・最近のアメリカ映画には珍しい、静かでしんみりとした話だった。舞台はニューオリンズで、墓地のシーンから始まる。死んだのはクラブ歌手だったようだ。参列したのは2人の同居人と、遊び仲間や近隣の人たちで、その集まりからは、暑くてけだるい感じ、生きることに疲れた様子が伝わってくる。
・死んだ歌手の娘が母の住んでいた家にやってくる。幼い頃から祖母に育てられて、母の思い出はほとんどない。けれども、母が住んでいた家に来て、そこに住もうと思うようになる。ただし、同居人の男二人がじゃまくさい。一人は老人で、元大学教授。もうひとりはかつての教え子で小説家をめざしている。師を慕う気持と、それゆえに枠を破れないでいるもどかしさ。二人の関係はまた親密でなおかつ束縛的だ。
・ストーリーは、そんな三人の関係の変化を巡って展開する。追い出そうとする娘と抵抗する老人。間に入る売れない小説家。彼女は母が遺した衣服などを整理していて、ひとつの手紙を見つける。老人のボビー・ロングにあてたもので、娘はその老人が自分の父親であることを知る。ありふれた話といえばそれまでだが、それが大げさでなく展開するから、引きこまれてしんみりした気分になった。
・キャストは地味ではない。老人役はジョン・トラヴォルタで娘はスカーレット・ヨハンソン。この映画を見て、トラボルタはいい感じで老けたな、とあらためて思ったし、スカーレット・ヨハンソンもなかなかいい(ただし、日本のテレビCMで荒稼ぎは興ざめだ)。疲弊したけだるい町と人びとのなかに咲いた一輪の花。彼女に母がつけた名はパースレインで、このあたりに咲く野生のハーブだった。
・この映画に引きこまれた原因はもうひとつ、挿入歌にあった。ブルース、カントリーといった歌がうまくつかわれていて、それぞれがなかなかいい。トラボルタがギターをもって仲間たちの輪の中で歌うシーンもある。ぼそぼそとした歌い方で"I Really Don't Want To Know"(知りたくないの)やイギリス民謡の「バーバラ・アレン」を歌う。さっそくアマゾンで注文したが、気になったミュージシャンはGrayson CappsとTrespassers Williamだった。改めて聴くとまた、なかなかいい。で、今度はまたそのCDが欲しくなった。
・この映画にはミシシッピー川も出てきた。この映画が出来たのは2004年だから、ニューオリンズ周辺を壊滅状態にしたハリケーンのカトリーヌが襲った1年前ということになる。映画に出てきたあの家や町も粉々で水浸しになってしまったのだろうか。ボビーは映画の中で病死したし、作家志望の青年は本を出したが、パースレインや町の住人たちはどうしたんだろう。この映画には、そんなことをふと感じさせるようなリアリティがあった。
・ニューオリンズには一度だけ行ったことがある。もう30年以上も前のことだ。夏休み中だったから、とにかくじとっとした暑さだけを覚えている。「欲望という名の電車」に乗って、フレンチ・クオーターでブルースやジャズを聴いた。音楽の町、フランスや奴隷制の面影をのこした歴史の町。若さにまかせてアメリカ中を40日以上、グレイハウンドバスを乗り継いで旅をしたが、いま思い出すと、ニューオリンズが、そのクライマックスだったような気がする。
・この30年のあいだに海外旅行が大衆化した。その変容に乗り遅れまいとして、世界中の都市が歴史や景観を魅力あるものに作りかえてきた。アメリカにもそれですっかりブランド化した都市がいくつもある。しかし、ニューオリンズはその流れに乗り損い、そのうえに猛烈な台風でやっつけられた。ブランド化したアメリカの都市にはあまり興味はないが、ニューオリンズにはもう一度行ってみたい。そんな気持が強く感じられた。
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unknownさんではなく、何か名前があるとうれしいです。