金だって上がっていませんから、実質的には、ここ数年で、日本人にとってアメリカの物価は4倍にもなったということになります。

逆に日本にやって来る旅行者たちにとっては、日本の物価の安さが大きな魅力になります。何しろ1コインで昼食が食べられたりして、しかもおいしいときたら、いろいろ食べ歩きもしたくなるでしょう。コンビニは24時間開いていて、いろいろな品物が満載です。100円ショップも驚くほどの値段と品数です。

アメリカに住む友人家族が来た時にも、日本の物価の安さが話題になりました。ちょっといいとか面白いと思ったものを次々と買って、こちらは驚くやら呆れるやら。コロナ前には中国人の爆買いが話題になりました。それをインバウンドによる景気回復などと言って喜んでいていいのかと思いました。

もちろん、裕福な外国人観光客目当てに、ばか高い値段をつけるといったこともあるようです。河口湖周辺のホテルや旅館でも、1泊4、5万円といった料金を付けるところがあります、他方でコンテナを改造した宿泊施設なども増えて、観光客も様々になっています。毎週通うスーパーのレジの人と話をすると、外国人の客が増えているようです。素泊まりの安いところに泊まって、食事はスーパーで調達。若い人たちにとっては、安く旅行が楽しめることでしょう。

最低賃金がやっと1000円を超えたといったニュースがありました。最近の物価高で食事も満足にできない人が増えていると言われています。外国人には安いと驚かれる品物も、収入がさほど増えない人にとっては、最近の物価高で死活問題になっているようです。税収をどうやって増やすかばかり考えている政府にとっては、目に入らない存在なのでしょう。

2023年1月16日月曜日

新しいmacBookを買った



imac1.jpg" 今使っているiMacは2012年製だから、もう10年以上になる。もちろん、まだ十分に使えているが、昨年からシステムの更新ができなくなって、いまでも"Catalina"のままである。マッキントッシュのシステムはその後3回も変わっていて、最新のものはMacOS13の"Ventura"になっている。そろそろ買い替えたほうがいいかなと思って、MacBookを購入することにした。さて何にしようかと大いに迷った。

何度も書いているが、僕が1989年に最初に勝ったMacはSE30で、それ以来ずっと、Macばかりを使っている。おそらく4、5年ごとに買い替えてきたから10年も使ったのは今のiMacが初めてである。熟成したということか進化の速度が鈍化したということか。もっともiMacは当時最速のものでメモリーも32MBでハードディスクも3TBもある。

imac2.jpg" で、選んだのは14inchのMacBookProである。iMacにしなかったのはThunderboltのディスプレイがあって、古いiMacも使うとすると大きな画面を三つ並べなければならなかったからだ。ディスプレイはMacBookと繋いで使うことにして、iMacは主に映画を見たり、音楽を聴いたりする時に使おうと思っている。

新しいMacBookProはメモリーが16MBでストレージは2TBだ。10年前のiMacよりは落としているが、もうハードな仕事はしないからこれで十分だと思った。そう言えばソフトもAdobeもマイクロソフトも買うのをやめてしまったし、必需品だったプリンターもほとんど使わなくなって、壊れたあと買っていないのである。

例によってだが、初期設定やデーターの転送には苦労した。「移行アシスタント」を使えば簡単だろうと思ったのだが、これがあまりに遅い。12時間かかると出たから朝までつけっぱなしにしたがまだ終わらない。やっと終わったと思ったら、言語がフランス語しかない。どうしようもないからシステムを再インストールすることにした。そうすると半日かかって移行したデータがすべて消えている。もう泣けてきたが、バックアップしたハードディスクを接続させて、一つ一つデータの移行をやった。それでまた一日。

ところで、円安のためにAppleがずいぶん値上げをした。その意味ではもっと早くに買っておけばと後悔したが、たまたま年始のセールでギフトカードがプレゼントされて、値上げされた分だけ安くなった。それにしても、パソコンはずっと研究費で買ってきたから、退職後の身としては、ずいぶん高い買い物をしたという気持ちになった。仮にこれが10年持つとして、次もまだパソコンを買う気になるだろうか。などと考えたりもした。そういう歳になったとつくづく思う。

2022年11月28日月曜日

新聞購読やめようかな?

 

毎朝、新聞をトイレで読む。もう何十年も続けてきた習慣だが、読みたい記事がほとんどないと感じることが多くなった。安倍政権に押さえつけられ、忖度してろくな批判もしない。そんな態度に見切りをつけて、長年購読してきた朝日新聞をやめて毎日新聞に変えたのは3年ほど前だった。少しはましな記事があるかなと思っていたのだが、やっぱり物足りない。

大臣を務める政治家の不祥事が続いているが、それを記事にしたのはほとんどが週刊誌だ。新聞は国会で問題になってから後追いする。記者の数が桁違いに多い新聞は一体何をやってるんだ、と言うことが多くなった。おそらく記者が取材をしても、記事にならないことが多いのだと思う。で、優秀な記者が次々辞めていく。僕はそんな経過でフリーになったジャーナリストの発言や記事をネットで聞いたり読んだりすることが多くなった。(→「ニュースはネットで」

たとえば、オリンピックにまつわる疑惑は、安倍元首相が凶弾に倒れ、重石がとれたことによって活発化した。その検察の捜査について、新聞は大きく取り上げようとはしなかった。それは新聞大手がこぞってオリンピックのスポンサーになったからだった。これはもちろん前代未聞のことで、そんなことをすれば、問題が起きても批判しにくくなるのは明らかだった。「オリンピックは電通の、電通による、電通のためのイベントである。」これは本間龍が書いた『東京五輪の大罪』の結論だが、どの新聞も電通批判などまったくしていない。もうぐるになっているとしか思えないのである。その電通にやっと検察が入った。どこまで行くのか楽しみが増えたが、新聞には期待していない。

実際、新聞社はどこも購読者数を減らしているようだ。当然、経費削減を実行しているわけだが、購読している毎日新聞では、今年から地方面が山梨単独から長野・静岡と一緒になった。おそらく支社の規模を小さくして、記者も減らしたのだろうと思う。隣接県とは言え、馴染みのなさは否めないから、読み飛ばすことが多くなった。とは言え、県域紙に変えようとは思わない。

もちろん、紙媒体としての新聞が凋落傾向にあるのは地方紙も一緒だし、世界的な現象でもある。アメリカでは大手の新聞社がネットに乗り換えて成功しているようだが、日本では、その点でも遅れている。毎日新聞は購読していればネット版も読むことができるが、特にアクセスしようとは思わない。ネットでなければできないものがほとんどないからだ。

僕は一応、メディア論を研究テーマの一つにして、大学で講義などもしてきたから、新聞とは最後までつきあわなければいけないかな、と思っている。しかし、読みごたえのなさがあまりにひどいから、こんな気持ちもいつまで続くのやらと考えてしまう。


2022年8月29日月曜日

安倍の蓋が取れて出た汚物

 

安倍元首相がいなくなって自民党が大混乱に陥っている。岸田首相は打開策として内閣改造をしたが、いつもなら上がる支持率が逆に急落してしまった。それもこれも、安倍によって隠されてきた汚物がどっと噴き出してしまっているからだ。中でも特に醜悪なのは旧統一教会との関係である。内閣改造は旧統一教会と関係ある議員を外したはずなのに、新しい閣僚にもまた多くの関係者がいて、かえって逆効果になったのである。

しかしそれにしても、自民党と旧統一教会の関係の根深さには驚かされる。この教会の信者は公称では50万人を超えているが、選挙での組織票では10万票程度だと言われている。それほど多くはないが、当落線上にいる議員に集中的に集めれば、当選が可能になる数ではある。今回の参議院選挙では比例では井上義之、東京地方区では生稲晃子に集めて二人とも当選したと言われている。で、それを指示したのが安倍だったというのである。

このような手法については、安倍が最初に首相になった時にも使われたようだ。小泉純一郎が5年務めた後の首相の座をめぐって戦われた自民党総裁選挙で、当時は本命でなかった安倍が勝ったのは、自民党員による票が大きかったと言われている。党員になるためには年額4000円を納めるだけで、それを2年続ければ選挙資格が得られるから、安倍は統一教会の信者を多数党員にして総裁選に臨んだというのである。だとすれば、統一教会との関係はすでに15年以上にもなる。しかし第一次政権は短命だったから、「世界平和統一家庭連合」に名称変更が認められたのは、第二次安倍内閣発足後の2015年になった。

安倍が倒れて蓋が外れた影響は、検察にも及んでいる。オリンピックの組織委理事だった高橋治之が、スポンサー契約をめぐって衣服メーカーAOKIとの間にあった贈収賄容疑で逮捕された。しかしこれは入り口に過ぎず、オリンピック招致でアフリカに提供された賄賂や、さらには神宮再開発計画などについて検察は自民党の現職議員、それも大臣や首相経験者にも捜査の手を向けはじめているといった情報もある。オリンピック招致に積極的に動いた安倍や石原元東京都知事はすでに故人だが、まだ元気な人たちは戦々恐々の思いだろう。

嘘を平気でついた安倍はまた、国の統計数字をも改竄していたようである。国土交通省は2013年度から20年度にかけて34.5兆円統計不正を行っていたことが報じられた。アベノミクスによるGDPの拡大を政策に揚げた手前、それが実現したかのように見せかけようとした疑いが持たれている。これはもちろん安倍本人がというのではなく、官僚の忖度によるものである。果たして同じことが他の省庁ではなかったのか。疑念は尽きることがない。

記録や書類の改竄はすでに森友加計桜問題でも明らかである。都合の悪いことは隠せ、直せ、騙せ、知らんぷりをしろといったやり方や態度が、安倍政権下では日常化していたと言わざるを得ない。旧統一教会と政治家の関係もまたその一つだが、これから一体何が出てくるのか。安倍が溜め、蓋をして隠していたことが次々明るみに出ているのに、岸田首相はまだ国葬をやるつもりでいる。手遅れにならないうちに中止の宣言をしないと、政権が倒れる事態になるのは目に見えている。

2022年8月15日月曜日

国葬なんてとんでもない

 

安倍元首相が亡くなってすぐに、岸田首相が国葬にすると言いました。耳を疑うことばでしたが、今のところ行われる予定のようです。戦後の国葬は吉田茂以来ですが、安倍晋三に一体どんな功績があったと言うのでしょうか。功などはなくて罪、それも大罪ばかりだったと言えるでしょう。そのことを確認するために、この場で書いたものを挙げてみました。(ブログで安倍アベと検索すれば、すべてを読むことが出来ます。)
・厳冬の時代へ(2014/1/2) ・NHKはAHK(2014/2/3) ・自滅解散に追い込まねば(2014/12/8) ・こんな選挙は無効にすべきだ!(2014/12/15)
・メディアの翼賛体制構築を批判する声(2015/2/16) ・メディアの自由度(2015/4/6) ・「ダブル・スピーク」乱発と無関心(2015/5/18)
・空恐ろしい「アベ」の時代(2015/5/25) ・無責任体制の極み(2015/8/17) ・世論操作の露骨さ(2015/12/7) ・2015という年(2015/12/28)
・2016という年(2016/2/8) ・中立公正とは政府に従うこと(2016/2/15) ・桝添イジメで隠されたもの(2016/6/20) ・NHKは大罪(2017/5/29) ・卑劣な解散に怒りを(2017/9/25) ・立憲民主党に(2017/10/30)
・政権が倒れない不思議(2018/3/12) ・最後まで嘘の安倍政権(2020/9/14) ・テレビは政権の広報機関になった(2020/10/5) ・拝啓菅総理大臣様 (2021/9/6)
・安倍元首相の死で見えてきた闇 (2022/7/18) ・ニュースはネットで(2022/7/25)
安倍の功績として言われるのはアベノミクスと外交ですが、日本の経済がこの10年にどれほど落ち込んだかは、円安と賃金安、GDPの低下、それに日銀の政策破綻で明らかです。彼は国会で100回以上の嘘をつきましたが、その間におきた森友加計や桜問題などで政治を大混乱させました。国会の軽視や官僚の堕落、そしてメディアへの圧力など、あげたらきりがないほどです。

頻繁な外遊でばらまいたお金は途方もない額になっています。防衛費の倍増の多くは、アメリカの言いなりで約束した武器の購入費に当てられます。その武器の多くは実際に役に立つのかどうか、わからないものが多いのです。プーチンとも何度も会いましたが、北方領土は結局帰ることがない状態になってしまいました。台湾有事は日本有事などと発言して、中国の脅威を煽っていましたが、中国や韓国との関係を悪化させたのも、彼の外交政策が原因でした。

「今だけ金だけ自分だけ」といった風潮を招き、浸透させたのも彼の言動によるところが多かったでしょう。結局は地位や金がモノを言う。社会や他人がどうなろうと自分さえよければそれでいい。これこそ安倍政治が招いた風潮で、そんな態度が政治や経済、そして社会のトップにいる人たちに共有され、それに忖度する下の人たちに蔓延してしまっているのです。

ですから、彼が凶弾に倒れたのは自業自得だと言えるかもしれません。銃を自作してまで殺そうと思った山上容疑者の思いは、その成長過程で味わった苦悩で十分に理解できるものでした。その後に発覚した安倍と旧統一教会の関係、多数の自民党議員との癒着と、それに対する言い逃れを聞いていると、日本の政治も落ちたものだとあきれるばかりです。岸田首相は慌てて内閣改造をやりました。統一教会に関連する議員を排除するといいましたが、新しい閣僚の中にもごろごろいます。

世論調査では国葬に対する支持は半数を割って反対より少ない状況です。おそらく支持の数はもっと減ることでしょう。それでも国葬を強行すれば、それは日本という国自体の葬儀になるでしょう。旧統一教会が韓国で集会を開き、安倍の追悼をやりました。各国から要人も出席し、トランプのメッセージもあったようです。もうこれで十分ではないかと思いました。

2022年7月25日月曜日

ニュースはネットで

 
安倍元首相が銃弾に倒れてから、テレビはもちろん、新聞の論調に強い違和感を持つようになった。一番大きかったのは旧統一教会の名称である「世界平和統一家庭連合」を伏せていたことだった。ネットではとっくに明らかにされているのになぜ匿名のままで報じているのか。安倍や自民党に忖度しているとしか思えない情けない姿勢にうんざりした。

ネットではその間に、山上容疑者がフリーのジャーナリストに送った手紙や、彼自身のTwitterの書き込みなどが紹介され、その分析を詳しくする人も現れた。たとえばYouTubeでよく視聴している「一月万冊」というサイトでは、管理者の清水有高と元朝日新聞記者の佐藤章が、Twitterに書き込まれた山上の長大な文章を読んで分析していた。

彼が育つ中で経験した父や母、そして祖父との関係、そして母親が入信した旧統一教会のこと。そこから「世界平和統一家庭連合」教祖の暗殺を決意し、その狙いが安倍に代わったことなどが詳細に紹介されていて、この出来事が一時の思いや狂気の仕業などではなかったことが、よくわかった。ちなみに山上は自分がネトウヨで自民党支持であることを明言している。

山上の手紙は共同通信から配信されたが、すぐに削除されたし、Twitterヘの書き込みも凍結されてしまったようだが、マスメディアはほとんど言及していない。山上容疑者の精神鑑定をやるという警察発表がそのままコメントなしに新聞記事になっていたが、彼が正気で、極めて冷静に熟慮した上で犯行に及んだことは、Twitterの書き込みを読めば明らかである。

ネットでは旧統一教会から続く自民党を中心にした国会議員との関係が指摘されている。安倍、麻生、菅といった歴代首相はもちろん、高市、下村、稲田、高村等々の要職経験者が数多く挙げられていて、自民党はまるでカルト党かと疑いたくなるほどである。もちろん一部のメディア、たとえば週刊誌やタブロイド紙も追求しはじめているが、新聞やテレビは未だにここへの追求にはしり込みしたままである。

他方で、安倍の国葬についてもネットでは批判や反対運動の報道が目立っている。世論調査が得意な新聞社はなぜ安倍の国葬について是非を問う調査をしないのだろうか。安倍と統一教会との関係が祖父の岸から続くものであること、その思想の中に統一教会や日本会議と共通する部分があまりに多いことなどについて、大新聞は書く気がないようである。そして国葬自体を問題化するキャンペーンなども見受けられない。

このように、最近では、マスメディアよりはネット・ジャーナリズムの方が、はるかに信頼できるようになっている。ここで取り上げた「一月万冊」の他に、「デモクラシー・タイムズ」や鮫島浩の「Samejima Times」など、毎日のようにチェックしているものが少なくない。これらのサイトに共通しているのは、新聞社を辞めてフリーで仕事をしている人が多いことだ。その辞めた理由を聞くと、新聞社がいかにダメになっているかがよくわかる。

2022年7月4日月曜日

デジタル化できない手続きにうんざり

 従兄弟が死んで仮の喪主になった時に、火葬の手続きの書類で難儀をしました。直筆で印鑑が必要だというので書類を郵送してもらい、届くとすぐに書いて送り返したのです。また、生命保険の受け取り人が僕になっていて、それを受け取るための手続きも直筆の書類でした。しかも免許証とマイナンバーのコピーを添付しろということでした。保険金自体は入金と同時に後処理を任せた甥っ子に振り込みましたが、その手続きはパソコン上で瞬時にすることができました。

退職をしたこととコロナの影響で、東京にはほとんど行かなくなりました。これからも特に用事がなければ行かないでしょうから、東京の金融機関に預けてある定期預金を解約しようと思いました。ところが解約は口座を作った支店に直接出向かなければできないのです。定期預金とは言っても利息は0.001%といったもので、ほとんど増えてはいません。ところがその解約にクルマで出かければ、高速道路料金とガソリン代で1万円近くかかってしまうのです。あまりに阿呆らしいので、いつになるかわかりませんが、何か用事ができた時についでに行くことにしました。

近くの金融機関で少額づつ貯めていた定期預金を解約してひとつにまとめることにしました。すぐにできるだろうと思って出かけたのですが、解約には一口ずつ書類を書く必要がありました。日付は令和で、住所は郡から、口座番号や預金番号を書いてハンコを押す。そんな作業を何枚もしなければなりませんでした。ハンコはどこでも買える三文判ですが、きれいに押してないものはすべてやり直しをさせられました。で、待つこと数十分。次にお金をまとめた新しい定期預金のための書類を書いて、また十数分。1時間以上もかかる作業でした。

こんな面倒な手続きは他にもたくさんあります。その多くはデジタル化すれば、家にいてパソコンやスマホでできるはずのことばかりです。直筆で記入といったって筆跡鑑定をするわけではないですし、押印といっても印鑑登録をしたものでなくてもいいのです。今までの慣例だからという以外に何の理由もないでしょう。マイナンバーを記入して、それを証明するカードや紙をコピーして添付するのは、一体何のためなのでしょうか。そもそもマイナンバーは今のところほとんど役に立たないもので、懸命の宣伝にもかかわらずカードは一向に普及していないのです。

こういう経験をすると、日本のデジタル化の遅さをつくづくと実感します。デジタル庁を作ったってうまくいくはずはないのです。ひとつひとつデジタル化できるところから地道に実現していく。そんな姿勢が国にも自治体にも企業にもまったくなかったのです。もちろん、今まで通りのアナログのやり方がいいという人はいるでしょう。けれども、アナログとデジタル、その二本立てでやれば、そういう人たちに無理やりデジタル化を強制する必要はないのです。

日本の経済が凋落した最大の原因が、このデジタル化の失敗にあったことは明らかです。率先してデジタル化を進め、ソフトを開発すれば、ハードの需要も増して、日本の半導体産業がこれほど衰退することはなかったでしょう。その遅れに気づいた時には中国はもちろん韓国や台湾にも負けて、立ち直れないほどになってしまったのです。さらに不幸なのは、政治家も官僚も企業家も、こういった現状に危機感を持っていないことにあります。ですから、日本はますます落ちていく。煩雑な手作業の手続きにうんざりしながら、こんな文句を言いたくなりました。

2022年3月14日月曜日

戦争報道とSNS

 
ロシアのウクライナ侵攻がますます激化している。攻撃対象が民間施設や住居に及び、逃げ惑う人に銃弾が浴びせられる。ウクライナ軍の抵抗が強くて、思うように進撃できていないと言われているが、伝えられてくる戦況は、攻撃されるウクライナの惨状や地下室に避難する人々、あるいは隣国に逃れた人々の悲嘆に暮れた表情ばかりである。

また、ロシアを非難するデモや、ウクライナを支援する動きが世界中に広まっていることも大きく報じられている。デモはロシア国内でも起こっていて、多くの逮捕者が出ているが、プーチンはロシア国内での外国の報道機関の取材に強い制限を課して、ロシア国内の状況が外に伝えられないようにした。もちろん、ロシア国内では外と通じるSNSも封鎖されているから、ロシアの人々にはウクライナの現状はよくわからないだろう。その効果か、支持率が10%も上がって7割を超えたようだ。

このような情勢に伴って、ロシア国内で営業をする外資系の企業が、店を閉じたり、製品の出荷を止めたりするケースが相次いでいる。SWATによって通貨の交換も停止されて、ルーブルのレートも暴落した。ロシア国民にとっては買いたいモノがない、買いたくても値段が暴騰して手が出ない、といった状況になっているのだろう。侵攻が長引けばますますひどいことになるから、ロシア国内での不満が爆発することになるかもしれない。プーチンはそれへの対応に、撤退企業の資産を国営化したり、リースで使用している飛行機を返さないつもりだという。

戦争そのものはロシアの一方的な攻撃だが、こと情報戦争ではウクライナの方がはるかに攻勢に見える。ゼレンスキー大統領はキエフに留まって世界中にウクライナへの支援を呼びかけている。自撮りのビデオがSNSに載せられ、それが各国のテレビでも報じられる。ロシアはもちろん、ウクライナのIT環境にも攻撃して、一時はインターネットが使えない状況に陥ったが、すぐに普及して、多くのところで使える状態になっているようだ。

このような情報発信を指揮する副首相のミハイロ・フェドロフは31歳で、SNSへの広告サービス会社を起業し、大統領選ではゼレンスキーのアドバイザーを務めた。GAFAとも積極的に関係して、VISAやMasterCardのロシアからの撤退をツイートして実現させた。おそらく、ネットの管理やウクライナから発信される情報について、うまくコントロールしているのだろうと思う。その意味では、ロシアの原発占拠は電力を切ってインターネットを遮断することにあるのかもしれない。

戦争が長引けば、ウクライナ人の死傷者はますます増えるだろう。だから早くやめて欲しいと思う。けれども、ウクライナはソ連はもちろん、それ以前にも占領された歴史を持ち、多くの人々が殺された戦争を経験している。それだけに、やっと勝ち得た独立を手放すことなど望まないはずだと言われている。

プーチンは同様の戦術で、これまでにもチェチェンやジョージア(グルジア)、シリア、あるいはクリミア半島に侵攻してそれなりの成果を挙げてきた。その度にロシア国民はプーチンの成果を讚えたのだが、今回は様相が異なっている。戦況の悲惨さを当事者がネットに載せれば、それがリアルタイムで世界中に拡散されていく。ネットとSNSの力を今さらながらに実感した。

2021年11月29日月曜日

AmazonはもうCDを売る気がないようだ

 Amazonのトップ・ページがAmazon Basicsという名称になって、書籍とCDの欄がなくなってしまった。最近あまり買わないせいもあるのかもしれないが、その他の欄にも見つからないから、お目当てのものを検索して探さなければならなくなった。対照的に、プライム会員なら本は読み放題だし音楽は聴き放題だという知らせがやたら目立つようになった。ところが、そこでは読みたいものも聴きたいものも、ほとんど見つからない。そう言えば、あなたにお勧めの本やCDとか、新刊本やニュー・アルバムを知らせてくることもなくなった。Amazonは本とCDを売る店として始まったのに、もう初心を忘れてしまったのかと思いたくなった。

僕はインターネットを1995年から始めている。最初は大学の研究室でしか使えなかったが、すでにAmazonは本とCDを売る店を構えていて、洋書や洋楽を手に入れるのに重宝した。特に英語の専門書は、洋書専門店から注文して1ヶ月以上待たなければ届かなかったし、円レートも高く設定されていて、ずいぶん高額なものになっていた。それが、その時々のレートで買えて、航空便で注文すれば1週間とかからずに届くようになった。同じことはCDにも言えたから、大学から毎年付与される研究費の多くが、Amazonでの本とCDの購入に使われることになった。

そんなふうにしてAmazonを四半世紀に渡って使い続けてきたが、AmazonはGAFAとして世界有数の企業に成長した。ぼくも最近では、本やCDだけでなく、探し物を検索してはありとあらゆるものを買うようになり、コロナ禍以後は特にその傾向が強くなった。Amazonは客の購入履歴に基づいて、それぞれページを作るようになっているから、本やCDが目立たなくなったのは、大学をやめてから、僕があまり買わなくなったせいなのかもしれない。しかしそれにしても、本とCDは目立たなすぎる。

ここにはもちろん、書籍もCDも売れない時代になったということもあるだろう。モノそのものではなくデータで購入することが当たり前になったこともあるが、それ以上に本もCDも売れなくなっている。ごく一部のベストセラー作家や人気のミュージシャンを除けば、文筆業や音楽活動だけで生計を立てることが難しくなっている。コロナ禍で講演会やライブ活動もできなくなったから、文化的な衰退はこれからますます顕著になるだろう。

Amazonは一部の売れ筋だけではなく、街では見つけることが難しいレアなものでも見つけられることが売り物だった。「ロングテール効果」などと言われて、僕もずいぶん便利に使ってきた。スマホの普及で、その効果自体はますます一般的になっているようだが、Amazon自体の方針は、逆に売れ筋のものに特化させるという方向に変わっているのかもしれない。Amazonのトップ・ページの変更は、何よりそんな違和感を持たせるものだった。