2022年10月17日月曜日

『MINAMATA ミナマタ』



minamata.jpg" ジョニ・デップが主演する『MINAMATA ミナマタ』は、制作をするというニュースを聞いてから、是非見たいと思っていた。それを見たのはもちろん、Amazonでだ。普段なら無料で見られるものしか見ていないが、これは別。水俣病にはずっと関心を持っていたし、ユージン・スミスと活動を共にしたアイリーンは、ユージンの死後京都で暮らしていて、ちょっと知っている人だったからだ。

『MINAMATA ミナマタ』は、熊本県水俣市に発生した「水俣病」をテーマにしている。高度成長期に起きた公害で日本の四大公害病と言われている。「チッソ水俣工場」による排水が不知火海を汚し、そこで取った魚を食べた人や産まれた子どもが発症した病気で、身体の痙攣や変形が症状として起きるものである。「チッソ」はその関連性を否定し続けてきたが、公害を告発し追及する運動が根強く続き、裁判で認定されたのは、ユージン・スミスが水俣に住み着いて写真を撮り続けて来た時期に重なっている。

minamata2.jpg" ユージン・スミスが水俣で撮った写真は「入浴する智子と母」が有名だ。1972年の『ライフ』に「排水管からたれながされる死 ―水銀中毒が日本の村を破壊する―」と題されたエッセイとともに発表され、水俣病が世界中に知られるきっかけになった。その写真も含めて『写真集 水俣』(三一書房)が出版されたのは、スミスが死んだ2年後の1980年だった。なお、この写真集はその後も普及版などが出されたが、映画の公開に合わせて『MINAMATA』(Creviis)が出版されている。

『MINAMATA ミナマタ』は水俣ではなく、日本の他の地でもなく、セルビアとモンテネグロで撮影されている。水俣市やチッソが反対したのかと思ったが、1970年代とは様変わりした水俣市には撮影に適した場所がなかったというのが理由のようだ。また映画には当然、多くの日本人が登場するが、一部の俳優以外はヨーロッパに在住したり滞在していた人たちを募って集めたということだった。そのモンテネグロのティヴァトの町に再現された舟小屋や居酒屋、そしてユージンの使った暗室は、そう言われなければわからないほど自然なものだった。

で、肝心な映画だが、かつては報道写真家として活躍していたスミスがニューヨークで酒に溺れた孤独な生活をしているところから始まっている。そこにアイリーンが来て、水俣病の話をして、二人で水俣に行くことになる。人生にもカメラにも絶望していたスミスが、水俣の人たちと親しくなり、病気の残酷さやチッソや日本政府の冷淡さに直面して、実情を写真で世界に伝えることを決心するのである。

『MINAMATA ミナマタ』はまるでドキュメントのように作られている。病に苦しむ人たちが入院している病院に潜入して、その変形した身体や痙攣している様子を写真に収め、チッソ工場前での抗議の座り込みでは、スミス自ら暴行を受けて負傷してしまう。写真の公表を抑えるために金を持ちだすチッソの社長とスミスとのやり取りもあって、ジョニ・デップはすっかりユージン・スミスになりきっていて、デップのすごさを改めて見た気がした。

映画はもちろん、日本でも公開されたが、それほど話題にもならなかったようだ。正確な数字は分からないが、ジョニ・デップの他の映画に比べたら、観客動員も桁違いに少なかっただろう。ただ、ネットでは見られるから、ぜひ見て欲しいと思う。何より大事なのは、水俣病は過去の話ではなく、現在でも国やチッソを相手に闘われている問題なのである。 

2022年10月10日月曜日

大谷選手のMLBが終わった

 

コロナ禍でどこにも行けなかったから、一日の中心は大谷選手の試合を見ることだった。期待以上の活躍で、投手としては166イニング投げて15勝9敗(4位)、防御率2.33(4位)、219三振(3位)、奪三振率11.87(1位)であり、打者としては打率.273(25位)、35本塁打(4位)、95打点(7位)、ops.875(5位)であった。今年もMVPをもらって当然という成績だが、62本のホームランを撃ったジャッジ選手の方だという声が大きいようだ。

打者としての規定打席数はもちろん、投手としても規定投球回数をクリアしたのは20世紀以降のMLBの歴史上初めてのことである。ホームランのアメリカンリーグ新記録よりはるかに価値のある成績だと思うが、アメリカの世論はジャッジにMVPを取らせようとしている。代わりに別の賞を作ったらという意見もあるが、それなら投手にサイヤング賞があるのだから、打者の方に新設したらいいのだと思う。もっとも、今年もMVPが大谷なら、これからしばらくは大谷ということになってしまうから、今年は避けたいと言う人が多いのかもしれない。

エンジェルスは今年も負け越しでプレイオフには行けなかった。高給取りがケガで出場できなくて、マイナーから挙がった選手や未契約のベテラン選手を獲ってやりくりしたのだから、勝てるわけはなかったのである。腹が立って途中で見るのを止めたこともあったが、必死にプレイしても、成績が悪ければ落とされたり、首になったりする厳しさはよくわかった。

メジャーに初登場した選手の多くは親や兄弟等々を呼ぶが、そのプレイに一喜一憂する様子が映されたのはほほ笑ましかった。もちろん、最初は頼りなかった選手が徐々に活躍して、メジャーに定着したというケースもあって、来年のエンジェルスは、今までよりはかなりましになるのでは、と思ったりしたが、去年の今頃もそんなことを思ったような気がする。

ところで、大谷選手は3000万ドルで来年度1年だけの契約をエンゼルスと交わした。今年が550万ドルだから445%増ということになる。ソフトバンクの選手全員に匹敵するというからすごい額だと思う。ただし、これでも安くて実質価値は5000万ドルを超えるという人もいる。他方で大谷がそうだったように、メジャーに挙がった選手は、どれほど活躍しても6年間は低い額でおさえられてしまうという現状がある。そしてマイナーの選手は、家を持つことはもちろん、食事も十分とれないほどの低賃金でプレイしなければならない。格差社会の露骨な見本と言えるだろう。

エンジェルスはオーナーが売却することを発表した。現オーナーがディズニー社から買った時の額は1億8400万ドルで、現在の価値は30億ドルを超えると言われている。所有しているだけで15倍以上に膨れ上がったのだが、スタンドが満員になることが稀だったのになぜ儲かるのか、不思議な感じがした。テレビの放映権が大きいと言われているが、エンジェルスの試合をほぼ毎試合中継したNHKやABEMAは一体いくら払ったんだろう。お金にまつわる話は、気分のいいものではなかった。

ともあれMLBが終わって、これから来年の春まで、一日をどう過ごすか。僕にとっては小さくない問題である。

2022年10月3日月曜日

やめられない、とまらない!?

 

大多数の反対にもかかわらず安倍の国葬が強行された。反対が多くて国葬を国葬儀と変えたりしたが、これを国賊葬だと思った人は少なくなかっただろう。もちろん僕もその一人だ。だからテレビ中継などは見ていないし、新聞記事もいっさい読まなかった。腹が立つより反吐が出る。反対が多かったら止める。それができないのは今度も一緒だった。これを日本人が持つ精神性として理解する人もいるが、そうではない理由も、オリンピックにまつわる利権で明らかになりつつある。

安倍の蓋が外れたせいで、検察がオリンピックにまつわる疑惑を追及しはじめている。オリンピック委員会理事の高橋治之が五輪スポンサーの選定をめぐって衣服のAOKIや角川書店等から賄賂を受け取っているという疑いだ。すでに1ヶ月半も拘留されているが、疑惑はさらに広がりを見せている。オリンピックを支援するスポンサーには4ランクあって、問題になっているのは一番下の「オフィシャルサポーター」である。ここに入るためには10億円程度の支援金が必要とされているが、高橋は、それを安くする見返りとして賄賂を要求したというのである。

もちろんこれは高橋一人に留まるものではない。委員長であった森喜朗やJOC会長だった竹田恆和の名前が取りざたされている。そもそも竹田はオリンピックの招致活動の際にアフリカ諸国の票を集めるために賄賂を使ったとして、フランス検察から疑惑を投げかけられてJOC会長を辞めているのである。そしてここには、買収資金をめぐって菅義偉や嘉納治五郎財団の名前も挙がっている。さらに、招致活動の裏には神宮外苑再開発にまつわる利権の話もあって、それを実現させるためにオリンピック招致を口実にしたのでは、といったうがった見方もする人もいる。オリンピックをだしに使って利権を手に入れようと画策したとしたら、これはとんでもない大疑獄事件になるだろう。

こんな話を耳にすると、たとえコロナがひどいことになっても強行せざるを得なかったはずだと納得させられてしまう。止められないのは利権のせい。そう考えると、原発政策も、コロナに対する対応のまずさもストンと腑に落ちる。地震と津波であれほどの被害が出たのに、再生可能エネルギーに大転換できなかった。コロナについてもワクチンや治療薬の開発ができていない。日本のIT開発の遅れは致命的だと言われているが、これも大企業と官が繋がって、新しい開発や流れを押さえ込んだからだとされている。輸出を牽引した自動車産業も、ハイブリッドや水素にこだわるトヨタのせいで電気自動車が開発できていない。

最近の円安と物価高の原因がアベノミクスの失敗にあるのは明らかだが、何の手だてもない日銀には、もはやどうすることもできない。円安と物価高はますます嵩んでいくし、日本の財政破綻といった危機的状況だって考えられないことではない。政治も経済も社会もめちゃくちゃにした安倍は国賊ものだ。そう言ったのは自民党議員の村上誠一郎だが、そんな声はわずかで、メディアの多くも押し黙っている。やめられない、とまらないの先に何が待っているか。末恐ろしい限りである。


2022年9月26日月曜日

Lady Gaga "A Star Is Born"

 

star1.jpg"レディ・ガガはマドンナの二番煎じだろうぐらいにしか思っていなかった。だから彼女のCDは一枚も持っていない。もちろんかなり過激な政治的発言をして話題になったことは知っていたが、それもまた、マドンナと一緒と思っていた。

そんな程度の関心だったが、Amazonでたまたま見つけた『アリー/スター誕生』という題名の映画を見た。もちろんガガが主演であることも知らずにだったし、誰が監督で誰が出ているかも確認しないで見始めた。面白くなければ途中でやめる。そんなつもりだったが、最後まで見て、サウンドトラックまで買ってしまった。

star2.jpg"『スター誕生』はすでに三作作られていてこれが四度目のリメイク版である。僕はこの三作目を見たはずだが、内容についてはあまり覚えていない。主演したのはクリス・クリストファーソンとバーバラ・ストライサンドで、今調べるとアカデミーの歌曲賞を取ったようだ。クリスファーソンはカントリーのミュージシャンだが、この時期には多くの映画に出ていて、そのほとんどを見ている。たとえば、ボブ・ディランと共演した『ビリー・ザ・キッド/21才の生涯』(1973)、三島由紀夫の原作を映画化した『午後の曳航』(1976)、『アリスの恋』(1974)、そして『コンボイ』(1978)などである。もちろん、いい歌もあって、ジャニス・ジョプリンが歌ってヒットした「ミー・アンド・ボビー・マギー」が代表作になっている。

ガガが主演する四作目もカントリーの人気ミュージシャンに見いだされてスターになるという話である。共演したブラッドリー・クーパーは、ステージでのパフォーマンスも彼がやり、監督も務めている。知らない俳優だと思ったが、後で調べると、Amazonで見た『世界にひとつのプレイブック』(2012)でアカデミー主演男優賞にノミネートされているし、『アメリカン・スナイパー』(2014)とこの『スター誕生』でもノミネートされている。あるいは『ジョーカー』(2019)では製作者になっている人である。

で、肝心の映画についてだが、酒とドラッグに溺れたカントリーのスターだったジャクソン・メインが、たまたま入った酒場で歌うアリーに興味を持つところから始まる。その自作の歌にほれ込んで、自分のステージで一緒に歌わせたりして、彼女を人気者にし、恋に落ちて結婚もする。しかし、自分を上回る人気者になることで、また酒やドラッグに溺れるようになり、最後には自殺をしてしまう。アリーはグラミー賞を取るのだが、そこで歌うのは彼に対する愛と惜別の歌である。

いい歌が多かったからサウンドトラック盤を買ったが、あらためてガガの声量に感心した。ただ、彼女の他のアルバムについてはすぐ買おうという気にはなっていない。

2022年9月19日月曜日

島田雅彦『パンとサーカス』(講談社)

 

simada1.jpg島田雅彦の『パンとサーカス』は、2020年7月から21年8月まで東京新聞朝刊に連載された作品で、550頁にもなる大作である。彼は政治批判の発言も多く、この作品も自民党が支配し続ける日本の政治機構を壊して世直しすることがテーマになっている。2年前から1年前にかけての政治状況が色濃く反映された内容で、連載小説であることがよくわかったが、それだけに、安倍の死後に露呈している現状とは何か違うという感想を持った。

物語では二人の青年と、その一人の腹違いの妹が主人公になっている。三人は現実の日本に不満を持っていて、アメリカ留学をしてCIAに就職し、日本の政治中枢に入り込んだ一人を中心にして、政権の転覆を狙って行動するという話である。

日本は戦後ずっとアメリカに支配されたままで、今の政権も忠犬そのままにアメリカの言うなりである。沖縄の基地は返還されないどころか、軟弱地盤がわかった辺野古に無理やり新しい基地を造ろうとしているし、地位協定も何があっても改訂しようとする気もない。おまけにアメリカの兵器を言われるままに爆買いして、防衛費を増額させようとしている。

三人は協力して、首相を支える人物を暗殺し、ドローンを使って議事堂や米軍基地を襲撃する。それで政権は倒れ、日米関係にも大きな変化が訪れる。そんな内容で、日本とアメリカはもちろん、中国や韓国との表と裏の関係、暗躍するスパイや黒幕になる老人の存在など、話は複雑に入り組んでいて、エンターテイメント小説といった趣もある。読んでいて飽きさせない内容だった。

登場人物も首相は明らかに安倍だし、その周辺でこびへつらって暗躍する政治家や官僚も、誰かがわかるような設定だった。そのダメさ加減とは対照的に、アメリカの力は強固なもので、それをどうやって出し抜き計画を実行するかが、この物語の核心だった。それだけに、7月に起きた安倍銃撃と彼の死後に露呈されている、政治家と旧統一教会関係の根の深さとそれによる政治の混乱を見ると、小説との対照が際立つばかりだった。

何のことはない安倍が死んで、それまで隠していた悪事の蓋が外れてこぼれだし、旧統一教会の実態と自民党議員との関係があからさまにされているし、五輪の贈収賄の摘発に検察が血眼になっている。国葬などといったとんちんかんなことをやろうとしている岸田政権はいつまで持つかといった状態だし、自民党自体もぶざまな醜態を晒すだけである。この時期にエリザベス女王が亡くなったというのも、安倍の国葬の陳腐化を強めるだけだろう。

統一教会のために不幸な目に合わされた青年が、手製の銃で首相を狙撃したという一つの行為が、今の日本の状況を作りだしている。まさに事実は小説より奇なりで、新聞での連載が1年遅かったら、作者は結末をどうしたのだろうと、意地悪な質問をしたくなった。小説では新しい政権ができるのだが、現実の野党、とりわけ立憲民主党の存在感のなさもまた、小説とは異なっている。日本は再生などはできそうもないし、アメリカとの関係も変わりそうもない。

最後にもう一つ。僕にはこの小説の題名である『パンとサーカス』の意味が未だに分からない。これも作者に聞いて見たいこととして残った。

2022年9月12日月曜日

雨ばかりの夏だった

 

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それにしても雨ばかりの夏だった。じめじめして家の中がカビ臭い。去年は屋根の張り替えで、資材置き場にしたために取れなかったミョウガが、今年は少しだけ収穫できた。根が張りすぎたために一昨年、荒っぽく間引きもしたから、ミョウガが出てくるのは広がった周辺だけだった。ザルいっぱい取れた頃が懐かしいが、復活してくれるのだろうか。

forest186-2.jpg9ヶ月ぶりに孫がやってきた。7月に家族全員がコロナに感染したという。陰性になったから安全だと言われたが、ちょっと心配だった。近づかないようにと思っても、そういうわけにもいかない。おんぶに肩車などもやり、一緒にピザを焼き、前日に作ったシュークリームも食べた。当然だが、しばらく会わないと大きくなるし、言葉づかいも変わってくる。もっと頻繁に会えたらいいのだが、コロナが収まるまでは難しいだろう。で、数時間で帰ったが、その後1週間は、症状が出ないかと心配だった。

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雨ばかりでふやけたせいか。腐りかけの階段が壊れてしまった。新しく作り直したのだが、デッキにうまくはまらないし、踏み板が斜めになっているし、幅も一緒ではない。同じように切って、打ちつけたはずなのにと何度かやり直した。まだ気になるところはあるが、穴だらけになってしまうからと諦めることにした。引っ越してから3回目だから10年ぐらいは持ったのだろうと思う。

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ちょっと前から屋根の梁あたりで蜂がにぎやかに飛び交うようになった。二階の窓から網戸越しに懐中電灯で照らすと、蜂が何匹も近づいてきた。慌てて窓を閉めると数匹、網戸と窓の間に入り込んだ。翌日には死んでいたので、パートナーがカメラで撮って、ネットでどんな蜂なのか質問をした。そうするとチャイロスズメバチで、攻撃性が強く強力な毒を持っていると回答があった。ただ、他の蜂の巣を乗っ取ると書いてあったが、巣が梁のまわりでだんだん大きくなっているから作っているようにも見える。いずれにしても、そっとしておいて、冬になったら落とそうと思っている。

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少しはどこかに行こうと、霧ケ峰の八島ヶ原湿原に出かけた。久しぶりの好天で、湿原を一回りした。平日だったが野草や野鳥目当ての大勢の人がいて、マスクをしての散策になった。帰りは白樺湖から八ケ岳を経由して、ドライブを楽しんだ、閉じこもっていたから、ちょっとすっきりした気分になった。

2022年9月5日月曜日

最近見た映画

 

journal3-210-1.jpg"どこにも出かけないから映画をよく見ている。もちろん、映画館ではなくAmazonでだ。自分が歳取ったせいもあるが、長年見てきた俳優が同じように高齢化していることもある。で、老人ホームをテーマにした作品を何本か見た。ダイアン・キートンはウッディ・アレンの作品に出ていた頃からのファンだが、『チア・アップ』は老人ホームに入ってチアリーディング・チームを作るという話である。余命のかぎられた癌を宣告されて、最後はホームで過ごそうと思ったところから話は始まる。いくつもの難局を乗り越えて、大会に出場して大喝采を得た後で死ぬという話だが、彼女のチャーミングさは健在だった。




journal3-210-3.jpg" 『43年後のアイ・ラブ・ユー』は、演劇評論家の主人公が、昔恋人だった舞台女優がアルツハイマーになって老人ホームに入ったというニュースを見て、自分も同じホームに入るという設定である。もちろん、病気を装ってだが、彼の家族はそれを鵜呑みにしてしまう。彼の目的は、女優の病状を何とか回復させようとすることで、いろいろ昔話を持ちかけるが、彼女にはまったく届かない。しかし、そんな目的を理解した孫娘の協力で、女優がかつて演じた芝居を老人ホームで上演して、彼女の記憶を呼び覚ますことに成功するのである。





journal3-210-2.jpg"『チア・アップ』で共演していた女優が主演する映画をAmazonが勧めていたので『Stage Mother』を続けて見た。ゲイの息子が薬物依存で死んだという連絡を受けとるところから始まる。葬式に参列するためにテキサスからサンフランシスコに出かけるが、ゲイばかりの異様さに、途中で退出してしまう。しかし、息子が主役で出ていたゲイ・バーの仲間たちと親しくなり、観光客を対象にしたショー・ホールとして再建させて成功するのである。そのジャッキー・ウィーヴァーはオーストラリア出身で、『世界にひとつのプレイブック』でアカデミー助演女優賞を得ている。この映画もAmazonで見ていたのだが、まったく印象に残っていなかった。

こんなふうにAmazonでの映画鑑賞が半ば習慣化している。最近見て面白いと思ったのは他にもたくさんある。聾唖の家族の中で一人だけ耳が聞こえて歌もうまい娘が、いくつもの難局を乗り越えて音楽大学に進学する『コーダ・あいのうた』、デブでいじめられっ子だった少年が、やはり歌の才能を生かしてオペラ歌手になるという『ワン、チャンス』、イギリスで捕虜になったナチスの兵士が、サッカーのゴールキーパとして「マンチェスター・シティ」に入り、やがて国民的英雄となる実話に基づいた『キーパー』、自分の不注意で家が火事になり子どもを死なせた主人公の再生物語である『マンチェスター・バイ・ザ・シー』、年老いた美術商が最後に、名前がなくて価値の定まらなかった肖像画を描いた画家を突き止めるという『ラスト・ディール』などである。

映画三昧と言いたいところだが、出かけることができないかわりに仕方なくといったところでもある。ジョニ・デップがユージン・スミス役になった『MINAMATA ミナマタ』も見たが、これは次回のコラムで書くつもりだ。