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2025年1月13日月曜日

MLBのストーブリーグについて

 

メジャー・リーグが終わった後はしばらく大谷ロスでした。ほとんどの試合の中継を見ていたのですから、午前中から昼にかけての時間に隙間ができてしまったのです。自転車に乗るには午前中は寒いし、午後は観光客で走りにくい。おまけに雨ばかりで庭の作業もままならない。そうなると、暇の時間を潰すのは、YouTubeでの大谷選手やドジャースの振りかえりと、MLBのストーブリーグということになりました。

大谷選手は昨年末に10年、7億ドルでドジャースに移籍しまた。で、右肘の手術後なのでDHとしてしか出場できなかったのですが、54本のホームランと59個の盗塁で、去年に続いてMVPを取りました。通訳による口座の使い込みなどがあり、大谷本人も違法賭博を疑われたりしたにもかかわらずの活躍でしたから、驚くやら呆れるやらで、まさに恐れ入谷の鬼子母神でした。

そんな活躍ぶりも一通り見れば、後はフリーエージェントやトレードでの選手移動ということになりますが、その金額の大きさには今さらながらに呆れるばかりでした。その筆頭はヤンキースからメッツに移籍したファン・ソト選手の15年、7億6500万ドルでした。ソト選手は25歳ですから15年も分からないではないですが、大谷選手超えの金額で、しかも後払いなしというのです。彼は確かに打者としては優れていますが、守備は下手だし足も速くない。何より投手などは絶対にできないのですが、その選手がなぜ大谷選手の契約を上回るのか。富豪のオーナーだからな、と納得することにしました

しかし、この額が基準になって、その後に続いた契約がどれも大きなものになりました。インフレが加速するばかりですが、そうなると金満球団しかよい選手は取れないと言うことになります。ドジャースやヤンキースやメッツがますます強くなって、貧乏球団はますます弱くなる。それでは野球がつまらなくなるばかりですが、豊かな球団は贅沢税など全く気にしない勢いです。ちなみにドジャースの2024年度の税額は1億300万ドル(160億円)でトップで、メッツとヤンキースで税の84%を占めました。

日本人の選手で今年メジャーに行く佐々木朗希選手は、もうすぐ行き先が決まりますが、25歳以下ということで契約金や年俸には制限があります。大谷選手の時と一緒ですが、ロッテに移籍金が少額しか入らないので、25歳になってから行けという非難が起こりました。裏切り者呼ばわりは野茂選手の時と同じですが、違うのは佐々木選手は最初からメジャーに行く希望を持っていたことです。大谷選手のように日本シリーズで優勝したり、MVPを取ったりといったことがなかったし、故障がちだと言う不安はありますが、きっと活躍すると思います。

来月になればキャンプも始まります。投手復帰の大谷選手について、今年はサイヤング賞などと勝手なことをいう人が多いですが、イニング制限があって、プレイオフで力を発揮するために、監督は投げるのは5月になってからだと言っています。盗塁も制限して、一年を通して怪我なく活躍して欲しいと思います。



2024年12月2日月曜日

火野正平と北の富士

 

火野正平の「こころ旅」と北の富士の相撲解説は、数少ない見たいテレビ番組でした。二人とも健康の理由で番組を休んでいましたが、相次いで訃報が知らされました。本当にがっかりという気持ちになりました。

kokorotabi.jpg 「こころ旅」は東日本大震災直後の2011年から始まりました。彼の歳は僕と同じですから60歳を過ぎてからのスタートでした。実は僕も同じ頃から自転車に乗りはじめていて、彼が乗る格好いいロードバイクがうらやましくて、ちょっと安いイタリア製を買ったりもしました。日本中を走り回る「こころ旅」とは違って、僕が走るのは毎回同じコースでしたが、この番組がしんどくても続ける支えになっていたことは確かでした。

番組はコロナ禍でも続いていましたが、次第に走る距離が短くなり、下り坂からスタートしたり、登り坂はタクシーを使ったりして、相変わらず20km程を走っている僕には、ちょっと物足りない感じもしていましいた。70歳を過ぎてかなりくたびれてきているから、そろそろ辞めるのではとも感じていましたが、今年も春からスタートしました。ところが数回やったところで腰痛で中止になってしまったのです。で、秋はピンチヒッターによる継続となって、突然の訃報でした。

いやいやもうびっくりで、なぜ?とつぶやいてしまいました。死因は明かされていませんが急なことだから癌だったのかも知れません。僕は火野正平が走る限りは自転車を続けようと思っていましたが、さてどうするか。体力の衰えは自覚していますが、まだまだ走る気力はあります。もっとも観光客が殺到して、平日でも道が混雑しますから、ここのところしばらく走っていないのです。空いているのは早朝ですが、もう寒いしなー、と言い訳ばかりです。

大相撲は大の里などの若手が台頭して面白くなってきました。で、今場所も毎日見ましたが、解説者の北の富士の訃報が飛び込んできました。テレビに出なくなってずいぶんになりますからもう復帰はしないだろうと思っていたのですが、亡くなってしまったと聞くと、やっぱりがっかりという気になりました。彼の解説は時にやさしく、また辛辣で、誰にも何にも邪魔されずに思ったことをそのまま話すところがおもしろかったです。好きな力士もはっきりしていて、特に身体が小さくてがんばっている炎鵬や宇良を応援する口調には同調することがしばしばでした。

北の富士は横綱で、引退後は九重部屋の親方になって千代の富士と北勝海の二人の横綱を育てました。しかし、千代の富士が引退すると彼に部屋を譲り、親方も辞めてNHKの解説者になりました。もうちょっと権力欲があれば理事長になったかも知れなかったのにと、その欲の無さには好感が持てました。相撲取りには珍しく格好が良く、和服が似あっていました。欲の皮ばかりが突っ張っている連中が目立つ世の中では、彼の清々しさがいっそう目立っていたのです。女性にはずいぶんもてたようですが、生涯独身でした。

そういえば火野正平も女性にもてたと言われています。「こころ旅」でも別嬪さんを見つけると、まるで磁石に吸い寄せられるように近づいて、すぐに楽しくおしゃべりをしてしまう。握手をしたり肩を組んだり。それが中年の図々しいおばさんになると腰が引けていたのがおもしろかったです。彼もまた権力欲が皆無。そういう人が絶滅危惧種になりました。

2024年11月4日月曜日

ドジャースがワールドシリーズ制覇!

 

ドジャースが優勝した。大谷選手にとって7年目にしてやっと手にするチャンピオンリングである。MVPを2度も取ったのに勝ち越しすらできなかったエンゼルスから移籍して1年目の快挙だった。プレイオフに出るまで最多の試合を経験した選手だったというから、彼の喜びは大変なものだろうと思う。しかし、彼についてはまた別に書くことにして、今回は彼やドジャースに対するメディアの対応について考えてみたいと思う。

アメリカでは野球はすでに一番のスポーツではなく、アメリカン・フットボールやバスケットの後塵を拝していると言われている。オールスター・ゲームやワールドシリーズでもテレビの視聴率は低く、それも年々下がっていると言われてきた。それが今年はドジャースとヤンキースのワールド・シリーズになって、視聴率も大幅に回復したようだ。大谷とジャッジというMVP有力選手が出ることもあって、事前の盛り上がりは例年とは違うものになった。

それは日本でも同様だった。日本シリーズがワールドシリーズと同じ日程で行われたのだが、NHKの7時のニュースではワールドシリーズの結果を取り上げて、同時刻に行われていた日本シリーズには全く触れなかった。MLBの中継は主にNHKのBSで行われたが、ワールドシリーズについてはフジテレビが地上波で中継した。ライブは午前中だったから、フジテレビは夜のダイジェストで再放送をしたようだ。ところがそれが日本シリーズと重なって、NPB(日本野球機構)はフジテレビの取材パスを没収したようである。

ただでさえ陰に隠れてしまっているのに、さらに邪魔をされた。NPBはそんな仕打ちに腹を立てたのだと思う。何しろフジテレビは日本シリーズの別の試合を中継しているのである。フジテレビと言えば、大谷選手の新居を探して、場所が特定できるような放送をして、ドジャースから取材拒否を宣告もされている。そこには、どんな影響が出ようと視聴率さえ取れればいいんだといった態度があからさまなのである。当然だが、大谷選手はフジテレビのインタビューを拒否したようだ。

とは言え、大谷選手の人気がテレビの視聴率やCMに大きな影響を与えていることも事実である。何しろ彼は10年で7億ドルの契約を結んだが、その大半は後払いで、山本選手などに払うお金を融通したのである。それは彼が日本の企業などと契約した額が、彼が手にする年俸を超える程だったからだと言われている。そしてスポンサー契約はドジャース自体にももたらされて、広告や入場者数やグッズの売り上げなども大幅に増加したようだ。

恩恵は、ドジャースが遠征したチームにももたらされている。普段は閑古鳥の弱小球団でも、大谷目当てに満員になった試合がいくつもあったからである。普通は他球団のグッズなど売らないのに大谷選手だけは例外にする。そんなこともあったようだ。チームは勝って欲しいけど、大谷選手のホームランは見たい。そんなアメリカでも一番人気の大谷選手が活躍したドジャースがワールドシリーズに出て優勝したのだから、その効果は来シーズンにももたらされるのだろうと思う。

ドジャースの試合を見て大谷選手の活躍を堪能したが、他方でお金にまつわる話題がつきなかったことも印象に残った。ワールドシリーズのチケット高騰や50x50を達成したボールのバカ高値などあげたら切りがないほどだった。ちなみに、ワールドシリーズの視聴者数は日本では1試合平均1210万人で過去最多だったが、同様に、台湾、カナダ、メキシコ、ドミニカでも最多だったようだ。


2024年8月19日月曜日

パリと長崎

 

パリオリンピックが終わりました。やっとという感じですが、東京よりは少しだけテレビやネットで見ました。日本人選手の活躍やパリの町並みが見えることもあって、マラソンの中継には男女ともつきあいました。面白かったですが、男子の中継が民放で、CMにしょっちゅう中断されたこと。女子はNHKでしたが解説の増田明美がのべつまくなししゃべり続けて、音を消して見たことなど、不快に思うこともありました。それ以外の競技の大半は夜中でしたから、テレビで放送したのは大半が録画で、日本人選手が活躍したものばかりでした。ちら見が多かったですが、日本人選手が活躍したとは言え、改めてスケボーやブレークダンス、あるいはクライミングなどにはオリンピックの種目としてはどうかといった違和感を持ちました。

選手としてはほとんど見かけませんでしたが、開会式に船上から手を振るイスラエルとパレスチナの選手と国旗が気になりました。大会開催中もイスラエルのガザ爆撃は続いていて、数百人がなくなりました。イラン大統領の就任式典に出席を予定したパレスチナの最高幹部がテヘランで暗殺されて、イランがイスラエルに報復するというニュースも流れました。なぜIOCはイスラエルの参加を拒否しなかったのでしょうか。そもそもオリンピックは古代ギリシャで行われていたものを復活させてできた大会です。都市国家同士が戦争をしていても、その期間だけは休戦にして、競技で競い合う。それが都市国家間の軋轢を減らす役目も果たしたのです。

だとしたらIOCは参加を認める代わりに、開催中の停戦を条件にするぐらいの提案はできたはずです。それを受け入れないなら参加を認めない。それは参加を認めていないロシアと参加しているウクライナの双方にも出すべき条件だったでしょう。パラリンピックも合わせれば1ヶ月ほどの停戦期間ができたはずで、その間に戦いを終わらせる話し合いもできたかもしれないのです。露骨な商業主義に堕したオリンピックになお、開催する意味があるとすれば、今行われている戦争を中断し、それを機会に終わらせる役目以外には考えられないはずなのです。

八月になると毎年行われている広島と長崎の平和祈念式典ではイスラエルとパレスチナの出席をめぐって大きな違いが出ました。広島はイスラエルだけ、長崎はパレスチナだけの参加を認めたのです。この違いに対して、アメリカやイギリスなど日本を除く G7の駐日大使が長崎への参列を拒否したのです。理由はウクライナを侵略しているロシアとイスラエルを同列に扱うべきではないというものでした。しかし、これはおかしな話です。原爆を投下したアメリカのどこに、こんな横柄な態度を取る権利があるのでしょうか。それに、ハマスのイスラエル攻撃に対する報復だと言って、その何百倍もの死者を出してなお、一方的な攻撃を繰り返しているイスラエルを擁護する根拠がどこにあるのでしょうか。

長年にわたってユダヤ人を差別し、虐待してきたヨーロッパの国々にとっては、イスラエル擁護はその罪滅ぼしなのかも知れません。しかしイスラエルという国をパレスチナの地に勝手に作ったことを発端として、その後の紛争とパレスチナ人が味わってきた苦難の責任は先進欧米諸国にこそあるのです。この問題に対しては部外者である日本が、イスラエルに対して批判的な態度を取るのは、極めてまっとうなものなのです。その意味では、批判されるのは広島市の方であるはずです。

あるいは、ロシアも含めてどの国の参列も認めて、そこで戦争や紛争を中止する話し合いの場にするといった姿勢を取ってもよかったかも知れません。イスラエルやロシアがそれを拒否したら、それは拒否した国の都合になったはずなのです。オリンピックと平和記念式典の二つから感じたのは、本来的な意味からはどちらも遠くなってしまったということでした。

2024年8月5日月曜日

またTVはオリンピックばかりだ


オリンピックが始まって、テレビはどこも五輪一色になった。ただでさえ見るものがないと思っていたのに、TVをもうつける気もしない。それでもニュースなどを見れば、いやでもオリンピックを見させられることになる。そんな消極的な姿勢で見ていて気づいたことがいくつかあった。一つは前回の東京から登場したスケボーである。日本人選手が活躍してメダルをいくつも取ったためか、よく報道された。

まず気になったのは、きらきらネームの選手が多いことだった。吉沢恋(ここ)、中山楓奈(かな)、赤間凛音(りず)、開心那(ひらき・ここな)、小野寺吟雲(ぎんう)、白井空良(そら)、永原悠路(ゆうろ)などで、何と読むのかわからない名前ばかりだった。そう言えば、東京五輪でも歩夢とか勇貴斗、碧優、碧莉、椛などの名前があった。名前は親がつけるから、きらきらネーム好きはスケボー好きの人に共通した特徴なのかと妙な感心をした。

次に首をかしげたのは、その競技そのものだった。スケボーに乗って階段の手すりに飛び移り、数メートル滑って着地するというだけのもので、これが一つの種目として成立していることが不思議だった。おそらく難しいのだろうし、その中にいくつも技が使われているのだろうが、わずか数秒の試技は、町中で見られる若者の単純な遊びにしか見えなかった。そもそもこんな種目をオリンピックでやる意味がどこにあるのか。この大会から始まったブレークダンスをふくめて、若者を惹きつけるためにIOCが見つけた苦肉の策だと言いたくなった。

他方で野球は参加国が少ないという理由で不採用になった。次回のロサンゼルスでは復活してMLBの選手も参加できるのではと言われている。パリでの不採用はおそらく、球場をいくつも作らなければならないことが最大の理由だったのだと思う。昨年のWBCにヨーロッパの国も参加していたが、フランスという名は見かけなかった。それに比べればスケートボードやブレークダンスの会場は、ほとんどお金をかけずに作ることができる。低予算でそれなりに人気を呼べる種目で、これまでオリンピックに興味を持たなかった人を引きつけることができる。IOCのそんな目論見が露骨に感じられるのである。

低予算といえば開会式も型破りだった。国立競技場を新たに作ったのにコロナで無観客になった東京と違って、パリではセーヌ川の両岸に特設の席を作り、各国の選手が遊覧船に乗って手を振るというものだった。歌や寸劇、あるいはファッションショーなどが、橋の上や岸辺に作られた舞台で演じられた。詳しく見たわけではないが、フランスの歴史、とりわけ革命などがテーマになって、陳腐だった東京とは対照的だったという意見も耳にした。各競技に使われる会場もほとんどが既存のもので、その意味でも、予算規模は東京とは比べ物にならないほど小さなものであるようだ。

東京オリンピックは当初の予算の何倍も浪費した大会で、汚職が事件になり、疑惑が渦巻いたひどいものだった。今回のパリ五輪を契機に、その違いを取り上げて欲しいものだが、そんな気骨のあるメディアは日本からは消えてしまっている。そもそも東京五輪にどれほどのお金がかかり、その詳細がどうだったかは、未だに隠されたままなのである。しかも同じ失敗をまた大阪万博でやろうとしている。メダルを取って大はしゃぎのテレビをうんざりしながら見ていて思うのは、選手たちの頑張りとは対照的な、日本という国のダメさ加減ばかりである。

2024年5月6日月曜日

いろいろと忙しい日々

 

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一昨年鹿に食べられたカタクリが、今年は少し回復してきたのに、また、鹿が食べに来た。夜だったからよく見えないはずだが、おそらく同じ鹿で、前に食べたところを覚えていたのだろう。これで一番密生したところが、きれいになくなってしまった。150近くまで増えた花が100ほどになって、今年はまた50ほど。がっかりしてすっかり落ち込んでしまった。

forest200-4.jpg道路から家までの道には5本の桜があった。花があまりつかなくなって数年前に一本伐採したが、家に一番近い富士桜も、枯れ枝が増えて花の数が少なくなった。そこで枝打ちをして養生をした。道に一番近い大島桜は元気だが、間の2本は花も少なかったから、これも切ってしまおうと思っている。後にまた桜の木を何本か植えるつもりだが、さて何にしようか。

今のストーブを使いはじめて12年経って、扉のガラスが割れたことから、分解掃除をしてもらうことにした。還元装置を支えるセラミックボックスの痛みがひどいのでこれを交換し、ダンパーにゆがみが出ているというので、それも換えてもらった。屋根に上って煙突掃除もしてもらって、15万円ほどかかった。大きな出費だが、これで、あと10年ほどは安心して使えるだろうと思う。

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前回のこのコラムで書いたように、隣地を購入した。交渉や手続きに手間取って、伐採する予定の木には葉っぱが茂ってしまった。実際に伐採するのはまだ先だからすっかり緑に覆われてしまうだろう。切るのは松が8本で、大きな栗の木が1本、それに桜の木も切ってもらうつもりだ。切った木はそのまま置いていってもらうつもりだったが、どれだけの量になるのか心配になってきた。栗と桜は薪になるが、松はどうしようか。トラック一台分ぐらいは持っていってもらおうかと思いはじめている。その後には林檎の木でも植えて実のなるのを楽しみにしようかなどと考えているが、鹿や熊を呼ぶだけかも知れない。

forest200-5.jpg こんなふうに、今年は人とのつきあいや交渉事が増えている。パートナー以外には誰にも会わないし、話もしない。コロナ禍の後、そんな日々が続いていたが、最近は社会との接触が増えている。湖畔に出れば、うんざりするほどのクルマや人混みだし、駅に行けば、ここはどこの国かという気持ちになる。だからまた、引きこもりがちにもなってしまう。
とは言え、野球でがんばっている孫を応援に1年ぶりで東京に出かけた。連休中だったから、下りの中央道は大渋滞だったが、上りは空いていて、いつもより早く着いた。ずいぶん上手くなって、キャッチャーをやり、ヒットも打って試合に勝った。

2024年4月8日月曜日

大谷騒動とメディア

 

メジャーリーグが始まったが、今年は今一つ、楽しめていない。理由は言うまでもなく、水原一平通訳が起こした出来事だ。振りかえれば、大谷選手の移籍の動向以来、ネットもテレビも大騒ぎだった。確実な情報がほとんど出ないから、憶測記事が氾濫して、それがドジャースに決まるまで続いた。ロスからトロントに向かう飛行機に大谷が乗っているのではといった記事が出て、それが間違いだったと訂正されて、大谷獲得を狙う球団やファンを大慌てさせたりした。

このあたりのニュースはネットの方がはるかににぎやかだったが、入団会見から山本投手のドジャース移籍、そしてキャンプ開始になると、テレビのワイドショーはもちろん、ニュース番組までが、大きく取り上げたから、もういい加減にしろよと言いたくなった。で、結婚していることの突然の発表である。その日は国会で政倫審の中継があったが、NHKは放送中に大谷選手結婚のニュースをテロップで流したのである。実際、国会もすっ飛ぶ話題で、その日の報道番組は、その話で持ちきりだった。

ohtani5.jpg 結婚相手は「普通の日本人の女性」という以外明かされなかったが、ネットではすぐに、バスケットの選手ではないかといった記事が載るようになった。それがほぼ確実だとわかっても、テレビはそのことを明示しなかった。大谷選手の機嫌を損ねてはいけないという配慮だったのだろう。開幕戦は韓国のソウルでパドレスとおこなう。それに向けて飛行機に乗る画像を大谷選手がインスタグラムに載せ、そこに結婚相手も写されていた。で、田中真美子さんという名前であることが明らかになった。

ここまでは、大谷選手のメディア操作は見事だったが、初戦のダルビッシュや松井との対決で盛り上がった後、一夜明けて、大変なニュースが飛び込んできた。水原通訳がドジャースを解雇されたという目を疑うような見出しだった。ギャンブルにのめり込んでいて、大谷の口座から450万ドルあまりを盗んで返済に充てていたというのである。そこから後の騒ぎは、もう大谷の手に負えるものではなく、野球の試合そっちのけで、さまざまな憶測記事が氾濫することになった。

アメリカに戻って、大谷選手が事の経緯を自ら発表すると、日本ではそれを信じて納得するという論調が多かった。しかしアメリカでは邪推も含めて、批判的な記事が多く出た。水原元通訳についても、経歴にあった大学に在籍した記録がないといった記事が出て、実は通訳としても有能ではなかったなどとも言われるようになった。ギャンブルにのめり込んだのは大谷で、水原はスケープゴーツにさせられたのではといった憶測も出て、アメリカではもう手に負えない感じだが、日本ではメディアもネットも、大谷を批判する発言は目立っていない。

アメリカに戻ってからも、彼はすべての試合に出て、ベンチでも明るく振る舞っている。しかし、信頼していた相棒が裏切りという形でいなくなって、その一端は彼にも責任があるのだから、心中は穏やかではないだろう。ホームランが出なくたって無理もない。そう思って見ていたら、9試合目でやっと出た。するとシカゴに遠征した試合でもう一本。日本人選手4人が出るシリーズで、しかも4人とも大活躍だった。もっともっとやってほしいが、あまりに派手になると、ジャパン・バッシングが起こるかも知れないといった心配もしてしまう。大谷選手にまつわる報道には、嫉みや人種差別を感じるものが少なくないからである。


2024年3月11日月曜日

「山を歩く」は意外なこと

 

miyake1.jpg 大学院の頃からの友達が、突然冊子を送ってきました。題名は『山を歩く』で、思わず、「え!どういうこと?」と口走ってしまいました。何しろ、彼が山を歩くことなどは、まったく想像がつかないことだったのです。昨年の春先のことです。で、今年も2023年の山歩きの記録が届きました。僕より三つほど若いですが、70歳の山歩き初体験ということでしょうか。しかし、月一回の割で歩いているようですから、もうすっかり板についたことだろうと思います。

友達は三宅広明さんといいます。大学院を出た後、学校の先生として淡路島や神戸で働いて、退職後に山歩きに目覚めたのですが、きっかけは山歩きの好きな友人に誘われたことだったようです。明石に住んでいますから、歩くのはもっぱら近隣の山で、僕にはほとんど馴染みがありませんでした。けれども、初めて山を歩いて、木々や花々にふれ、生き物の気配を感じ、高いところからの景色を眺めて感激している様子は、十分に想像することができました。

山歩きはいつも三人で行っているようです。気心が知れた仲間なんでしょうね。連れ立って何かをすることが苦手な僕にはできないことだと思いました。僕はいつもパートナーと一緒に山歩きをしてきましたが、彼女の体力が衰えて、前には登ったところにも行けなくなりました。誰か連れがいたら、まだまだ行きたいところはあるのにと、うらやましく思いながら読みました。

ちなみに、去年歩いたのも羽束山(三田市)、編妙の滝(神崎郡)、天下台山(相生市)。摩耶山(神戸市)など家から日帰りできるところがほとんどですが、木曽駒ケ岳に挑戦したようです。もっとも彼以外の二人はアルプスにも良く上る登山家のようで、彼だけが3000mも、山小屋泊まりも初めてだったようです。「よく歩く六甲山が931m、これまでで一番高い山が氷ノ山の1510mという具合。日本アルプスにどんな山があるのやら、どんな景色が見えるのか、全く知らず、関心も持たずにずっと生きてきたわけで」と書いていますが、千畳敷カールの高山植物や、雷鳥のひな、そして山頂に登って見える山々に、大パノラマだといって感激しています。

僕は木曽駒ケ岳はロープウエイで行ける千畳敷カールまででしたが、御嶽山には登りました。だから彼が見た周囲の山の様子は僕にもわかりました。もちろん大噴火で多くの人が命を落とす前のことでした。この冊子を読みながら、息子と登った富士山や、友達だけが登って、僕とパートナーは途中の駒津峰であきらめた甲斐駒ケ岳のこと、そして昨年亡くなった義兄と登った磐梯山などを次々と思い出しました。そのうち彼とも一緒に歩きたいものだと思いました。




2023年12月18日月曜日

大谷選手のドジャース移籍に思ったこと

 

エンジェルスの大谷選手がドジャースに移籍しました。契約は10年で破格の7億ドル。もう引退するまでドジャースでやると決めたのだと思います。ただし、決まるまでの数日は、代理人から箝口令が敷かれたこともあって、憶測記事が氾濫してかえって大騒ぎになりました。日本のメディアも「すごい、すごい」と言うばかりですが、僕はこの経緯について、大きな疑問を持ちました。

ウィンター・ミーティングが始まって、大谷選手がジャイアンツのオラクル・パークに行ったというニュースが入り、その後にブルージェイズのキャンプ地を訪れたと報道されました。ここからトロントが注目されるようになって、カナダドルで10億ドル払うという記事が出て、一気にブルージェイズ有利という様相になりました。しかし、その数日後にドジャースに決まって7億ドルという契約額になったのです。ブルージェイズが出した額とほぼ同じだったわけで、代理人はブルージェイズを出汁に使ってドジャースに契約金の釣り上げを迫ったのかもしれません。

もちろん大谷選手のドジャースに対する気持ちは、今に始まったことではないのです。高校卒業時にメジャーに行くと宣言した時に念頭にあったのはドジャースで、栗山監督に説得されて翻意したのでした。メジャー・リーグに行く時もドジャースとは面談しましたが、ナショナル・リーグにDHがなかったことで、アメリカン・リーグのエンジェルスに決めたのでした。大谷ルールでナショナル・リーグもDH制になりましたから、ドジャースに行くことには、何の障壁もなくなったのです。

だとしたら、もっと早くにドジャースに行くと発表しても良かったと思います。それがなぜ、ここまで時間がかかったのでしょうか。考えられるのは、競合球団を募って契約額をあげようとした代理人の戦略でしょう。契約額は最初は5億ドルだろうと言われていました。右肘靭帯の手術で来年はDHでの出場しかできませんが、それは関係なかったようです。いくつもの球団が名乗り出て5億ではなく6億だと言われるようになり、最終的には7億ドルになりました。

選手の価値をお金で計るのはアメリカでは当たり前のことですから、代理人の手腕は褒められるだろうと思います。しかし、大谷選手はどうだったのでしょうか。もしこの先ケガをして、欠場が多くなったり、成績が落ち込んだりしたら、猛烈なバッシングを浴びることになるのは明らかです。エンジェルスにはレンドーン選手がいて、そのつらさを目の当たりにしていたはずです。決断の裏には、大谷選手の相当の決意があったことでしょう。もっとも大谷選手のことですから、ダメだと思ったら自ら契約を破棄してしまうかも知れません。

大谷選手にとって気がかりだったのは、自分が年7000万ドルももらってしまうことが、ドジャースの選手補強の妨げになるということでした。そこで彼が提案したのは、大半を契約が終了した後に先延ばしするというものでした。何しろメジャーの球団の中で年俸総額が7000万ドルに達しない球団が8つもあるのですから、その額が破格なのがよくわかります。払いを先送りすることで、ドジャースには、もっと選手を取る余裕が生まれましたから、7億ドル払ってもいいだろうということになったのです。ちなみに来年から10年間の年俸はわずか200万ドルということで、これは副収入が5000万ドルもあることから税金対策を考えてのことでしょう。

こんな顛末でしたから、僕はちょっとがっかりしました。すでに強いチームではなく、自分が入ることでプレイオフまで行けるチームを第一に考えるはずですから、僕はオールスター前からジャイアンツが最適だと思ってきました。ジャイアンツも最後まで残っていましたから、サンフランシスコもまたトロント同様にがっかりしていることでしょう。ちょっと興ざめですが、来年からも、彼の出る試合につき合うことにかわりはありません。くれぐれもケガをしないように。そう願うばかりです。

2023年10月2日月曜日

早すぎた大谷ロス

 
MLBのシーズンが終わった。エンジェルスは今年も負け越しで,プレイオフには進めなかった。大谷選手はホームラン王を取り、MVPも確実視されている。WBCの優勝とMVPから始まったシーズンだったが、ハードに働きすぎたせいか、8月後半で力尽きた。毎日のようにゲームを見ていたから、9月中旬の負傷者リスト入り後は、しばらく大谷ロスに襲われた。あまりに華々しい活躍だっただけに,突然の幕引きに,気持ちがついていかなかった。

しかし,そうなるのではという心配はオールスター開け頃から感じていた。彼は6月、7月の月間MVPを獲得したが、チームはけが人続出で、彼にかかる負担は増すばかりだった。打って投げてのハードワークなのに,ゲームをほとんど休まない。試合に出たいという気持ちが強いことはわかっているが,それ以上に,勝つためには休んではいられないという気持ちが強かったのだと思う。しかも,そんな頑張りにも関わらず、8月に入ると,チームはさっぱり勝てなくなった。

大谷選手は7月28日のタイガース戦に,第一試合で完封勝ちした後、続く試合にも出て2本のホームランを打った。しかし,その試合で腰が痙攣して,途中で退場した。完封した投手が次の試合でDHで出るというのは常軌を逸してると思ったが、メディアは大谷の活躍を絶賛した。本人も監督も、水分の取り方が足りなかったといった程度にしか思わなかったのか,翌日からのゲームにも出場した。で、痙攣は次に足に来て、指に来た。それでも彼は欠場せず、8月23日のゲーム後に右腕靭帯損傷となった。

彼の成績は、そのタイガース戦時点で投手として9勝し、38本のホームランを打っていた。脇腹の故障で故障者リスト入りした9月17日までの1ヶ月半で挙げた成績は,投手で1勝、ホームランは5本である。無理がたたっての不振と故障であったことは明らかで、手術したために来年は投げられなくなったのだから,その代償はあまりに大きかったと言えるだろう。選手の健康管理を厳しくしていれば、もっと休みを多くすることができたはずで、エンジェルスの罪は大きいと思う。今年のエンジェルスは故障者続出で野戦病院化してしまったのである。

こんなチームにはもうおさらばして欲しいと思うが,果たしてどうだろうか。来年はどこのチームに行くか。そんな話題が毎日繰り返されているが,相変わらずお金の話ばかりが目立っている。僕は肘の靭帯の手術を2度もした後の彼の選手生命が心配である。太く短くよりも少しでも長く続けて欲しい。大谷選手には,何より自分の身体のことを考えた選択をして欲しいと思わざるを得ない。

2023年7月10日月曜日

大谷報道は疑問だらけ

 大谷選手の活躍が華々しい。ホームラン王どころか三冠王も射程圏内にあるし、投手としても、後半戦の成績次第ではサイ・ヤング賞も可能性がある。まさに無双状態といってもいいほどである。そんな状態だから当然かも知れないが、テレビのワイドショーなどは朝昼夕と「今日の大谷」をやっている。新聞のテレビ番組欄を見る限りだが、他に取り上げるニュースはあるだろうに、何なんだ?と言いたくなった。

そんな喧騒はどうでもいいが、大谷選手についてのニュースで気になるのは、フリーになった時の契約金や年数がどのくらいになるかばかりだ。これはもちろん、アメリカでの発言が多いのだが、5億ドルで10年以上の契約が当たり前といった意見がほとんどなのである。僕はこのような論調に、大きな疑問を感じてしまう。

大谷選手は二刀流をいつまで続けられるのだろうか。それは本人にも分からないことだろう。もし10年以上の長期契約をして、途中で投げられなくなったり、打つ方もさっぱりだったり、大けがをしてシーズンを不意にしたり、ケガで休みがちになったりしたら、すぐに不良債権だと批判されてしまうのである。その見本になる選手はエンジェルスにもいるし、多くの球団に溢れている。

わーわーと大げさに騒ぎ立てて人々の注目を集める。それがメディアやそこで飯を食っている人たちの常套手段であることはアメリカも日本も変わらない。もっとも、人間の価値はお金が決めるというのがアメリカの基準だから、本気にそう思って発言している人も少なくないだろう。しかし、大谷選手は賢いし、お金のためにやっているわけではないと公言しているから、こんな契約はまず結ばないと思う。そもそもエンジェルスと契約する時だって、もう数年経てば高額な契約金と年俸を手にするのに、と言われたのである。

で、彼はエンジェルスとは再契約をしないと僕は思っている。選手同士では仲良く、楽しくやっているが、GMやオーナーをどこまで信用しているか怪しいからである。21年の年俸は、GMの大谷に対する評価が低くて、キャンプまでこじれた。だからMVPをとって手の平返しをしたってもう遅い。大谷選手はそんなふうに思っているのではないだろうか。もちろんプレイオフに勝ち残って、リーグ優勝戦やワールドシリーズに進んだとしたら、話はまた違ったものになるだろう。ただし、残念ながらそこまでの力はエンジェルスにはない。

大谷選手はとにかく、ワールドシリーズまで行って、そこで優勝したいのである。だからここと思ったチームを選択して、3年ほどの契約をするのだと思う。もちろん年俸額は最高だから、払える球団はかぎられてくる。今年の成績を見る限り、ワールドシリーズに行く可能性の高いチームは、ア・リーグならタンパベイ・レイズ、テキサス・レンジャーズ、ナ・リーグならアトランタ・ブレーブスだろう。しかし、これらのチームは戦力が整っているから、おそらく別のチームになるはずだ。自分が加わればもっと強くなり、高額年俸を複数年払える財政基盤があって、自分がチームを代表するスター選手になれる球団を探せばいいのである。

そうなると行けそうな球団はどこか。ジャッジやコールのいるヤンキースやカーショーやベッツのいるドジャース、ゲレーロJr. のいるトロント・ブルージェイズは外れるし、シャーザーやバーランダーがいても勝てない金満メッツは問題外だ。ソトやマチャド、タティスJr.、それにダルビッシュがいても弱いパドレスもダメ。そうなると残る球団はいくつもない。財政基盤がしっかりしていて、スター選手はいないがそこそこ強い。

僕はサンフランシスコかボストンと予測している。もちろんここには希望的観測という側面もある。しかし、もしそうなったら、アメリカのスポーツ・メディアは仰天して大騒ぎすることだろう。とは言え、6月末からエンジェルスは負け続けていて、プレイオフ進出の可能性が消えかけている。何しろトラウト始め故障者続出なのである。トレード話が再燃しているが、これは大谷選手には決められない話だから、どこに行くかは分からない。

2023年5月8日月曜日

一角獣とユニコーン

 

unicorn.jpg" 「ユニコーン」は角の生えた馬のような伝説上の生き物です。力強く勇敢で足が速いということから、一昨年以来、大谷翔平選手の活躍を讚える時の敬称として使われています。ヨーロッパに伝わる伝説上の生き物で,もちろん,実在したわけではありません。しかし、ギリシャの古典文学や旧約聖書、あるいはケルトの民話などに登場する,極めてポピュラーなものでもあるのです。確かに打って,投げて,走ると何役もこなして、しかもすべてが超一流という大谷選手にはふさわしい呼び名かも知れません。とはいえ、日本では馴染みのあるものではなかったので、「ユニコーン」だと言われても,あまりピンと来ませんでした。

その大谷選手は,WBCでの躍動以降、今年も投打にわたって絶好調です。4月の月間MVPは取れませんでしたが、それは投手と打者の二部門に別れているためで、両方で活躍しているのは彼だけですから、総合すれば毎月MVPをとってしまうのだろうと思います。まさに「ユニコーン」ですが、今年も彼のような二刀流の選手が現れてこないところを見ると、これは彼にしかできないことなのかもしれません。フリー・エージェントになってどこに行くのかといったことが連日騒がれていますが、ケガをしないで,このまま元気で活躍してほしいものです。

ところで「ユニコーン」は日本語では「一角獣」と訳されます。それに見合う伝説や物語はありませんが、先週紹介した村上春樹の『街とその不確かな壁』や『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』には壁に囲まれた「世界の終わり」という名の街に住む生き物として登場します。決して強くはなく,むしろ穏やかで弱く,冬には寒さと食べ物の不足で多くが死んでしまうのです。この街に住むためには、街の入り口で影を切り離さなければなりません。その影はやがて衰弱して死んでしまうのですが、「一角獣」がしているのは、その影が持っていた「心」を吸い取ることなのです。

この本を読みながら思ったのは,今の日本の社会そのものではないかということでした。「日本の終わり」という街では、徐々に衰えているのが事実なのに,人々はそのことに無関心です。もちろん,落日の経済大国で、生活が苦しくなっているのは明らかですが、そのことに目を向けないようにすることが、暗黙の了解事項であるかのようなのです。まるで「心」を「一角獣」に吸い取られてしまったかのように見えるのです。

他方で,この「日本の終わり」という街を支配する人たちは強欲で、壁の外に対する敵対心も強烈です。まさにやりたい放題ですが、それを批判する声は挙がりませんし、行動も起きません。こんな状況を見た時に思い当たるのは,「一角獣」とはメディアと教育システムではないかということでした。校則を厳しくして、自由な発言を制限する教育制度や、政権に忖度して、現実を見えないようにしているメディアこそが、人々の「心」を育てないように、失わせるように働いている。「ユニコーン」と「一角獣」が似て非なるものであることに、改めて気づかされた思いです。

2023年3月27日月曜日

WBCが終わって思ったこと

 

wbc1.jpg" WBCで日本が優勝しました。大谷対トラウトで終わるというマンガのような展開でした。まさに大谷の、大谷による、大谷のためのWBCだったと思いました。自分が望むヒリヒリするゲームを経験したでしょうが、見ている者にとっても、ハラハラドキドキや感嘆の連続で、見ていてぐったり疲れてしまいました。このままシーズンに入って、今年こそはポスト・シーズンでも活躍できるよう望むばかりです。

WBCはMLB(メジャー・リーグ機構)が主催する大会ですが、メジャーの各球団はこれまで決して積極的ではありませんでした。チームの看板選手を出して、ケガでもされたらかなわない。そんな考えで、これまでは一流選手の出場はかぎられてきました。しかし、今回はトラウト選手がいち早く参加を宣言して呼びかけたこともあって、多くの選手が参加する大会になりました。その意味では、日本の優勝は今回こそが真の世界一だといえるかも知れません。

そんな大活躍の日本チームの表の主役は大谷選手でしたが、裏で支えたダルビッシュの献身的な努力があったからこそ、というのも間違いないと思います。彼はパドレスのキャンプに参加せずに、宮崎キャンプに最初から参加しました。そして若い選手たちに投球の仕方はもちろん、練習の仕方や食事のとり方など、質問されれば丁寧に答えることを繰り返しました。国の代表であることに緊張する選手たちに、そんなことなど気にせず楽しくやろうと呼びかけ、食事会を何度も催したようです。

しかし、ダルビッシュ選手は最初からWBCに積極的だったわけではありません。彼は再婚ですが、オフシーズンには子供の世話やら家事をパートナーと五分五分でやっているようです。しかもその生活に十分満足しているのだとも言いました。それを犠牲にして参加を決めたのは大谷選手の強い誘いだったようです。参加するなら最初からとことんつきあってやる。そんな決断は決して簡単ではなかったと思います。栗山監督は、でき上がったチームを「ダルビッシュ・ジャパンだ」と言いました。

予選から決勝戦まで十分すぎるくらい楽しみましたが、中継をアマゾンがやってくれたのは大助かりでした。テレビはテレ朝とTBSが中継しましたが、我が家ではどちらのチャンネルも見られなかったのです。なぜメジャー中継をやるABEMAではなくアマゾンだったのか。理由は分かりませんが金銭的なものだったことは推測できるでしょう。ただ、スマホやパソコンからテレビに繋ぐと音声だけしか聞こえなかったのは残念でした。番組によってそうなるのはよくありますが、どういう規制が働いているのでしょうか。

WBCの収益金はすべてMLBに入ります。どれだけのお金かは発表されていませんが、その大部分がMLBに行って、満員の東京ドームで予選を行った日本にはわずかしか返ってこないようです。収益金の多くを野球の世界振興のために使うといった大義名分があるとも聞いていませんから、このことははっきりするよう、日本のプロ野球機構は問いただすべきだと思います。日本チームの選手は強いメジャー選手にも気後れすることなく立ち向かって王者になりました。プロ野球機構の従順さはもちろんですが、日本の政治家や官僚たちにも、今回の日本チームの頑張りを見習って、アメポチといった屈辱的な姿勢を改めるきっかけにしてほしいと強く思いました。もちろん、そんなふうに思う政治家や官僚はほとんど皆無だろうと思っての願いです。

2022年10月10日月曜日

大谷選手のMLBが終わった

 

コロナ禍でどこにも行けなかったから、一日の中心は大谷選手の試合を見ることだった。期待以上の活躍で、投手としては166イニング投げて15勝9敗(4位)、防御率2.33(4位)、219三振(3位)、奪三振率11.87(1位)であり、打者としては打率.273(25位)、35本塁打(4位)、95打点(7位)、ops.875(5位)であった。今年もMVPをもらって当然という成績だが、62本のホームランを撃ったジャッジ選手の方だという声が大きいようだ。

打者としての規定打席数はもちろん、投手としても規定投球回数をクリアしたのは20世紀以降のMLBの歴史上初めてのことである。ホームランのアメリカンリーグ新記録よりはるかに価値のある成績だと思うが、アメリカの世論はジャッジにMVPを取らせようとしている。代わりに別の賞を作ったらという意見もあるが、それなら投手にサイヤング賞があるのだから、打者の方に新設したらいいのだと思う。もっとも、今年もMVPが大谷なら、これからしばらくは大谷ということになってしまうから、今年は避けたいと言う人が多いのかもしれない。

エンジェルスは今年も負け越しでプレイオフには行けなかった。高給取りがケガで出場できなくて、マイナーから挙がった選手や未契約のベテラン選手を獲ってやりくりしたのだから、勝てるわけはなかったのである。腹が立って途中で見るのを止めたこともあったが、必死にプレイしても、成績が悪ければ落とされたり、首になったりする厳しさはよくわかった。

メジャーに初登場した選手の多くは親や兄弟等々を呼ぶが、そのプレイに一喜一憂する様子が映されたのはほほ笑ましかった。もちろん、最初は頼りなかった選手が徐々に活躍して、メジャーに定着したというケースもあって、来年のエンジェルスは、今までよりはかなりましになるのでは、と思ったりしたが、去年の今頃もそんなことを思ったような気がする。

ところで、大谷選手は3000万ドルで来年度1年だけの契約をエンゼルスと交わした。今年が550万ドルだから445%増ということになる。ソフトバンクの選手全員に匹敵するというからすごい額だと思う。ただし、これでも安くて実質価値は5000万ドルを超えるという人もいる。他方で大谷がそうだったように、メジャーに挙がった選手は、どれほど活躍しても6年間は低い額でおさえられてしまうという現状がある。そしてマイナーの選手は、家を持つことはもちろん、食事も十分とれないほどの低賃金でプレイしなければならない。格差社会の露骨な見本と言えるだろう。

エンジェルスはオーナーが売却することを発表した。現オーナーがディズニー社から買った時の額は1億8400万ドルで、現在の価値は30億ドルを超えると言われている。所有しているだけで15倍以上に膨れ上がったのだが、スタンドが満員になることが稀だったのになぜ儲かるのか、不思議な感じがした。テレビの放映権が大きいと言われているが、エンジェルスの試合をほぼ毎試合中継したNHKやABEMAは一体いくら払ったんだろう。お金にまつわる話は、気分のいいものではなかった。

ともあれMLBが終わって、これから来年の春まで、一日をどう過ごすか。僕にとっては小さくない問題である。

2022年6月27日月曜日

MLBを見ながらアメリカ野球の本を読む


フィリップ・ロス『素晴らしいアメリカ野球』(新潮文庫)


フィリップ・ロスの小説は、以前に『プロット・アゲンスト・アメリカ』 を取り上げたことがある。第二次世界大戦でアメリカが参戦しなかったら、その後の世界や社会はどうなったかという内容で、ユダヤ系アメリカ人である少年(作者自身)を主人公にしたものだった。極めてリアルな話で、読みながら、国のリーダーの政策次第で世の中が一変することを、ブッシュやトランプのやったことに重ね合わせて想像したりもした。面白かったから、別のものを読もうと思って探したら『素晴らしいアメリカ野球』があった。しかし、そのめちゃくちゃ加減にあきれて、途中で読むのをやめてしまっていた。もう一度読もうかと思ったのは、大谷選手の活躍を毎日応援しながら、メジャーリーグについて、おかしなところをいくつも感じていたからだった。

roth3.jpg 『素晴らしいアメリカ野球』は、第二次世界大戦中のメジャーリーグの1年を展開したものである。ただし、リーグは現実にある「アメリカン」や「ナショナル」ではなく「愛国」である。その中で中心になるのは「マンディーズ」というニュージャージー州のルパートという名の港町を本拠地にする球団だが、戦時下で兵隊などを送りだすために、港近くの本拠地の球場を陸軍省に接収され、一年間アウェイで試合をやらなければならなかった。その設定自体がめちゃくちゃだが、史上最高といえた投手が登場して、完全試合どころかすべて三球三振で終わると思ったら、最後の一球を審判がボールと判定したことで、投手が逆上して試合を放棄し、永久追放になるといった話になる。

アウェイで試合を続けるマンディーズは連戦連敗だが、レギュラー選手が兵役でいなくなったためにかき集めた集団だから勝つはずもないのである。片腕や、片足が義足の選手、また小人をピンチヒッターにして四球を稼ぐ戦術をとったりするが、まるでバスケットのようなスコアで負け続ける。ところがシーズンが終わりになる頃に突然連勝しはじめる。そして永久追放されたはずの元選手が来シーズンの監督になるというのである。しかもこの選手は、永久追放された後ソ連に渡って、スパイの訓練を受け、アメリカを混乱させるために、メジャーリーグを崩壊させる使命をスターリンから受けて帰国したのであった。この選手はギルガメッシュという名だが、そんな自分の経歴を野球愛に目覚めて暴露して、メジャーリーグの球団のオーナーや選手の中にソ連のスパイが入り込んでいたことを明かすのである。

スターリンがメジャーリーグにスパイを送り込んだのは、野球がアメリカの本質だと判断したからにほかならない。野球を潰せばアメリカも衰退する。それほど野球はアメリカ人にとってなくてはならないものだった。しかし、この本が書かれた1970年代の前半は、アメリカはベトナム戦争に負け、そのために経済が落ち込み、戦後の勢いが失せはじめた時期だった。戦後に人気を獲得するようになったアメリカン・フットボール(NFL)やバスケットボール(NBA)に押されてメジャーリーグの人気にも陰りが見えはじめていた。すでにアメリカ人にとって野球が心のよりどころではなくなりはじめていたのである。

この小説の題名は『素晴らしいアメリカ野球』だが、原題は「The Great American Novel」で、素晴らしいというよりは「最も偉大なアメリカ小説」というタイトルがついている。確かにプロローグでは、アメリカの文学史には必ず出るマーク・トウェインの『ハックルベリー・フィン』やハーマン・メルヴィルの『白鯨』、ナサニエル・ホーソンの『緋文字』が話題になり、それを登場したヘミングウェイがこき下ろすといった内容になっている。で、偉大なアメリカ小説のテーマは野球でなければならないということになるのだが、ロスはその後に続く野球物語をひどいどたばた劇にしたのである。

大谷選手の活躍を楽しみに欠かさず観戦しているが、コロナがおさまったのにスタンドが満員になることはめったにない。弱小チームの試合ではそれこそ閑古鳥といった状態だが、選手の年俸はうなぎ登りで、その収入減はテレビだという。しかしその視聴率も年々減少傾向にあって、選手も米国ではなく中南米の選手が主流になっている。アメリカだけのローカル・スポーツが多国籍化して、日本人選手が活躍するのは楽しいが、アメリカ人にとってはマイナー化しつつある。ロスはそんな現状を半世紀前に予測していたのかもしれないと思った。

2022年6月13日月曜日

エンゼルスと大谷の浮き沈み

 
今年のエンジェルスは出だしから快調だった。昨年ほどというわけには行かないが、大谷もそれなりに投げ、また打った。それが5月の後半からおかしくなり14連敗ということになった。それまで機能していた勝ちパターンが崩れ、勝っていても逆転される、点を取ればそれ以上に取られる、投手が好投している時は点が取れないというゲームが続いた。何しろ連敗中に1点差で負けた試合が半分もあったのである。

見ていてがっかりしたり、腹を立てたりの連続で、だんだん見る気もなくなったが、選手たちの焦りやいらだちは大変なものだっただろうと思う。もちろん、その理由には主力の故障やスランプがあった。去年もほとんど休んだレンドーンや、絶好調だったウォードが故障し、トラウトは30打席もヒットが出ないほど落ち込んだ。大谷も打ち込まれて防御率を1点以上落とし、ホームランもさっぱりという状態だった。でマドン監督の解任である。

実績のある名監督も手の施しようがないといった様子だったが、僕は連敗の責任のひとつに監督の采配、とりわけ投手交代があったと思った。勝ちパターンが崩れても、打たれた投手をくり返し勝ちゲームで使って失敗した。好投している若手の先発投手をピンチになったからといってすぐ交代させた。その度に、「何で?」と呟いた。もっともこのような投手起用は去年も感じていて、ダグアウトから出て行く時に、「誰か後ろからおさえろよ!」と言いたくなったことが何度もあった。

大谷選手が去年ほどホームランを撃っていないことについて、不振だとかスランプだと言う意見が多い。しかし、僕は去年の前半ができ過ぎであって、最近の調子は去年の後半と同程度だし、このまま行けば30本以上のホームランを撃つことになるのだから、それで十分じゃないかと思っている。投手としては、とんでもなくすごい投球で相手をねじ伏せたかと思うと、四球やホームランで早々点を取られる試合もある。差し引きすれば去年並のできだから、不満を口にするのは期待のかけすぎというものだ。

大谷選手はプレイオフに進出して、ワールドシリーズにも出たいと考えている。エンゼルスの今年の出だしは、その期待に応えたものだったが、これからはどうなるのだろうか。連敗阻止のために力投し、ホームランも撃って久しぶりにチームに勝利をもたらした。まだ3分の1を過ぎたところだから14連敗したら、14連勝したらいい。試合後のインタビューで彼は、そんなふうに応えていた。そうまで言わなくても、5割を回復させれば、後は終盤まで、食らいついていければと思う。

こんなわけで、最近の僕の一日は大谷選手の試合を見ることを基本にしている。昼前からの開始で晴れていれば、試合が始まる前に自転車に乗るし、試合が早朝なら、自転車は午後ということになる。梅雨になって、自転車も山歩きもできない日が増えたから、試合を見る以外することもない日もある。負けてばかりでは、そんなテレビも見る気がしなくなってくる。

2022年2月28日月曜日

MLBが始まらない!

 MLBは昨年12月にロックアウトをしたまま、未だに解除をしていない。選手会との交渉が暗礁に乗り上げたまま、解決の見通しが立たないからだ。MLBと選手会はいくつもの取り決めをしていて、それを5年おきに改訂する決まりになっている。それがうまく妥結できないのだが、こんな状況は1995年以来のようだ。ただしこの時は選手会によるストライキで、今回のMLB側のロックアウトとは違っていた。

野茂投手がドジャースと契約して、開幕が1ヶ月遅れてデビューをしたのがこの年だった。ファンの批判が強くて、観客減が大きかったが、それを食い止めたのはトルネード旋風を起こした野茂投手の活躍が大きかったと言われている。野茂はこの年、オールスターの先発投手になり、新人王を獲得した。最初は批判ばかりを浴びせていた日本のメディアも、大活躍に手のひらを返して、称賛の声をあげるようになった。

そこから27年経って、メジャーリーガーも通算で70名ほどになり、今年も多くの選手が開幕を待っている。しかしキャンプができないままであり、今年からメジャーをめざす鈴木誠也選手は、まだ所属球団が決まっていない。このままでは開幕が遅れ、試合数が減ってしまうと危惧されているが、何よりファンからの批判が大きいようである。

両者の隔たりは大きく二つある。一つは選手の年俸総額に対するもので、たくさん払う球団に課せられる贅沢税の制限額に関している。年俸を抑えたいMLBともっとあげろという選手会の対立だが、ファンの批判は、この金持ち同士のマネー・ゲームに集中している。何しろ一年で数十億円も稼ぐ選手が続出して、大谷選手は50億円にもなるのではと噂されているのである。

もう一つはマイナーからメジャーに上がった選手に課されている6年間縛る契約で、どんなに活躍しても、この間の年俸があまり上がらないという点である。大谷選手は今年5年目だが、年俸は6億円ほどで、フリーエージェントになるのは来期後である。同様の扱いを受けている選手にはゲレーロJr.やファン・ソトといった選手がいる。確かに成績に見合う報酬を得るまでにかかる時間が長いと思うが、そもそもスター選手の報酬が高すぎるし、球団が儲かっているのだとしたら、入場券などが高すぎるのである。

他方で、MLB はマイナーチームの削減を実施して、多くの選手を解雇している。マイナー選手の報酬や待遇を少し良くしたという面はあっても、現実には経費の削減を実施していて、マイナー球団の減少は、小さな町にある「おらがチーム」を奪っているのである。MLBはテレビの放映権収入が増えているのに、その資金をマイナー・リーグに使う気はないようだ。これでは砂上の楼閣になってしまうが、目先の利益に目がくらんでいるのだろうか。

僕は今年も大活躍するだろう大谷選手の動向が気になっている。おそらく早く始まってくれとウズウズ、イライラしていることだろうと思う。試合数が減れば勝利数もホームラン数も減ってしまう。オフに帰国してもテレビ番組にはほとんど出ず、トレーニングに明け暮れていたという。試合数が15試合以上減れば、彼がフリーエージェントになるのが一年遅れて、30歳になるから長期の高額契約が取れなくなるだろうと心配する記事がある。しかしそんなことは、彼にとってはどうでもいいことで、マネーゲームを面白がるメディアの発想でしかないのである。

2022年2月21日月曜日

本間龍『東京五輪の大罪』(ちくま新書)

 
ryu1.jpg 東京オリンピックにうんざりした思いがまだ残っているのに、今度は冬季の北京オリンピックである。NHKは国会中継を無視してまで、全競技を放映しているし、民放のアナウンサーは相も変わらずメダルばかりにこだわって絶叫している。スポーツが金もうけや政治や国威発揚の道具となっていることをこれほどあからさまに見せられると、オリンピックはもうやめるべきだと、声を大にして言いたくなる。

本間龍の『東京五輪の大罪』は、東京五輪が「電通の電通による電通のためのオリンピックだった」と結論づけている。何しろ電通は「招致活動からロゴ選定、スポンサー獲得」から始まってテレビCMなどの広報活動、聖火リレー、パブリックビューイング、さらに開閉会式に至るまで、すべてを取り仕切っていたのである。そしてその多くで不祥事が発覚して大きな問題になった。

ryu2.jpgそれを列挙してみると、まず招致活動における2億円の賄賂疑惑があり、五輪エンブレムの盗作問題があり、開会式をめぐるスキャンダルや放言などによる担当者の解任があった。おかしなことは電通関連以外でもいくつもあった。招致活動における安倍首相の、福島原発はアンダーコントロールや、夏の東京は温暖で、スポーツに適しているといった大嘘発言や、森喜朗の差別発言など、枚挙にいとまがないほどだったのである。

著者はこれまでにも一貫して東京五輪には反対して、『ブラックボランティア』(角川新書)では、酷暑の中で無給で食事も宿泊も自腹でというボランティアの募り方に異議を唱えてきた。そもそもボランティアは無給を意味するわけではないのだが、それを当然視する五輪の組織委員会の主要メンバーには、高額の報酬が払われていたのである。で、その酷暑対策のお粗末さに加え、コロナ対策も不十分のままに、五輪は強行された。

genpatu.jpg著者はまた『原発広告』(亜紀書房)の中で、福島原発事故以前に電力会社がテレビや新聞で原発の安全性を唱える広告を出してきたことを指摘しているが、五輪が全く同じ構図で、全国紙やテレビ局がスポンサーになって、五輪批判をほとんどしてこなかったことを糾弾している。不祥事や酷暑、さらにはコロナ禍と続いても、メディアが問題視しなかったのは、まさに政治と経済とメディアが一体化した「大政翼賛」の体制にほかならなかったというのである。

読んでいて改めて、五輪にまつわるいかがわしさにうんざりしてしまうが、組織委員会はきちっとした総括などする気はないようである。7000億円で既存の施設を使ったコンパクトな五輪にするといったのに、国立競技場を始め多くの施設を新設し、総額で3兆円とか4兆円になるといった結果をもたらしている。おそらくメディアも本気になって検証したりはしないだろう。日本人選手が活躍したからよかったんじゃないか、などといってうやむやにしてはいけないことなのにである。

2021年12月20日月曜日

維新とタイガース

 衆議院選挙における維新の躍進は驚きだった。コロナの第4波の時の大阪はひどかったし、それが保健所や病院の削減を行ってきた大阪府や市の失政に原因があったことは明らかだったからだ。それ以外にも知事や市長は雨合羽やイソジンといったしょうもない発言や行動で失笑をかっていた。少なくとも大阪や関西以外の人たちには、そんなふうに見えていた。なのに、大阪では1選挙区を除いて維新が勝利した。一体全体、大阪市民や府民は何を評価して維新に投票しただのだろうか。そんな疑問を感じてもおかしくない結果だった。

理由としてあげられたのは吉村知事や松井市長、それに橋下徹が毎日のようにテレビに出ていたことや、府議会や市議会、そして府下の首長の多くが維新で占められてきている実情だった。維新は少なくとも大阪では自治体の多くを治めていて、テレビもその勢いを後押しする役割を果たしている。どんなにダメでもがんばっている姿を連日テレビで流せば、人びとも応援したくなる。何しろ維新は大阪で生まれた、まじりっけなしの浪速っ子の集まりなのである。

こんな様子を見ていて思ったのは、関西における阪神タイガースの人気との共通性だった。僕は25年ほど京都に住んで大阪の大学で教えた経験がある。そこで感じたことの一つに強烈な阪神びいきがあった。いつも弱くて内紛を起こしてばかりの球団に、なぜ人びとは惹かれるのか。在阪のパリーグには南海や近鉄、そして阪急といった球団があって、どこもペナントを制した強い時期があった。しかし人気は阪神には全くかなわなかった。

それはもちろん、日本のプロ野球がセリーグ偏重で、東京の巨人が圧倒的に強かったことに原因があった。何しろ関西人は東京に対するライバル意識が強く、とりわけ大阪人はその傾向が顕著だった。だから東京を代表する巨人をやっつける試合を見たい。それが時々でも、勝ってくれれば溜飲を下げることができる。端で見ていて半ば呆れ、うんざりしながら感じたのは、そんな印象だった。

当然、テレビも他の在阪球団の試合は無視して阪神ばかりを中継したし、スポーツ新聞の一面は、いつも阪神のことばかりだった。そんなテレビや新聞の現状は、おそらく今でも変わらないのだろう。そして、もう一つの目玉が維新なのだ。僕はもちろん、関西のテレビや新聞には接していないが、おおよその見当はつく。アンチ東京が関西、とりわけ大阪のアイデンティティの基盤にあるのは決して悪いことではないが、阪神はともかく維新はアカン。そんな感想を強く持った。

維新は山犬集団だ。東京の批評家には、そんなことを公言する人もいる。実際僕もそう思う。トップの人たちは誰もが吠え立てるように、ドスを利かせるように発言するし、犯罪事件を起こした政治家も多党に比べて桁違いに多い。関西の中心である大阪が経済的に発展するなのならば、カジノでも万博でも何でも誘致したらいい。市をなくして大阪都にする政策は失敗したが、公共の場に使う金を極力減らそうとする政策も次々と実行されている。その結果がコロナ禍における悲惨な状況だったのである。

維新は今回の選挙での躍進に勢いを得て、全国的な制覇をもくろんでいるようだ。はたして阪神タイガース程度に人気が浸透していくのだろうか。僕は難しいと思うが、そうなったらもういよいよ、日本は終わりなのだと思う。維新はコロナ以上に悪い疫病神なのである。

2021年12月13日月曜日

品格と矜持

 政治や経済、そして社会を見渡してみて感じるのは、「品格」とか「矜持」といったことばが全く通用しなくなったことである。典型的には「今だけ金だけ自分だけ」といった風潮がある。何より利権によって動く政治家ばかりだし、大企業は内部留保を貯めこむことに精出している。そして人びとの中からも「相互扶助」の気持ちが見えてこない。こんな風潮に対して新聞やテレビといったメディアは何も問題にしない。それどころか、権力に忖度し、スポンサーの顔色を窺うことばかりをしている。

マスメディアは「ウォッチドッグ」であるべきだ。権力や社会を監視して、何か不正があれば吠えたてる。マスメディアの存在価値が何よりジャーナリズムにあるとすれば、「ウォッチドッグ」として仕事をすることが、ジャーナリストとしての矜持になるはずである。大学の「マスコミ論」には当たり前のように、こんな姿勢が強調されてきた。ところが最近のマスメディアは吠えることをほとんどしなくなった。そうなってしまった理由はいろいろあるだろう。

一つは安倍政権誕生以降続いているメディアに対する締めつけや圧力だろう。しかしここには、新聞社やテレビ局のトップが進んで首相と会食するといった擦りよりもあった。二つめには新聞の発行部数減やテレビのCM料の低減があって、何より営業利益を優先するといった方針変更がある。今メディアのトップにはジャーナリストではなく営業出身の人が就いていることが少なくない。そして三つめとしては、ジャーナリストの質の低下があげられる。権力者に対して厳しい質問を浴びせることが出来ないのは、官邸での会見の様子を見れば明らかである。

この三つの理由は経済、つまり企業の姿勢にも共通する。内部留保を増やすことばかりに精出して、社員の給料は据え置いたまま、というよりは正規を減らして派遣を増やしている。そして新たな可能性を求めて積極的に投資をすることもない。こんな経営者の姿勢に組合が抵抗どころか擦りよっているのは「連合」を見れば明らかだろう。

品格や矜持は自らの使命や理想を持っているところから生まれてくる。それがないのは、現状の日本にはどの分野にしても、使命や理想が失われていることに原因がある。経済の落ち込みや人口の減少は止めることが出来ず、国の借金ばかりが増加する。それがわかっていながら、いや、わかっているからこその、「今だけ金だけ自分だけ」の風潮なのだと思う。

そんな中で一人だけ、「品格」を口にする人がいる。メジャー・リーグでMVPをとった大谷選手だ。一流の選手には、記録や能力だけでなく「品格」がある。それを目指したいといった発言で、久しぶりにそんなことばを聞いたと思った。彼は今、日本に帰っているが、ほとんどテレビに出ることもない。タレントたちにちやほやされて浮かれてもいいはずだが、毎日トレーニングに励んでいるようだ。国民や県民栄誉賞なども断ったようだ。

メジャー・リーグはオーナーと選手会が対立して、オーナー側がロックアウトという強行手段を実行した。来春のキャンプまでには解決するだろうと言われているが、下手をすれば開幕に間に合わないかもしれないと危惧する声もある。金をめぐる対立だから、多くのファンはどちらも支持していないようだ。一人の選手が何十億も稼ぐのに、マイナーには食事や住居に苦労する選手がたくさんいる。超高額の契約更新が約束されている大谷選手は、そんな現状をどう思っているのだろうか。そんなことをふと考えた。