2010年4月5日月曜日

トニー・ガトリフの映画

・トニー・ガトリフは一貫してロマをテーマにした映画を作ってきた。母親がロマ人という自らの「アイデンティティ」と、迫害を受け続け、無視されてきたロマの歴史と現状を物語にしている。そのうちの何本かをDVDで購入した。

tony1.jpg ・『ガッチョ・ディーロ』は1997年につくられている。題名はロマ語で「愚かなよそ者」という意味で、死んだ父が追い求めたロマの音楽をさがしてルーマニアを旅するフランス人青年の話である。雪道を歩いてたどり着いた村で、ロマの老人に出会い、そこで酒を飲んで、家に泊めてもらうのだが、最初はうさんくさいよそ者として怪しまれながら、少しずつ中に溶けこんでいく。受け入れてもらうために何より必要なのは、ロマのことばを覚えて使うことで、その相手は好奇心旺盛で彼のまわりに集まってくる子どもたちだった。
・老人はバイオリンの名手で、彼が率いる村の楽団はブカレストのレストランや結婚式に呼ばれて演奏をして現金を稼いでいる。そんなふうにして受けいられている反面で、ロマは嫌われ、差別もされている。老人の息子は不当な罪で投獄されていて、老人はそのことを繰りかえし怒り、また悲しむ。その息子は数ヶ月後に出所するが、酒場で投獄の原因になった村人たちに暴力を働いて、逆にロマの集落を焼かれ、殺されてしまう。
・登場人物のうち俳優は主人公の青年を演じるロマン・デュリスだけだ。彼と恋仲になるダンサー(ローナ・ハートナー)はロマの歌手だし、老人はガトリフがたまたま現地で見つけたバイオリン弾きだ。そんな人たちによって展開される物語が、まるで名優たちの演技のようにリアルに伝わってくる。噂話や猥談に花を咲かせる女たちや男たち、そして誰より登場する子どもたちの様子は、まるでドキュメントのように自然だ。

tony2.jpg ・ロマはインド西部から中近東を経てヨーロッパに移動し、各地でその地の音楽に独特の味つけをして発展させた人たちだ。ガトリフが映画のテーマにするのはそんなさまざまな音楽で、『ベンゴ』(2000)はスペインとフラメンコが主題になっているし、最新作の『トランシルバニア』(2006)が描くのはヴァルカン半島のロマと音楽だ。もちろん、音楽はそれぞれに違い、踊りもまた多様だが、映画を続けてみると、そこにはまた変わらないロマの特徴も感じられてくる。ガトリフの作品には千年に及ぶロマの旅を描いた『ラッチョ・ドローム』(1992)があり、ここでは、迫害を受けながらも、各地の音楽や踊りに欠かせない存在となったことが力説されている。けれどもまた、ロマはそれぞれの地でもロマとして独立し、けっして溶けこもうとはしてこなかったのである。

gypsy3.jpg ・もう一本、ジャスミン・デラルの『ジプシー・キャラバン』は、各地のロマが一緒になってアメリカを演奏旅行したドキュメントだ。スペイン、ルーマニア、マケドニア、インドから5つのバンドが参加したツアーはアメリカやカナダで大絶賛を受けるが、出演者たちの間には、共通性よりは互いの違いに対する違和感の方が強く出てしまう。インドの演奏や踊りに顔をしかめ首を振るフラメンコのダンサーなどの様子は、ロマ同士の間にはほとんど何の繋がりもない現状が浮かびあがってきて、興味深かった。
・もちろん、6週間に及ぶ講演旅行の間には、互いの間にある違いをこえた一体感が生まれてくる。ロマの血を引く人たちは、ヨーロッパに 600万から900万人、アメリカにも100万人と言われている。統計には出てこない人や混血をして溶けこんだ人などを加えれば、その数ははるかに多いようだ。そして、その人たちをつなげるルートや組織は、今のところほとんどない。

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unknownさんではなく、何か名前があるとうれしいです。