ポール・オースター
『写字室の旅』
『闇の中の男』
『オラクルナイト』
・オースターをずっと読み続けている。といっても寝る前にベッドの中でだから、数分の時もある。面白くなってやめられなくなっても、1時間を過ぎたら寝ることにしている。前回も書いたが、すべて一度読んでいるはずなのに、ほとんどストーリーを覚えていない。健忘症もここまでくれば呆れるより感心してしまう。もっとも、初めて読むような気持ちになれるから、これはこれでいいのかもしれないとも思っている。いや、思うことにしている。老いを正当化して自己納得しているのである。 ・小説は作家が作り出した世界であり、作家は登場人物の特徴はもちろん、その運命をどうにでもできる神のような存在である。生かそうが殺そうが作家次第で、その判断はあくまで、作品を面白く出来るかどうかにかかっている。しかし、登場人物の側に立てば、好き勝手にされてはたまらないという気持ちにもなるのもうなづける。 ・老人の夢想は、やはり眠れずにいる孫娘に聞かせる話として展開する。そして、二人がいる現実の世界にも「9.11」の惨事が起こることになる。彼女のボーイ・フレンドは志願してイラクに出兵して、捉えられて殺されるのである。 ・突然不慮の事故に襲われて、一命をとりとめたとしたら、その主人公はどう思い、それ以降の人生をどう生きるか。そんなモチーフから描き出されたのは、出版社に勤務する男が、歩いていて上から落ちてきたガーゴイルに当たるところから始まる。運良く助かった彼は、不意に、これまでの人生を捨てて、新しく生きることを決断する。飛行場に行き、乗れる飛行機に乗る。青いノートブックのせいか、物語は順調に展開するが、主人公がある部屋に閉じこめられたところで、ストップしてしまう。そこからどう脱出させるか、思いつかなかったからだ。この後、物語内物語は中断したままで、この作家と彼の妻との間で展開される物語が進行する。 ・題名の「オラクルナイト」は物語内物語で主人公の男に持ち込まれた小説の題名である。つまり、物語内物語内物語だ。なぜそれがこの本の題名になったのか定かではない。しかし、「オラクル」は神のお告げ、神託といった意味だから、小説を書くという行為が、神のお告げのようなものだという意味が込められているのかもしれない。作家は神として、一つの世界を創造する。オースターは、そこに罪の意識を感じて自分を罰している。そんなふうに読んだら、確かに作家は罪深い人なのだと思えてきた。 |