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2024年4月8日月曜日

大谷騒動とメディア

 

メジャーリーグが始まったが、今年は今一つ、楽しめていない。理由は言うまでもなく、水原一平通訳が起こした出来事だ。振りかえれば、大谷選手の移籍の動向以来、ネットもテレビも大騒ぎだった。確実な情報がほとんど出ないから、憶測記事が氾濫して、それがドジャースに決まるまで続いた。ロスからトロントに向かう飛行機に大谷が乗っているのではといった記事が出て、それが間違いだったと訂正されて、大谷獲得を狙う球団やファンを大慌てさせたりした。

このあたりのニュースはネットの方がはるかににぎやかだったが、入団会見から山本投手のドジャース移籍、そしてキャンプ開始になると、テレビのワイドショーはもちろん、ニュース番組までが、大きく取り上げたから、もういい加減にしろよと言いたくなった。で、結婚していることの突然の発表である。その日は国会で政倫審の中継があったが、NHKは放送中に大谷選手結婚のニュースをテロップで流したのである。実際、国会もすっ飛ぶ話題で、その日の報道番組は、その話で持ちきりだった。

ohtani5.jpg 結婚相手は「普通の日本人の女性」という以外明かされなかったが、ネットではすぐに、バスケットの選手ではないかといった記事が載るようになった。それがほぼ確実だとわかっても、テレビはそのことを明示しなかった。大谷選手の機嫌を損ねてはいけないという配慮だったのだろう。開幕戦は韓国のソウルでパドレスとおこなう。それに向けて飛行機に乗る画像を大谷選手がインスタグラムに載せ、そこに結婚相手も写されていた。で、田中真美子さんという名前であることが明らかになった。

ここまでは、大谷選手のメディア操作は見事だったが、初戦のダルビッシュや松井との対決で盛り上がった後、一夜明けて、大変なニュースが飛び込んできた。水原通訳がドジャースを解雇されたという目を疑うような見出しだった。ギャンブルにのめり込んでいて、大谷の口座から450万ドルあまりを盗んで返済に充てていたというのである。そこから後の騒ぎは、もう大谷の手に負えるものではなく、野球の試合そっちのけで、さまざまな憶測記事が氾濫することになった。

アメリカに戻って、大谷選手が事の経緯を自ら発表すると、日本ではそれを信じて納得するという論調が多かった。しかしアメリカでは邪推も含めて、批判的な記事が多く出た。水原元通訳についても、経歴にあった大学に在籍した記録がないといった記事が出て、実は通訳としても有能ではなかったなどとも言われるようになった。ギャンブルにのめり込んだのは大谷で、水原はスケープゴーツにさせられたのではといった憶測も出て、アメリカではもう手に負えない感じだが、日本ではメディアもネットも、大谷を批判する発言は目立っていない。

アメリカに戻ってからも、彼はすべての試合に出て、ベンチでも明るく振る舞っている。しかし、信頼していた相棒が裏切りという形でいなくなって、その一端は彼にも責任があるのだから、心中は穏やかではないだろう。ホームランが出なくたって無理もない。そう思って見ていたら、9試合目でやっと出た。するとシカゴに遠征した試合でもう一本。日本人選手4人が出るシリーズで、しかも4人とも大活躍だった。もっともっとやってほしいが、あまりに派手になると、ジャパン・バッシングが起こるかも知れないといった心配もしてしまう。大谷選手にまつわる報道には、嫉みや人種差別を感じるものが少なくないからである。


2024年3月11日月曜日

「山を歩く」は意外なこと

 

miyake1.jpg 大学院の頃からの友達が、突然冊子を送ってきました。題名は『山を歩く』で、思わず、「え!どういうこと?」と口走ってしまいました。何しろ、彼が山を歩くことなどは、まったく想像がつかないことだったのです。昨年の春先のことです。で、今年も2023年の山歩きの記録が届きました。僕より三つほど若いですが、70歳の山歩き初体験ということでしょうか。しかし、月一回の割で歩いているようですから、もうすっかり板についたことだろうと思います。

友達は三宅広明さんといいます。大学院を出た後、学校の先生として淡路島や神戸で働いて、退職後に山歩きに目覚めたのですが、きっかけは山歩きの好きな友人に誘われたことだったようです。明石に住んでいますから、歩くのはもっぱら近隣の山で、僕にはほとんど馴染みがありませんでした。けれども、初めて山を歩いて、木々や花々にふれ、生き物の気配を感じ、高いところからの景色を眺めて感激している様子は、十分に想像することができました。

山歩きはいつも三人で行っているようです。気心が知れた仲間なんでしょうね。連れ立って何かをすることが苦手な僕にはできないことだと思いました。僕はいつもパートナーと一緒に山歩きをしてきましたが、彼女の体力が衰えて、前には登ったところにも行けなくなりました。誰か連れがいたら、まだまだ行きたいところはあるのにと、うらやましく思いながら読みました。

ちなみに、去年歩いたのも羽束山(三田市)、編妙の滝(神崎郡)、天下台山(相生市)。摩耶山(神戸市)など家から日帰りできるところがほとんどですが、木曽駒ケ岳に挑戦したようです。もっとも彼以外の二人はアルプスにも良く上る登山家のようで、彼だけが3000mも、山小屋泊まりも初めてだったようです。「よく歩く六甲山が931m、これまでで一番高い山が氷ノ山の1510mという具合。日本アルプスにどんな山があるのやら、どんな景色が見えるのか、全く知らず、関心も持たずにずっと生きてきたわけで」と書いていますが、千畳敷カールの高山植物や、雷鳥のひな、そして山頂に登って見える山々に、大パノラマだといって感激しています。

僕は木曽駒ケ岳はロープウエイで行ける千畳敷カールまででしたが、御嶽山には登りました。だから彼が見た周囲の山の様子は僕にもわかりました。もちろん大噴火で多くの人が命を落とす前のことでした。この冊子を読みながら、息子と登った富士山や、友達だけが登って、僕とパートナーは途中の駒津峰であきらめた甲斐駒ケ岳のこと、そして昨年亡くなった義兄と登った磐梯山などを次々と思い出しました。そのうち彼とも一緒に歩きたいものだと思いました。




2023年12月18日月曜日

大谷選手のドジャース移籍に思ったこと

 

エンジェルスの大谷選手がドジャースに移籍しました。契約は10年で破格の7億ドル。もう引退するまでドジャースでやると決めたのだと思います。ただし、決まるまでの数日は、代理人から箝口令が敷かれたこともあって、憶測記事が氾濫してかえって大騒ぎになりました。日本のメディアも「すごい、すごい」と言うばかりですが、僕はこの経緯について、大きな疑問を持ちました。

ウィンター・ミーティングが始まって、大谷選手がジャイアンツのオラクル・パークに行ったというニュースが入り、その後にブルージェイズのキャンプ地を訪れたと報道されました。ここからトロントが注目されるようになって、カナダドルで10億ドル払うという記事が出て、一気にブルージェイズ有利という様相になりました。しかし、その数日後にドジャースに決まって7億ドルという契約額になったのです。ブルージェイズが出した額とほぼ同じだったわけで、代理人はブルージェイズを出汁に使ってドジャースに契約金の釣り上げを迫ったのかもしれません。

もちろん大谷選手のドジャースに対する気持ちは、今に始まったことではないのです。高校卒業時にメジャーに行くと宣言した時に念頭にあったのはドジャースで、栗山監督に説得されて翻意したのでした。メジャー・リーグに行く時もドジャースとは面談しましたが、ナショナル・リーグにDHがなかったことで、アメリカン・リーグのエンジェルスに決めたのでした。大谷ルールでナショナル・リーグもDH制になりましたから、ドジャースに行くことには、何の障壁もなくなったのです。

だとしたら、もっと早くにドジャースに行くと発表しても良かったと思います。それがなぜ、ここまで時間がかかったのでしょうか。考えられるのは、競合球団を募って契約額をあげようとした代理人の戦略でしょう。契約額は最初は5億ドルだろうと言われていました。右肘靭帯の手術で来年はDHでの出場しかできませんが、それは関係なかったようです。いくつもの球団が名乗り出て5億ではなく6億だと言われるようになり、最終的には7億ドルになりました。

選手の価値をお金で計るのはアメリカでは当たり前のことですから、代理人の手腕は褒められるだろうと思います。しかし、大谷選手はどうだったのでしょうか。もしこの先ケガをして、欠場が多くなったり、成績が落ち込んだりしたら、猛烈なバッシングを浴びることになるのは明らかです。エンジェルスにはレンドーン選手がいて、そのつらさを目の当たりにしていたはずです。決断の裏には、大谷選手の相当の決意があったことでしょう。もっとも大谷選手のことですから、ダメだと思ったら自ら契約を破棄してしまうかも知れません。

大谷選手にとって気がかりだったのは、自分が年7000万ドルももらってしまうことが、ドジャースの選手補強の妨げになるということでした。そこで彼が提案したのは、大半を契約が終了した後に先延ばしするというものでした。何しろメジャーの球団の中で年俸総額が7000万ドルに達しない球団が8つもあるのですから、その額が破格なのがよくわかります。払いを先送りすることで、ドジャースには、もっと選手を取る余裕が生まれましたから、7億ドル払ってもいいだろうということになったのです。ちなみに来年から10年間の年俸はわずか200万ドルということで、これは副収入が5000万ドルもあることから税金対策を考えてのことでしょう。

こんな顛末でしたから、僕はちょっとがっかりしました。すでに強いチームではなく、自分が入ることでプレイオフまで行けるチームを第一に考えるはずですから、僕はオールスター前からジャイアンツが最適だと思ってきました。ジャイアンツも最後まで残っていましたから、サンフランシスコもまたトロント同様にがっかりしていることでしょう。ちょっと興ざめですが、来年からも、彼の出る試合につき合うことにかわりはありません。くれぐれもケガをしないように。そう願うばかりです。

2023年10月2日月曜日

早すぎた大谷ロス

 
MLBのシーズンが終わった。エンジェルスは今年も負け越しで,プレイオフには進めなかった。大谷選手はホームラン王を取り、MVPも確実視されている。WBCの優勝とMVPから始まったシーズンだったが、ハードに働きすぎたせいか、8月後半で力尽きた。毎日のようにゲームを見ていたから、9月中旬の負傷者リスト入り後は、しばらく大谷ロスに襲われた。あまりに華々しい活躍だっただけに,突然の幕引きに,気持ちがついていかなかった。

しかし,そうなるのではという心配はオールスター開け頃から感じていた。彼は6月、7月の月間MVPを獲得したが、チームはけが人続出で、彼にかかる負担は増すばかりだった。打って投げてのハードワークなのに,ゲームをほとんど休まない。試合に出たいという気持ちが強いことはわかっているが,それ以上に,勝つためには休んではいられないという気持ちが強かったのだと思う。しかも,そんな頑張りにも関わらず、8月に入ると,チームはさっぱり勝てなくなった。

大谷選手は7月28日のタイガース戦に,第一試合で完封勝ちした後、続く試合にも出て2本のホームランを打った。しかし,その試合で腰が痙攣して,途中で退場した。完封した投手が次の試合でDHで出るというのは常軌を逸してると思ったが、メディアは大谷の活躍を絶賛した。本人も監督も、水分の取り方が足りなかったといった程度にしか思わなかったのか,翌日からのゲームにも出場した。で、痙攣は次に足に来て、指に来た。それでも彼は欠場せず、8月23日のゲーム後に右腕靭帯損傷となった。

彼の成績は、そのタイガース戦時点で投手として9勝し、38本のホームランを打っていた。脇腹の故障で故障者リスト入りした9月17日までの1ヶ月半で挙げた成績は,投手で1勝、ホームランは5本である。無理がたたっての不振と故障であったことは明らかで、手術したために来年は投げられなくなったのだから,その代償はあまりに大きかったと言えるだろう。選手の健康管理を厳しくしていれば、もっと休みを多くすることができたはずで、エンジェルスの罪は大きいと思う。今年のエンジェルスは故障者続出で野戦病院化してしまったのである。

こんなチームにはもうおさらばして欲しいと思うが,果たしてどうだろうか。来年はどこのチームに行くか。そんな話題が毎日繰り返されているが,相変わらずお金の話ばかりが目立っている。僕は肘の靭帯の手術を2度もした後の彼の選手生命が心配である。太く短くよりも少しでも長く続けて欲しい。大谷選手には,何より自分の身体のことを考えた選択をして欲しいと思わざるを得ない。

2023年7月10日月曜日

大谷報道は疑問だらけ

 大谷選手の活躍が華々しい。ホームラン王どころか三冠王も射程圏内にあるし、投手としても、後半戦の成績次第ではサイ・ヤング賞も可能性がある。まさに無双状態といってもいいほどである。そんな状態だから当然かも知れないが、テレビのワイドショーなどは朝昼夕と「今日の大谷」をやっている。新聞のテレビ番組欄を見る限りだが、他に取り上げるニュースはあるだろうに、何なんだ?と言いたくなった。

そんな喧騒はどうでもいいが、大谷選手についてのニュースで気になるのは、フリーになった時の契約金や年数がどのくらいになるかばかりだ。これはもちろん、アメリカでの発言が多いのだが、5億ドルで10年以上の契約が当たり前といった意見がほとんどなのである。僕はこのような論調に、大きな疑問を感じてしまう。

大谷選手は二刀流をいつまで続けられるのだろうか。それは本人にも分からないことだろう。もし10年以上の長期契約をして、途中で投げられなくなったり、打つ方もさっぱりだったり、大けがをしてシーズンを不意にしたり、ケガで休みがちになったりしたら、すぐに不良債権だと批判されてしまうのである。その見本になる選手はエンジェルスにもいるし、多くの球団に溢れている。

わーわーと大げさに騒ぎ立てて人々の注目を集める。それがメディアやそこで飯を食っている人たちの常套手段であることはアメリカも日本も変わらない。もっとも、人間の価値はお金が決めるというのがアメリカの基準だから、本気にそう思って発言している人も少なくないだろう。しかし、大谷選手は賢いし、お金のためにやっているわけではないと公言しているから、こんな契約はまず結ばないと思う。そもそもエンジェルスと契約する時だって、もう数年経てば高額な契約金と年俸を手にするのに、と言われたのである。

で、彼はエンジェルスとは再契約をしないと僕は思っている。選手同士では仲良く、楽しくやっているが、GMやオーナーをどこまで信用しているか怪しいからである。21年の年俸は、GMの大谷に対する評価が低くて、キャンプまでこじれた。だからMVPをとって手の平返しをしたってもう遅い。大谷選手はそんなふうに思っているのではないだろうか。もちろんプレイオフに勝ち残って、リーグ優勝戦やワールドシリーズに進んだとしたら、話はまた違ったものになるだろう。ただし、残念ながらそこまでの力はエンジェルスにはない。

大谷選手はとにかく、ワールドシリーズまで行って、そこで優勝したいのである。だからここと思ったチームを選択して、3年ほどの契約をするのだと思う。もちろん年俸額は最高だから、払える球団はかぎられてくる。今年の成績を見る限り、ワールドシリーズに行く可能性の高いチームは、ア・リーグならタンパベイ・レイズ、テキサス・レンジャーズ、ナ・リーグならアトランタ・ブレーブスだろう。しかし、これらのチームは戦力が整っているから、おそらく別のチームになるはずだ。自分が加わればもっと強くなり、高額年俸を複数年払える財政基盤があって、自分がチームを代表するスター選手になれる球団を探せばいいのである。

そうなると行けそうな球団はどこか。ジャッジやコールのいるヤンキースやカーショーやベッツのいるドジャース、ゲレーロJr. のいるトロント・ブルージェイズは外れるし、シャーザーやバーランダーがいても勝てない金満メッツは問題外だ。ソトやマチャド、タティスJr.、それにダルビッシュがいても弱いパドレスもダメ。そうなると残る球団はいくつもない。財政基盤がしっかりしていて、スター選手はいないがそこそこ強い。

僕はサンフランシスコかボストンと予測している。もちろんここには希望的観測という側面もある。しかし、もしそうなったら、アメリカのスポーツ・メディアは仰天して大騒ぎすることだろう。とは言え、6月末からエンジェルスは負け続けていて、プレイオフ進出の可能性が消えかけている。何しろトラウト始め故障者続出なのである。トレード話が再燃しているが、これは大谷選手には決められない話だから、どこに行くかは分からない。

2023年5月8日月曜日

一角獣とユニコーン

 

unicorn.jpg" 「ユニコーン」は角の生えた馬のような伝説上の生き物です。力強く勇敢で足が速いということから、一昨年以来、大谷翔平選手の活躍を讚える時の敬称として使われています。ヨーロッパに伝わる伝説上の生き物で,もちろん,実在したわけではありません。しかし、ギリシャの古典文学や旧約聖書、あるいはケルトの民話などに登場する,極めてポピュラーなものでもあるのです。確かに打って,投げて,走ると何役もこなして、しかもすべてが超一流という大谷選手にはふさわしい呼び名かも知れません。とはいえ、日本では馴染みのあるものではなかったので、「ユニコーン」だと言われても,あまりピンと来ませんでした。

その大谷選手は,WBCでの躍動以降、今年も投打にわたって絶好調です。4月の月間MVPは取れませんでしたが、それは投手と打者の二部門に別れているためで、両方で活躍しているのは彼だけですから、総合すれば毎月MVPをとってしまうのだろうと思います。まさに「ユニコーン」ですが、今年も彼のような二刀流の選手が現れてこないところを見ると、これは彼にしかできないことなのかもしれません。フリー・エージェントになってどこに行くのかといったことが連日騒がれていますが、ケガをしないで,このまま元気で活躍してほしいものです。

ところで「ユニコーン」は日本語では「一角獣」と訳されます。それに見合う伝説や物語はありませんが、先週紹介した村上春樹の『街とその不確かな壁』や『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』には壁に囲まれた「世界の終わり」という名の街に住む生き物として登場します。決して強くはなく,むしろ穏やかで弱く,冬には寒さと食べ物の不足で多くが死んでしまうのです。この街に住むためには、街の入り口で影を切り離さなければなりません。その影はやがて衰弱して死んでしまうのですが、「一角獣」がしているのは、その影が持っていた「心」を吸い取ることなのです。

この本を読みながら思ったのは,今の日本の社会そのものではないかということでした。「日本の終わり」という街では、徐々に衰えているのが事実なのに,人々はそのことに無関心です。もちろん,落日の経済大国で、生活が苦しくなっているのは明らかですが、そのことに目を向けないようにすることが、暗黙の了解事項であるかのようなのです。まるで「心」を「一角獣」に吸い取られてしまったかのように見えるのです。

他方で,この「日本の終わり」という街を支配する人たちは強欲で、壁の外に対する敵対心も強烈です。まさにやりたい放題ですが、それを批判する声は挙がりませんし、行動も起きません。こんな状況を見た時に思い当たるのは,「一角獣」とはメディアと教育システムではないかということでした。校則を厳しくして、自由な発言を制限する教育制度や、政権に忖度して、現実を見えないようにしているメディアこそが、人々の「心」を育てないように、失わせるように働いている。「ユニコーン」と「一角獣」が似て非なるものであることに、改めて気づかされた思いです。

2023年3月27日月曜日

WBCが終わって思ったこと

 

wbc1.jpg" WBCで日本が優勝しました。大谷対トラウトで終わるというマンガのような展開でした。まさに大谷の、大谷による、大谷のためのWBCだったと思いました。自分が望むヒリヒリするゲームを経験したでしょうが、見ている者にとっても、ハラハラドキドキや感嘆の連続で、見ていてぐったり疲れてしまいました。このままシーズンに入って、今年こそはポスト・シーズンでも活躍できるよう望むばかりです。

WBCはMLB(メジャー・リーグ機構)が主催する大会ですが、メジャーの各球団はこれまで決して積極的ではありませんでした。チームの看板選手を出して、ケガでもされたらかなわない。そんな考えで、これまでは一流選手の出場はかぎられてきました。しかし、今回はトラウト選手がいち早く参加を宣言して呼びかけたこともあって、多くの選手が参加する大会になりました。その意味では、日本の優勝は今回こそが真の世界一だといえるかも知れません。

そんな大活躍の日本チームの表の主役は大谷選手でしたが、裏で支えたダルビッシュの献身的な努力があったからこそ、というのも間違いないと思います。彼はパドレスのキャンプに参加せずに、宮崎キャンプに最初から参加しました。そして若い選手たちに投球の仕方はもちろん、練習の仕方や食事のとり方など、質問されれば丁寧に答えることを繰り返しました。国の代表であることに緊張する選手たちに、そんなことなど気にせず楽しくやろうと呼びかけ、食事会を何度も催したようです。

しかし、ダルビッシュ選手は最初からWBCに積極的だったわけではありません。彼は再婚ですが、オフシーズンには子供の世話やら家事をパートナーと五分五分でやっているようです。しかもその生活に十分満足しているのだとも言いました。それを犠牲にして参加を決めたのは大谷選手の強い誘いだったようです。参加するなら最初からとことんつきあってやる。そんな決断は決して簡単ではなかったと思います。栗山監督は、でき上がったチームを「ダルビッシュ・ジャパンだ」と言いました。

予選から決勝戦まで十分すぎるくらい楽しみましたが、中継をアマゾンがやってくれたのは大助かりでした。テレビはテレ朝とTBSが中継しましたが、我が家ではどちらのチャンネルも見られなかったのです。なぜメジャー中継をやるABEMAではなくアマゾンだったのか。理由は分かりませんが金銭的なものだったことは推測できるでしょう。ただ、スマホやパソコンからテレビに繋ぐと音声だけしか聞こえなかったのは残念でした。番組によってそうなるのはよくありますが、どういう規制が働いているのでしょうか。

WBCの収益金はすべてMLBに入ります。どれだけのお金かは発表されていませんが、その大部分がMLBに行って、満員の東京ドームで予選を行った日本にはわずかしか返ってこないようです。収益金の多くを野球の世界振興のために使うといった大義名分があるとも聞いていませんから、このことははっきりするよう、日本のプロ野球機構は問いただすべきだと思います。日本チームの選手は強いメジャー選手にも気後れすることなく立ち向かって王者になりました。プロ野球機構の従順さはもちろんですが、日本の政治家や官僚たちにも、今回の日本チームの頑張りを見習って、アメポチといった屈辱的な姿勢を改めるきっかけにしてほしいと強く思いました。もちろん、そんなふうに思う政治家や官僚はほとんど皆無だろうと思っての願いです。

2022年10月10日月曜日

大谷選手のMLBが終わった

 

コロナ禍でどこにも行けなかったから、一日の中心は大谷選手の試合を見ることだった。期待以上の活躍で、投手としては166イニング投げて15勝9敗(4位)、防御率2.33(4位)、219三振(3位)、奪三振率11.87(1位)であり、打者としては打率.273(25位)、35本塁打(4位)、95打点(7位)、ops.875(5位)であった。今年もMVPをもらって当然という成績だが、62本のホームランを撃ったジャッジ選手の方だという声が大きいようだ。

打者としての規定打席数はもちろん、投手としても規定投球回数をクリアしたのは20世紀以降のMLBの歴史上初めてのことである。ホームランのアメリカンリーグ新記録よりはるかに価値のある成績だと思うが、アメリカの世論はジャッジにMVPを取らせようとしている。代わりに別の賞を作ったらという意見もあるが、それなら投手にサイヤング賞があるのだから、打者の方に新設したらいいのだと思う。もっとも、今年もMVPが大谷なら、これからしばらくは大谷ということになってしまうから、今年は避けたいと言う人が多いのかもしれない。

エンジェルスは今年も負け越しでプレイオフには行けなかった。高給取りがケガで出場できなくて、マイナーから挙がった選手や未契約のベテラン選手を獲ってやりくりしたのだから、勝てるわけはなかったのである。腹が立って途中で見るのを止めたこともあったが、必死にプレイしても、成績が悪ければ落とされたり、首になったりする厳しさはよくわかった。

メジャーに初登場した選手の多くは親や兄弟等々を呼ぶが、そのプレイに一喜一憂する様子が映されたのはほほ笑ましかった。もちろん、最初は頼りなかった選手が徐々に活躍して、メジャーに定着したというケースもあって、来年のエンジェルスは、今までよりはかなりましになるのでは、と思ったりしたが、去年の今頃もそんなことを思ったような気がする。

ところで、大谷選手は3000万ドルで来年度1年だけの契約をエンゼルスと交わした。今年が550万ドルだから445%増ということになる。ソフトバンクの選手全員に匹敵するというからすごい額だと思う。ただし、これでも安くて実質価値は5000万ドルを超えるという人もいる。他方で大谷がそうだったように、メジャーに挙がった選手は、どれほど活躍しても6年間は低い額でおさえられてしまうという現状がある。そしてマイナーの選手は、家を持つことはもちろん、食事も十分とれないほどの低賃金でプレイしなければならない。格差社会の露骨な見本と言えるだろう。

エンジェルスはオーナーが売却することを発表した。現オーナーがディズニー社から買った時の額は1億8400万ドルで、現在の価値は30億ドルを超えると言われている。所有しているだけで15倍以上に膨れ上がったのだが、スタンドが満員になることが稀だったのになぜ儲かるのか、不思議な感じがした。テレビの放映権が大きいと言われているが、エンジェルスの試合をほぼ毎試合中継したNHKやABEMAは一体いくら払ったんだろう。お金にまつわる話は、気分のいいものではなかった。

ともあれMLBが終わって、これから来年の春まで、一日をどう過ごすか。僕にとっては小さくない問題である。

2022年6月27日月曜日

MLBを見ながらアメリカ野球の本を読む


フィリップ・ロス『素晴らしいアメリカ野球』(新潮文庫)


フィリップ・ロスの小説は、以前に『プロット・アゲンスト・アメリカ』 を取り上げたことがある。第二次世界大戦でアメリカが参戦しなかったら、その後の世界や社会はどうなったかという内容で、ユダヤ系アメリカ人である少年(作者自身)を主人公にしたものだった。極めてリアルな話で、読みながら、国のリーダーの政策次第で世の中が一変することを、ブッシュやトランプのやったことに重ね合わせて想像したりもした。面白かったから、別のものを読もうと思って探したら『素晴らしいアメリカ野球』があった。しかし、そのめちゃくちゃ加減にあきれて、途中で読むのをやめてしまっていた。もう一度読もうかと思ったのは、大谷選手の活躍を毎日応援しながら、メジャーリーグについて、おかしなところをいくつも感じていたからだった。

roth3.jpg 『素晴らしいアメリカ野球』は、第二次世界大戦中のメジャーリーグの1年を展開したものである。ただし、リーグは現実にある「アメリカン」や「ナショナル」ではなく「愛国」である。その中で中心になるのは「マンディーズ」というニュージャージー州のルパートという名の港町を本拠地にする球団だが、戦時下で兵隊などを送りだすために、港近くの本拠地の球場を陸軍省に接収され、一年間アウェイで試合をやらなければならなかった。その設定自体がめちゃくちゃだが、史上最高といえた投手が登場して、完全試合どころかすべて三球三振で終わると思ったら、最後の一球を審判がボールと判定したことで、投手が逆上して試合を放棄し、永久追放になるといった話になる。

アウェイで試合を続けるマンディーズは連戦連敗だが、レギュラー選手が兵役でいなくなったためにかき集めた集団だから勝つはずもないのである。片腕や、片足が義足の選手、また小人をピンチヒッターにして四球を稼ぐ戦術をとったりするが、まるでバスケットのようなスコアで負け続ける。ところがシーズンが終わりになる頃に突然連勝しはじめる。そして永久追放されたはずの元選手が来シーズンの監督になるというのである。しかもこの選手は、永久追放された後ソ連に渡って、スパイの訓練を受け、アメリカを混乱させるために、メジャーリーグを崩壊させる使命をスターリンから受けて帰国したのであった。この選手はギルガメッシュという名だが、そんな自分の経歴を野球愛に目覚めて暴露して、メジャーリーグの球団のオーナーや選手の中にソ連のスパイが入り込んでいたことを明かすのである。

スターリンがメジャーリーグにスパイを送り込んだのは、野球がアメリカの本質だと判断したからにほかならない。野球を潰せばアメリカも衰退する。それほど野球はアメリカ人にとってなくてはならないものだった。しかし、この本が書かれた1970年代の前半は、アメリカはベトナム戦争に負け、そのために経済が落ち込み、戦後の勢いが失せはじめた時期だった。戦後に人気を獲得するようになったアメリカン・フットボール(NFL)やバスケットボール(NBA)に押されてメジャーリーグの人気にも陰りが見えはじめていた。すでにアメリカ人にとって野球が心のよりどころではなくなりはじめていたのである。

この小説の題名は『素晴らしいアメリカ野球』だが、原題は「The Great American Novel」で、素晴らしいというよりは「最も偉大なアメリカ小説」というタイトルがついている。確かにプロローグでは、アメリカの文学史には必ず出るマーク・トウェインの『ハックルベリー・フィン』やハーマン・メルヴィルの『白鯨』、ナサニエル・ホーソンの『緋文字』が話題になり、それを登場したヘミングウェイがこき下ろすといった内容になっている。で、偉大なアメリカ小説のテーマは野球でなければならないということになるのだが、ロスはその後に続く野球物語をひどいどたばた劇にしたのである。

大谷選手の活躍を楽しみに欠かさず観戦しているが、コロナがおさまったのにスタンドが満員になることはめったにない。弱小チームの試合ではそれこそ閑古鳥といった状態だが、選手の年俸はうなぎ登りで、その収入減はテレビだという。しかしその視聴率も年々減少傾向にあって、選手も米国ではなく中南米の選手が主流になっている。アメリカだけのローカル・スポーツが多国籍化して、日本人選手が活躍するのは楽しいが、アメリカ人にとってはマイナー化しつつある。ロスはそんな現状を半世紀前に予測していたのかもしれないと思った。

2022年6月13日月曜日

エンゼルスと大谷の浮き沈み

 
今年のエンジェルスは出だしから快調だった。昨年ほどというわけには行かないが、大谷もそれなりに投げ、また打った。それが5月の後半からおかしくなり14連敗ということになった。それまで機能していた勝ちパターンが崩れ、勝っていても逆転される、点を取ればそれ以上に取られる、投手が好投している時は点が取れないというゲームが続いた。何しろ連敗中に1点差で負けた試合が半分もあったのである。

見ていてがっかりしたり、腹を立てたりの連続で、だんだん見る気もなくなったが、選手たちの焦りやいらだちは大変なものだっただろうと思う。もちろん、その理由には主力の故障やスランプがあった。去年もほとんど休んだレンドーンや、絶好調だったウォードが故障し、トラウトは30打席もヒットが出ないほど落ち込んだ。大谷も打ち込まれて防御率を1点以上落とし、ホームランもさっぱりという状態だった。でマドン監督の解任である。

実績のある名監督も手の施しようがないといった様子だったが、僕は連敗の責任のひとつに監督の采配、とりわけ投手交代があったと思った。勝ちパターンが崩れても、打たれた投手をくり返し勝ちゲームで使って失敗した。好投している若手の先発投手をピンチになったからといってすぐ交代させた。その度に、「何で?」と呟いた。もっともこのような投手起用は去年も感じていて、ダグアウトから出て行く時に、「誰か後ろからおさえろよ!」と言いたくなったことが何度もあった。

大谷選手が去年ほどホームランを撃っていないことについて、不振だとかスランプだと言う意見が多い。しかし、僕は去年の前半ができ過ぎであって、最近の調子は去年の後半と同程度だし、このまま行けば30本以上のホームランを撃つことになるのだから、それで十分じゃないかと思っている。投手としては、とんでもなくすごい投球で相手をねじ伏せたかと思うと、四球やホームランで早々点を取られる試合もある。差し引きすれば去年並のできだから、不満を口にするのは期待のかけすぎというものだ。

大谷選手はプレイオフに進出して、ワールドシリーズにも出たいと考えている。エンゼルスの今年の出だしは、その期待に応えたものだったが、これからはどうなるのだろうか。連敗阻止のために力投し、ホームランも撃って久しぶりにチームに勝利をもたらした。まだ3分の1を過ぎたところだから14連敗したら、14連勝したらいい。試合後のインタビューで彼は、そんなふうに応えていた。そうまで言わなくても、5割を回復させれば、後は終盤まで、食らいついていければと思う。

こんなわけで、最近の僕の一日は大谷選手の試合を見ることを基本にしている。昼前からの開始で晴れていれば、試合が始まる前に自転車に乗るし、試合が早朝なら、自転車は午後ということになる。梅雨になって、自転車も山歩きもできない日が増えたから、試合を見る以外することもない日もある。負けてばかりでは、そんなテレビも見る気がしなくなってくる。

2022年2月28日月曜日

MLBが始まらない!

 MLBは昨年12月にロックアウトをしたまま、未だに解除をしていない。選手会との交渉が暗礁に乗り上げたまま、解決の見通しが立たないからだ。MLBと選手会はいくつもの取り決めをしていて、それを5年おきに改訂する決まりになっている。それがうまく妥結できないのだが、こんな状況は1995年以来のようだ。ただしこの時は選手会によるストライキで、今回のMLB側のロックアウトとは違っていた。

野茂投手がドジャースと契約して、開幕が1ヶ月遅れてデビューをしたのがこの年だった。ファンの批判が強くて、観客減が大きかったが、それを食い止めたのはトルネード旋風を起こした野茂投手の活躍が大きかったと言われている。野茂はこの年、オールスターの先発投手になり、新人王を獲得した。最初は批判ばかりを浴びせていた日本のメディアも、大活躍に手のひらを返して、称賛の声をあげるようになった。

そこから27年経って、メジャーリーガーも通算で70名ほどになり、今年も多くの選手が開幕を待っている。しかしキャンプができないままであり、今年からメジャーをめざす鈴木誠也選手は、まだ所属球団が決まっていない。このままでは開幕が遅れ、試合数が減ってしまうと危惧されているが、何よりファンからの批判が大きいようである。

両者の隔たりは大きく二つある。一つは選手の年俸総額に対するもので、たくさん払う球団に課せられる贅沢税の制限額に関している。年俸を抑えたいMLBともっとあげろという選手会の対立だが、ファンの批判は、この金持ち同士のマネー・ゲームに集中している。何しろ一年で数十億円も稼ぐ選手が続出して、大谷選手は50億円にもなるのではと噂されているのである。

もう一つはマイナーからメジャーに上がった選手に課されている6年間縛る契約で、どんなに活躍しても、この間の年俸があまり上がらないという点である。大谷選手は今年5年目だが、年俸は6億円ほどで、フリーエージェントになるのは来期後である。同様の扱いを受けている選手にはゲレーロJr.やファン・ソトといった選手がいる。確かに成績に見合う報酬を得るまでにかかる時間が長いと思うが、そもそもスター選手の報酬が高すぎるし、球団が儲かっているのだとしたら、入場券などが高すぎるのである。

他方で、MLB はマイナーチームの削減を実施して、多くの選手を解雇している。マイナー選手の報酬や待遇を少し良くしたという面はあっても、現実には経費の削減を実施していて、マイナー球団の減少は、小さな町にある「おらがチーム」を奪っているのである。MLBはテレビの放映権収入が増えているのに、その資金をマイナー・リーグに使う気はないようだ。これでは砂上の楼閣になってしまうが、目先の利益に目がくらんでいるのだろうか。

僕は今年も大活躍するだろう大谷選手の動向が気になっている。おそらく早く始まってくれとウズウズ、イライラしていることだろうと思う。試合数が減れば勝利数もホームラン数も減ってしまう。オフに帰国してもテレビ番組にはほとんど出ず、トレーニングに明け暮れていたという。試合数が15試合以上減れば、彼がフリーエージェントになるのが一年遅れて、30歳になるから長期の高額契約が取れなくなるだろうと心配する記事がある。しかしそんなことは、彼にとってはどうでもいいことで、マネーゲームを面白がるメディアの発想でしかないのである。

2022年2月21日月曜日

本間龍『東京五輪の大罪』(ちくま新書)

 
ryu1.jpg 東京オリンピックにうんざりした思いがまだ残っているのに、今度は冬季の北京オリンピックである。NHKは国会中継を無視してまで、全競技を放映しているし、民放のアナウンサーは相も変わらずメダルばかりにこだわって絶叫している。スポーツが金もうけや政治や国威発揚の道具となっていることをこれほどあからさまに見せられると、オリンピックはもうやめるべきだと、声を大にして言いたくなる。

本間龍の『東京五輪の大罪』は、東京五輪が「電通の電通による電通のためのオリンピックだった」と結論づけている。何しろ電通は「招致活動からロゴ選定、スポンサー獲得」から始まってテレビCMなどの広報活動、聖火リレー、パブリックビューイング、さらに開閉会式に至るまで、すべてを取り仕切っていたのである。そしてその多くで不祥事が発覚して大きな問題になった。

ryu2.jpgそれを列挙してみると、まず招致活動における2億円の賄賂疑惑があり、五輪エンブレムの盗作問題があり、開会式をめぐるスキャンダルや放言などによる担当者の解任があった。おかしなことは電通関連以外でもいくつもあった。招致活動における安倍首相の、福島原発はアンダーコントロールや、夏の東京は温暖で、スポーツに適しているといった大嘘発言や、森喜朗の差別発言など、枚挙にいとまがないほどだったのである。

著者はこれまでにも一貫して東京五輪には反対して、『ブラックボランティア』(角川新書)では、酷暑の中で無給で食事も宿泊も自腹でというボランティアの募り方に異議を唱えてきた。そもそもボランティアは無給を意味するわけではないのだが、それを当然視する五輪の組織委員会の主要メンバーには、高額の報酬が払われていたのである。で、その酷暑対策のお粗末さに加え、コロナ対策も不十分のままに、五輪は強行された。

genpatu.jpg著者はまた『原発広告』(亜紀書房)の中で、福島原発事故以前に電力会社がテレビや新聞で原発の安全性を唱える広告を出してきたことを指摘しているが、五輪が全く同じ構図で、全国紙やテレビ局がスポンサーになって、五輪批判をほとんどしてこなかったことを糾弾している。不祥事や酷暑、さらにはコロナ禍と続いても、メディアが問題視しなかったのは、まさに政治と経済とメディアが一体化した「大政翼賛」の体制にほかならなかったというのである。

読んでいて改めて、五輪にまつわるいかがわしさにうんざりしてしまうが、組織委員会はきちっとした総括などする気はないようである。7000億円で既存の施設を使ったコンパクトな五輪にするといったのに、国立競技場を始め多くの施設を新設し、総額で3兆円とか4兆円になるといった結果をもたらしている。おそらくメディアも本気になって検証したりはしないだろう。日本人選手が活躍したからよかったんじゃないか、などといってうやむやにしてはいけないことなのにである。

2021年12月20日月曜日

維新とタイガース

 衆議院選挙における維新の躍進は驚きだった。コロナの第4波の時の大阪はひどかったし、それが保健所や病院の削減を行ってきた大阪府や市の失政に原因があったことは明らかだったからだ。それ以外にも知事や市長は雨合羽やイソジンといったしょうもない発言や行動で失笑をかっていた。少なくとも大阪や関西以外の人たちには、そんなふうに見えていた。なのに、大阪では1選挙区を除いて維新が勝利した。一体全体、大阪市民や府民は何を評価して維新に投票しただのだろうか。そんな疑問を感じてもおかしくない結果だった。

理由としてあげられたのは吉村知事や松井市長、それに橋下徹が毎日のようにテレビに出ていたことや、府議会や市議会、そして府下の首長の多くが維新で占められてきている実情だった。維新は少なくとも大阪では自治体の多くを治めていて、テレビもその勢いを後押しする役割を果たしている。どんなにダメでもがんばっている姿を連日テレビで流せば、人びとも応援したくなる。何しろ維新は大阪で生まれた、まじりっけなしの浪速っ子の集まりなのである。

こんな様子を見ていて思ったのは、関西における阪神タイガースの人気との共通性だった。僕は25年ほど京都に住んで大阪の大学で教えた経験がある。そこで感じたことの一つに強烈な阪神びいきがあった。いつも弱くて内紛を起こしてばかりの球団に、なぜ人びとは惹かれるのか。在阪のパリーグには南海や近鉄、そして阪急といった球団があって、どこもペナントを制した強い時期があった。しかし人気は阪神には全くかなわなかった。

それはもちろん、日本のプロ野球がセリーグ偏重で、東京の巨人が圧倒的に強かったことに原因があった。何しろ関西人は東京に対するライバル意識が強く、とりわけ大阪人はその傾向が顕著だった。だから東京を代表する巨人をやっつける試合を見たい。それが時々でも、勝ってくれれば溜飲を下げることができる。端で見ていて半ば呆れ、うんざりしながら感じたのは、そんな印象だった。

当然、テレビも他の在阪球団の試合は無視して阪神ばかりを中継したし、スポーツ新聞の一面は、いつも阪神のことばかりだった。そんなテレビや新聞の現状は、おそらく今でも変わらないのだろう。そして、もう一つの目玉が維新なのだ。僕はもちろん、関西のテレビや新聞には接していないが、おおよその見当はつく。アンチ東京が関西、とりわけ大阪のアイデンティティの基盤にあるのは決して悪いことではないが、阪神はともかく維新はアカン。そんな感想を強く持った。

維新は山犬集団だ。東京の批評家には、そんなことを公言する人もいる。実際僕もそう思う。トップの人たちは誰もが吠え立てるように、ドスを利かせるように発言するし、犯罪事件を起こした政治家も多党に比べて桁違いに多い。関西の中心である大阪が経済的に発展するなのならば、カジノでも万博でも何でも誘致したらいい。市をなくして大阪都にする政策は失敗したが、公共の場に使う金を極力減らそうとする政策も次々と実行されている。その結果がコロナ禍における悲惨な状況だったのである。

維新は今回の選挙での躍進に勢いを得て、全国的な制覇をもくろんでいるようだ。はたして阪神タイガース程度に人気が浸透していくのだろうか。僕は難しいと思うが、そうなったらもういよいよ、日本は終わりなのだと思う。維新はコロナ以上に悪い疫病神なのである。

2021年12月13日月曜日

品格と矜持

 政治や経済、そして社会を見渡してみて感じるのは、「品格」とか「矜持」といったことばが全く通用しなくなったことである。典型的には「今だけ金だけ自分だけ」といった風潮がある。何より利権によって動く政治家ばかりだし、大企業は内部留保を貯めこむことに精出している。そして人びとの中からも「相互扶助」の気持ちが見えてこない。こんな風潮に対して新聞やテレビといったメディアは何も問題にしない。それどころか、権力に忖度し、スポンサーの顔色を窺うことばかりをしている。

マスメディアは「ウォッチドッグ」であるべきだ。権力や社会を監視して、何か不正があれば吠えたてる。マスメディアの存在価値が何よりジャーナリズムにあるとすれば、「ウォッチドッグ」として仕事をすることが、ジャーナリストとしての矜持になるはずである。大学の「マスコミ論」には当たり前のように、こんな姿勢が強調されてきた。ところが最近のマスメディアは吠えることをほとんどしなくなった。そうなってしまった理由はいろいろあるだろう。

一つは安倍政権誕生以降続いているメディアに対する締めつけや圧力だろう。しかしここには、新聞社やテレビ局のトップが進んで首相と会食するといった擦りよりもあった。二つめには新聞の発行部数減やテレビのCM料の低減があって、何より営業利益を優先するといった方針変更がある。今メディアのトップにはジャーナリストではなく営業出身の人が就いていることが少なくない。そして三つめとしては、ジャーナリストの質の低下があげられる。権力者に対して厳しい質問を浴びせることが出来ないのは、官邸での会見の様子を見れば明らかである。

この三つの理由は経済、つまり企業の姿勢にも共通する。内部留保を増やすことばかりに精出して、社員の給料は据え置いたまま、というよりは正規を減らして派遣を増やしている。そして新たな可能性を求めて積極的に投資をすることもない。こんな経営者の姿勢に組合が抵抗どころか擦りよっているのは「連合」を見れば明らかだろう。

品格や矜持は自らの使命や理想を持っているところから生まれてくる。それがないのは、現状の日本にはどの分野にしても、使命や理想が失われていることに原因がある。経済の落ち込みや人口の減少は止めることが出来ず、国の借金ばかりが増加する。それがわかっていながら、いや、わかっているからこその、「今だけ金だけ自分だけ」の風潮なのだと思う。

そんな中で一人だけ、「品格」を口にする人がいる。メジャー・リーグでMVPをとった大谷選手だ。一流の選手には、記録や能力だけでなく「品格」がある。それを目指したいといった発言で、久しぶりにそんなことばを聞いたと思った。彼は今、日本に帰っているが、ほとんどテレビに出ることもない。タレントたちにちやほやされて浮かれてもいいはずだが、毎日トレーニングに励んでいるようだ。国民や県民栄誉賞なども断ったようだ。

メジャー・リーグはオーナーと選手会が対立して、オーナー側がロックアウトという強行手段を実行した。来春のキャンプまでには解決するだろうと言われているが、下手をすれば開幕に間に合わないかもしれないと危惧する声もある。金をめぐる対立だから、多くのファンはどちらも支持していないようだ。一人の選手が何十億も稼ぐのに、マイナーには食事や住居に苦労する選手がたくさんいる。超高額の契約更新が約束されている大谷選手は、そんな現状をどう思っているのだろうか。そんなことをふと考えた。

2021年11月1日月曜日

大谷選手のMLBだった

 
MLBが終わった。プレイオフには出られなかったが、今年は大谷のシーズンだった。ホームラン46本、100打点、103得点、打率0.257、OPS(出塁率+長打率).965、9勝2敗、奪三振数156、防御率3.18、投球回数130.1という成績で、MVPも間違いないと言われている。すでに野球雑誌が選ぶMVPを複数受賞しているし、「MLBヒストリック・アチーブメント(歴史的偉業)賞」 というコミッショナー特別表彰や選手間投票によるMVPも獲得した。

こんな成績はめったに出来るものではないが、彼はこの数字を最低の基準にして、来年以降がんばりたいと言った。ものすごい自信だが、今年はまだ肘や膝の手術からの回復途中であって、来年はもっとよくなるはずといった感覚があるのだろうと思う。

それにしても、この4月からはエンジェルスの試合を見るのが一日の中心だった。早朝の試合は5時起きしたし、出かけるのも試合が終わってからとか、試合のない日にということになった。何しろ彼は、投手として出場する試合の前後も休まなかったから、DHのないナショナル・リーグとの試合以外はほとんど出場したのである。特に開幕から7月末までは、また撃った、また走ったという勢いで、投げるほうも6月以降はほとんど負けなしという状態だったから、最初から最後まで見逃すわけにはいかなかったのである。

7月後半から8月にかけてのオリパラ期間中はNHKは中継をしなかったが、AbemaTVやYouTubeでも見ることが出来たから、スマホをテレビと接続して見ることになった。その時期は敬遠されることが多くなり、悪球に手を出して調子を落としたが、投手としては、四球が減って、まるでベテランのような力の配分を考えた投球をして、見ていて感心することが多かった。もっともエンジェルスは故障者続出で、大谷がホームランを撃っても、好投しても結局は負けという試合が多かったから、後味の悪さを感じることも少なくなかった。

これほどMLBの試合に夢中になったのは野茂以来だから20年ぶりということになるが、野茂と違って大谷は毎試合出たから、初めてのことだったと言える。しかも今は中継以外にもネットでさまざまに取り上げられている。試合が終わればすぐダイジェストが載るし、追っかけをやる人も大勢いて、内外野のあちこちから撃ったり投げたりする様子を映していたし、試合前の練習風景や、試合中のダッグアウトでの様子も見ることが出来た。そんなチャンネルには10万人を越える登録者がいて100万回を越える再生数になったりもしていて、遠征にもほとんどついていっているから YouTuberとして仕事にしてるのかもしれないと思った。

大谷選手は最後の試合後の取材で、もっとヒリヒリするような試合をして勝ちたいと発言して、契約終了後には優勝争いが出来るチームに移籍するのでは、といったことが話題になった。確かに、プレイオフに出てワールドシリーズまで出続ける姿を是非みたいものだと思う。そのためにはフリーエージェントになった有力選手を獲得せよといった意見が多く飛び交っている。しかし、大谷選手の契約が数百億円になるといった予測も含めて、お金の話は敬遠したくなってしまう。一方で一年で数十億円も稼ぐ一部のエリート選手がいて、他方ではハンバーガしか食えない大勢のマイナーリーグの選手がいる。それはとんでもなく歪んだ格差社会だから、彼がそこで最高の年俸をもらったりするのは歓迎したくないと思ったりしている。

2021年8月9日月曜日

強者どもが夢の跡

 ・オリンピックが終わった。残ったものはコロナの感染爆発で、日本選手の活躍はメダル・ラッシュとはいっても、地味な種目ばかりだったから、その勢いで衆院選にという思惑は、外れたと言っていいだろう。当初の予算の4倍以上の金を使い、終わった後も維持管理に高額な費用がかかる施設を造ったのだから、後始末をしっかりする必要があるのだが、おそらく政府や都や、オリンピックの組織委員会は、フタを閉めて知らん顔を決め込むことだろう。後は野となれ山となれで、まさに「強者どもが夢の跡」になることは明らかだ。おそらくパラリンピックも中止になるだろう。

・しかし、この2週間の間、一番腹が立ったのは、テレビや新聞といったメディアだった。テレビはどの時間にどのチャンネルを見ても、オリンピックばかりで、ほとんど見るものがなかったし、新聞もオリンピックに割いているページばかりで、読むものが少なかったからだ。そこに、全く無関係であるかのようにコロナの感染拡大を報じるニュースや記事を挟み込んでいるから、両者がまるで別世界の出来事であるかのように感じてしまったが、その関係を問わない、というよりはあからさまに隠そうとする姿勢に、もう日本のマスメディアは本当に死んだと思ってしまった。

・コロナ禍と猛暑の中で行われた競技で、参加した選手たちも大変だったろうと思う。暑すぎるから時間をずらせと抗議したのはテニスのジョコビッチ選手だが、有名だからこそ取り上げられたわけで、何も言わずに我慢した人たちも多かったのかもしれない。事前の国内キャンプがキャンセルされて、不十分な調整で望んだ選手が多かったなどの条件が重なって、いつもなら続出する陸上や水泳の世界新記録がほとんど聞かれなかった。日中は40度にもなったフィールドでは、世界新など出るはずもなかったのである。猛暑の中でのオリンピック自体が無謀だったのに、それにコロナが加わっても決行した日本について、おそらくこれから批判の声が上がるだろうと思う。

・そもそもオリンピックは、海外からの観光客の増加をいっそう進めようとする国策のひとつだった。それがコロナ禍で無観客でやらざるを得なくなった。コロナ禍はまだまだ続くから、当てが外れたホテルや外食産業が受ける打撃は、この後ますます大きなものになるだろう。オリンピックは「コロナに勝った証し」どころか「コロナに負けた見本」として語り継がれることになれば、後世の人に、なぜ中止しなかったんだと責められることなってしまう。負けるとわかっていた戦争を日本はなぜ始めてしまったのか。戦後生まれの人たちには謎だったことが、オリンピックを強行した過程をつぶさに見ることで、その理由がよくわかったはずである。

・ところで、オリンピック自体も、金にまみれたうさんくさいものであることが白日に晒されたと言えよう。IOCのぼったくり体質や貴族のように振る舞う委員の態度は世界中から反感を買ったし、それに異を唱えたり、批判することもしなかった日本政府や都の卑屈な姿勢もあからさまになった。オリンピックは次回はパリで、その次はロサンゼルス、そしてオーストラリアのブリスベンと決まっている。冬季は来年の北京の後はミラノだが、その次は未定だ。果たしてこれらの大会が予定通り開催されることになるのだろうか。大会自体の性格や質を大きく変えなければ、続けることが難しくなるのではないだろうか。少なくとも僕は、オリンピックはもうやめたほうがいいと思う。以前から感じていたが、今回のオリンピックではっきりそう思うようになった。

・スポーツは各種目や競技でそれぞれ、ワールドカップや世界大会などの大きなイベントが開かれている。サッカーや野球に典型的なように、オリンピックはマイナーな大会と捉えられている競技も数多い。しかも、普通はほとんど話題にもならないし、メディアにも大きく取り上げられることのない競技や種目が、連日、次々行われて、観戦者はただ自国の選手が出ているかどうか、どの程度の成績かなどの興味しか持てない場合が多い。サーフィンやスケボー、あるいはクライミングをなぜ、オリンピックでやらなければならないのか。若者に人気の新種のスポーツを加えて注目度を増すことを狙ってのことで、あからさまな商業主義の見本のようなものだろう。オリンピックはもうやめよう。そんな声が大きくなるきっかけの大会だったと思う。

2021年8月2日月曜日

自転車ロードレースだけ観た

 

・ テレビがオリンピック一色になって、見るものがなくなった。毎日楽しみにしていたMLBの試合をNHKは中継しないから、スマホをテレビに接続してAbemaTVやYouTubeで見ている。今日はどっちで見るか、見られるか。試合が始まるとあれこれ試さなければならないから、オリンピックが邪魔で仕方がない。もともと興味のない種目で日本がいくら金メダルを取っても、そんなことには興味も関心もない。大騒ぎしているだろうテレビなどは、見る気にもならない。それにしても、エンジェルスは弱いが、大谷は打って、投げて、走ってと孤軍奮闘の活躍だ。このまま行けば間違いなくMVPだろう。試合中も大谷が出ると「MVP!、MVP!」の大合唱になる。

roadbike2.jpg ・ オリンピックは観ないと書いたが、一種目だけ観たものがある。男女の自転車ロードレースで、両方とも、ネットで長時間つきあった。レース自体は単調だが、マラソンとは違って面白いシーンもあった。何よりスタート地点の武蔵の森公園は実家の近くで、周囲の道は熟知しているし、道志から山中湖、篭坂峠を下って富士山に登り、富士スピードウェイに至るコースも、車では何度も走っていて、わかっていた。山中湖は自転車で1周したこともあった。

・コースの全長は男子が244kmで女子が147km、獲得標高は男子が4865mで女子は2692m。この距離と大半が登り坂のコースを男子は6時間、女子は4時間ほどで走った。僕は平坦な道をおよそ30km弱で1時間ほど走るのを日課にしているから、レースがどれほどの早さで走っているかがよく分かった。平坦な道なら50km、登り坂でも30km、下り坂になると80kmを超えるスピードを出すのだから驚いてしまう。しかも連日の酷暑で山中湖だって30度近くあったはずだ。熱中症になって倒れる選手がいなかったのが不思議なくらいの過酷なレースだったと思う。

roadbike1.jpg・ロードレースは個人競技だが、複数の選手が参加する国では、それぞれに役割が与えられている。強い国は最高5人まで参加できるから、一人は、水や食料の調達と配布役になって、集団の中を行ったり来たりする。あるいはエースに何かあって遅れたりすれば、風よけになって先導して集団に追いつけるようにする選手もいる。オランダは、そうやってサポートされた女子選手が銀メダルを獲得した。ツールド・フランスでもそうだが、ロードレースには役割分担を徹底させた団体競技という性格が強くある。

・もうひとつ、6時間も休まずに走り続けていれば生理的欲求もあるはずだ。今回代表で参加し、35位で完走した新城選手が、走りながらしちゃうんだという話をしていたことがある。タイツの脇からちょっと出してするから、自分だけでなく周りの選手にも飛沫がかかる。皆やるから気にしないんだと笑っていたのが印象的だった。さて今回はどうか。そんなことも気にしながら観ていたのだが、そういう行為に及んでいる選手は見つからなかった。さて女子は………。いや、やめておこう。

・ところで、今回のコースの最大の難所は富士スピードウェイから三国峠に登る道で、平均斜度が10%で最大では20%を超えるところもある。7キロほどの道で500mも上がるから、車で走ってもアクセルを強く踏む必要があるし、下る時にはエンジンブレーキを利かせないと危なく感じる道でもある。道路にはすべり止めのドーナツ状の穴があいている。そんな道を先頭の選手は平地でも走るように登っていった。すでに東京から200km近く走ってきて、なおこの元気さは人間離れしていると思ったが、多くの選手は3週間に及んだツールド・フランスを終えて、すぐに日本に来ているのだった。

・プロ選手の強靭さと過酷なスケジュールを改めて知ることになったが、女子は数学を専門にする研究者でもあるオーストリアのアマ選手が優勝した。スタートしてすぐに飛び出して、そのままゴールまで先行したのだが、プロのレースでは、ありえないことのようだった。彼女にはもちろん、サポート役もついていなかった。2位になったオランダの選手はゴールするまで優勝したと思っていたようだ。他の大きなレースでは使われるコーチからの無線連絡が禁止されていた結果で、それも面白いと思った。

・テレビ中継がなかったせいか、沿道には大勢の観客がいた。特に府中の大国魂神社周辺は大混雑だったようだ。テレビや新聞には批判の声が多く上がったようだが、オリンピックを強行しておいて、見に行くなというのは、主催者の身勝手というものだろう。それで感染者が増えるのなら、それは主催者にこそ責任がある。メディアから聞こえる批判は、責任逃れの言い分でしかないのである。もっとも僕は、ワクチン接種をしていないから、人混みには出かけない。

2021年7月19日月曜日

大谷選手の活躍の裏で


ohtani2.jpg・今年のメジャーリーグは、大谷選手の活躍でにぎやかです。暗い話が多い中で、メディアでは彼のホームランが清涼剤のように扱われています。僕もほとんど毎試合見て、またホームラン撃った、三振取ったと興奮しています。しかし、彼が所属するエンジェルスというチームについては、初年度から疑問を持ち続けていて、最近特に問題だと思っていることがあります。

・エンジェルスはトラウトのチームです。MLB最高の選手と言われ、毎年40億円を超える年俸をもらっています。これまでの成績を見れば、うなずける評価だと思います。けれども残念なことに、今年は5月中旬にけがをして前半戦の多くを欠場しました。エンジェルスには他にも高額年俸をもらっているのに、トラウト同様、ケガや故障で欠場する選手が大勢います。たとえば3塁手のアンソニー・レンドンは年俸31億円ですし、ジャスティン・アップトン外野手は27億円でした。ここにもう一人、アルバート・プーホルス一塁手の33億円をあげる必要があるでしょう。彼は途中で解雇されてドジャースに移りましたが、今年の年俸はエンジェルスが払っています。

・これらの選手に払っている年俸の総額は130億円ほどで、チームの年俸総額の70%近くを占めています。そして、エンジェルスは前半の試合の多くを、残り30%をもらう選手たちで戦ってきました。それをよくあったオーダーで見てみましょう。この先発野手の合計年俸は15億円ですから、トラウトはもちろんアップトン一人にも遠く及びません。このメンバーで5割を維持したのは驚きと言っていいでしょう。

1番 デビッド・フレッチャー:2.2億円
2番 大谷翔平:3.3億円
3番 ジャレッド・ウォルシュ:6500万円
4番 フィル・ゴスリン:6500万円
5番 マックス・スタッシ:1.8億円
6番 ホゼ・イグレシアス:3.8億円
7番 テイラー・ウォード:6500万円
8番 フアン・ラガレス:1.5億円
9番 ルイス・レンフィーフォ:6500万円

・実は同様のことは投手陣にも言えます。先発陣は大谷の影響もあって6人体制で、当初はディラン・バンディ(9.1億円)、ホセ・キンタナ(8.8億円)、アレックス・コブ(5.5億円)、アンドルー・ヒーニー(7.4億円)、グリフィン・キャニング(6500万円)、それに大谷でしたが、成績不振でバンディとキンタナが外れ、パトリック・サンドバルとホセ・スアレスの二人がマイナーから呼ばれて参加しました。この二人は6500万円以下かもしれません。

・もちろん、ケガや故障は選手につきものですから、仕方がないでしょう。けれどもエンジェルスにはプーホルス以来、おかしな契約が多すぎます。プーホルスは2012年から10年契約でエンジェルスに所属しました。1980年生まれで今年で40歳ですから、不良債券化することは予測できたはずです。実際ここ数年の成績は淋しいものでした。ところがエンジェルスは、2019年にトラウトと12年で総額4億2000万ドルの契約を結びました。この契約が満了する時、トラウトは40歳を超えますから、最後の数年は不良債券化するかもしれません。というより、今年のケガをみれば、既にその兆候が現れはじめていると言えるでしょう。昨年7年契約をしたレンドンも実力の過大評価であったことは言わずもがなだと思います。

・ドジャースやヤンキースに負けないお金を使っているのに、プレイオフには出られない弱いチームというのが、エンジェルスの現状です。この責任の多くはGMを始めとしたフロントにあるでしょう。実際去年までのGMは解雇されて、今シーズンからはペリー・ミナシアンに代わりました。しかし、彼が今シーズンに向けて新たに獲った選手の多くは故障や不振で活躍できていません。また、大谷選手は今年、2年で850万ドルの契約を結びましたが、当初はもっと低額で、大谷側の要求に対して、GMは年俸調停交渉も辞さないと強気でした。去年の不振が理由だと思いますから、今年の活躍はとんでもなく想定外のことだったでしょう。おそらく、今後の契約について頭を悩ましているはずです。

・メジャー・リーグのチームには高額になった選手は放出して、有望な若手と交換して育てるチームが少なくありません。低予算で毎年プレイオフに進出するチームとしては、タンパベイ・レイズやオークランド・アスレチックスが有名です。レイズは筒香選手を成績不振を理由に解雇しましたが、7.6億円という彼の年俸がこのチームの最高額でした。レイズは今年もア・リーグ東地区でボストン・レッドソックスと首位争いをして、金満球団のヤンキースを下位におとしめています。アスレチックスは、同じベイエリアにあるサンフランシスコ・ジャイアンツとは対照的に人気のない球団です。しかしGMだったビリー・ビーンが『マネー・ボール』で映画の主人公になったように、金を使わず、スター選手を作らずに強豪チームにすることを球団の方針にし続けています。

・エンジェルスはけが人続出のおかげで、マイナーから抜擢された若手選手が成長してきています。昨年の終盤に開花したジャレッド・ウォルシュ一塁手はその典型ですが、投手のサンドバルやスアレスなどがあげられます。他にも、今年メジャーで経験を積んで成長しそうな選手がいますし、マイナーには有望な選手も見受けられます。GMやマッドン監督はそんな状況を見据えて、選手を高額で引き抜くのではなく、若手を育てる方針に変更するでしょうか。解雇したプーホルス選手や来年で契約が切れるアップトン選手、それに不振の高額年俸の選手を放出すれば、大谷選手を始めとした若手選手の年俸アップに十分応えられるお金が用意できると思います。

・そんなチームに対して、大谷選手はどう考えているのでしょうか。彼とエンジェルスの契約は今年を含めて後3年です。その後もエンジェルスが引き止めようと思えば、今年のシーズンオフにも、高額な年俸で再契約をしようとするでしょう。自分が思う通りにやらせてくれるチームは多くはないですから、ずっとエンジェルスでと考えているかもしれません。あるいはワールドシリーズに出られるチームに移ろうとするでしょうか。いずれにしても、お金に左右されることだけはないように、と願うばかりです。

2021年4月19日月曜日

 

MLBがおもしろい

・MLBも去年は60試合で無観客で行われた。ダルビッシュや前田が活躍してそれなりに面白かったが、観客のいない試合は、やはり淋しかった。さて今年はどうなるのか、心配していたが、キャンプもスケジュール通り行われて、開幕にも漕ぎつけた。観客は2割とか3割だが、歓声の聞こえる試合はやはり盛り上がる。

・一番注目しているのは大谷で、去年は投げるのも撃つのも不調だったから、今年はどうかとキャンプ中から気になっていた。そうすると撃つは撃つは、特大ホームランを連発し、打率は5割を超えたし、投げても100マイルを超える速球で三振を取った。コントロールに課題が残ったが、今年の活躍を期待させる、十分な成績だった。

・好調さは開幕後も続いている。指の豆がつぶれて、投げるほうはまだ一回だけだが、スピードは十分で、投げた日にホームランも撃って、話題になっている。身体的には十分に回復しただけでなく、より強くなっているようで、この後の活躍が楽しみになった。エンジェルスは彼の活躍もあって、スタートダッシュに成功して首位を走っている。リリーフ陣も好調だから、終盤に勝ち越す試合も増えている。

・ダルビッシュや前田も引き続き好調だ。今年メジャーに移籍した有原や沢村などもがんばっている。投手に比べて野手の活躍が目立たないが、面白そうなシーズンになることは間違いなさそうだ。そうなると見る手段だが、NHKのBS以外で生中継を見ることができるのは、テレビではスカパーだが、これは契約していない。ネットで見るなら今年はSPOZONEで、年間パスが9900円で1ヶ月だけだと1650円だ。まだ契約していないが、これからの展開次第では契約するかもしれない。

・ところでアメリカのコロナ禍だが、ワクチン接種が進んで減少しているようだ。有原が所属するレンジャーズはテキサス州知事の宣言で、観客を100%入れてもいいことになった。大谷やダルビッシュが所属するカリフォルニア州の球団は33%で、ニューヨーク州は20%となっている。他方でカナダは入出国を厳しく制限しているから、ブルージェイズはトロントではなく、キャンプ地のフロリダで試合をしている。チームによってそれぞれだが、カリフォルニアは6月15日から経済活動の全面再開を宣言しているから、うまくいけばこの日から観客数の制限はなくなるのだろうと思う。

・アメリカは3000万人以上が感染し、56万人以上が死亡した。感染者数が52万人で、死者数が1万人以下の日本とは比較にならないが、アメリカでは終息が見え、日本ではこれからの桁違いの拡大が懸念されている。理由はもちろん、ワクチンの摂取率の違いだ。このまま行けば夏までには、アメリカはあらゆる制限が解除され、日本はまた緊急事態宣言を出さなければならなくなるだろう。スポーツが無観客になり、オリンピックが直前になって中止ということになるのかもしれない。基礎研究をおろそかにしてワクチン開発が遅れていることを含め、失敗の責任はすべて政府にある。 

・追記:エンジェルスとツインズの試合が、選手に陽性者が出たことを理由に2試合中止された。これまでにいくつかのチームで感染者が出て、試合が中止されているし、濃厚接触を疑われる選手が欠場したりもしている。選手の多くは既にワクチン接種を済ませているはずだが、決して安心できないことを改めて知らされた。 

2020年12月28日月曜日

来年こそオリンピックって本当ですか?

 

・山梨ローカルのTVニュースを見ていて、呆れることがいくつかある。その一つが、来年に延期されたオリンピックに関連するものである。例えば、オリンピックに出場が決まった、あるいは有望な選手にまつわるものや、ホームタウンとして外国選手を迎えることについてなどである。まるでコロナ禍など関係ないかのように、あるいはすっかりおさまっているかのようにして、夢や希望をまき散らす話は、見ていて正気とは思えない感じすら受けてしまう。

・オリンピックに参加するために日本に来る選手や役員は、数ヶ月から数週間前に日本にやってきて、ホームタウンとして契約しているところで調整をする。当然、選手と住民との間で交歓会などが持たれることになるが、コロナ禍ではこれができない。選手も役員も完全に隔離して、感染しないように気をつけるからだ。もちろん、住民にうつされてもいけないのである。しかしこれでは、ホームタウンの意味がなくなってしまう。テレビでは、迎える準備に取り組んでいるとは言っても、コロナについては何も言わないから、その報道の姿勢を疑ってしまう。

・同じことは聖火のリレーについても言える。今年延期の決定がされたのは、聖火リレーが始まる直前の3月末だった。その直前まで、やる予定で準備を進めていたのだが、今のところ、何の疑問もなく、やるつもりでいるようだ。もちろん、各競技での代表選びは進行中で、選ばれた選手たちにも開催は疑いのない事実のようだ。

・コロナ禍は日本でもひどいことになっているが、欧米では極めて深刻な事態に陥っている。キリスト教国にとってクリスマスは一年で最大の行事だが、それさえロックダウンで中止せざるを得なくなっている。ワクチンが使われはじめたといっても、多くの人に接種するためには、これから数ヶ月もかかるのである。オリンピックなど話題にもならないが、今年の春同様、年が変われば、各国の選手や役員たちから中止の要望が出てくるのは明らかだろう、十分な練習もできていないし、代表を選んでもいなかったりすれば、それは無理もない話なのである。

・日本の世論も無理だと考える人が多数を占めている。中止は30%ぐらいで、もう一回延期が40%ぐらいだが、これは質問自体がナンセンスで、再延期はないので開催か中止かで質問すべきことなのである。こんな世論にもかかわらず、政府やオリンピック担当者は、あくまで開催と言い続けている。首相は繰り返し「コロナを克服した証として開催」などと言っているが、克服などは当分出来っこないのである。

・政府は、無視し続けてきた「Go to~」批判を、支持率が急落した途端に中止した。しかし、オリンピックの開催を再検討する気配は全くない。開催した時にかかる費用についても全く具体性に欠けているし、ホームタウンについての言及もほとんどない。観客をどうするのか。大会を支えるボランティアをどうやって感染から守るのか。大会不参加を決める国が続出したらどうするのか。そう考えると、実際には、いつ中止を決断するかということになるしかないと思っている。TVには望むべくもないが、新聞がやんわりとでも中止を訴えることができない現状は、お粗末としか言いようがないのである。

・大会組織委員会は延期によって2940億円が追加されて、総額1兆6440億円になると発表した。しかし、ここにはコロナに対する対策費は含まれていない。また、公表されていないものもあって、3兆円を超えるのではとも言われている。コンパクト五輪と銘打った当初の予算は7000億円だった。こんなずさんなお金の使い方についても、オリンピックに協賛するメディアは弱腰だ。