・俳優の館ひろしが医者の助言で禁煙をはじめるというCMがある。CMで公言しているわけだから、もう失敗は許されない。彼はヘビー・スモーカーで、禁煙を試みてうまくいかなかった経験もあるようだ。一大決心をして実行、という感じだが、そのCMを見て、喫煙は病気という認識が、これでまたいっそう強くなるな、と思った。
・当のCMのスポンサーはファイザー製薬で、薬は医者に処方してもらって服用するものだという。だから、健康保険がきいて費用も安く済むらしい。ただし、そのためには、ニコチン中毒だという医者の診断が必要になる。ファイザー製薬のサイトには、ニコチン依存症をチェックするページや、禁煙した場合のメリットが、数時間後から20年先まで丁寧に説明されている。一日一箱(300円)吸って20年続けると、その金額は 219万円になるという。喫煙は体に害があるだけでなく、まったくの無駄使いというわけである。
・僕は二年ほど前まで、毎日一箱ほど吸っていた。それもニコチンやタールの含有量が多い赤いウィンストンだった。もう40年になるから、体には相当悪かったのかもしれないが、特にこれといった病気も自覚症状も経験していない。だから、禁煙しようと思ったことは一度もなかった。ただ、飛行機が完全に禁煙になって、長時間吸わないでいても、そんなにきついと思わなかったから、やめようと思えばやめられるという感触はあった。ちなみに、依存症のチェックをやってみたが、10項目の質問には、はっきりYesと答えられるものが一つもなかった。
・とは言え、今でもたばこは吸っている。ただし、二年前からパイプに変えて、日に三度ほど煙をくゆらせている。パイプの煙は肺には入れない。口の中でくゆらすと、紙巻きとは違う味を感じることができる。朝起きてすぐや仕事の合間にちょっと一服といった感じで一日に数本ウィンストンも吸うが、パイプを始めてから、紙巻きは吸ってもあまり美味しいとは感じなくなった。吸う機会がなければ、数時間でも十数時間でも、吸わなくてもかまわない。だからだろうか、パイプを吸う行為や時間がいっそう楽しみになった。
・去年から山歩きを始めて、今年もここのところほぼ毎週一回、近所の山を歩いている。10kmほどの距離を4〜5時間程度といった目安で、最近では西沢渓谷、大菩薩峠、横尾山、そして日向山などを歩いてきた。それで見つけた楽しみは、頂上まで登っておにぎりを食べた後、パイプをくゆらせながら下山することで、何ともいえない心地良さを感じている。タバコのおいしさを味わえる至福の時間で、副流煙を気にすることもないし、吸い殻が邪魔になることもない。
・ファイザー製薬のページには、喫煙者の7割がニコチン中毒だと書いてある。だとすれば、3割はそうではないということになる。しかし現実には、やめたいなどと思わず、喫煙を楽しんでいる人も、意志薄弱者や病人のレッテルを貼られがちになっている。喫煙にはそれなりの楽しみもあるし、効能もある。そういったことが言えない、言いにくい風潮は、かなり行き過ぎた病的な徴候のようにも思えてしまう。