伊藤章治『ジャガイモの世界史』『中公新書
林景一『アイルランドを知れば日本がわかる』角川書店
・ジャガイモは毎日の食事に欠かせない食材で、それは世界中どこの地域でも食べられている。しかし、そんななじみの野菜が日本にやってきたのは400年ほど前のことだ。ジャガイモは南米のペルーにあるチチカカ湖あたりが原産で、コロンブスのアメリカ大陸発見後、数十年経ってヨーロッパに持ちこまれたものだから、そのまた数十年後には日本にまでたどり着いたことになる。同様の旅程を経てやってきたものには、他にもトウモロコシ、唐辛子、トマト、そしてカカオなどがある。ちなみにジャガイモという名の由来は、ジャワ島のジャカトラ(ジャカルタ)にある。
・伊藤章治の『ジャガイモの世界史』には「歴史を動かした貧者のパン」という副題がついている。ヨーロッパ諸国が近代化の過程で多くの戦争をし、また冷害に悩まされた時に、ジャガイモはその急場をしのぐ救世主になったし、近代化が進むと労働者階級の人たちの主食となった。日本でも北海道の開拓などでは、酪農が軌道に乗るまでの重要な食材になったようだ。
・アイルランドはその近代化の過程で、イングランドの圧政やイギリス人の不在地主によって苦しめられ、頼みのジャガイモが病気になって大飢饉を招いたという歴史を経験している。1845年から数年間のことで、それをきっかけにして、アメリカへの移民が急増した。南米原産のジャガイモを北米に持ちこんだのは、そのヨーロッパからの移民だったと言うから、南から北へではなく、いったん東に行って西にUターンしたということになる。
・林景一の『アイルランドを知れば日本がわかる』には、大飢饉による餓死や移民によって人口が急減したアイルランドが、EU加盟以後急成長して、現在ではEUの中で大きな存在となってきていることが紹介されている。音楽とギネスだけでなく、ハイテク産業を誘致して、工業立国に変身してきているのだが、それはアメリカに移民して成功したアイルランド系の企業の存在が大きな力になっているようである。
・アイルランドの人口は、ジャガイモによって18世紀の半ばから19世紀の半ばにかけて150万人から800万人に急増し、大飢饉によって急減して、一時は260万人までに落ち込んだそうである。現在では北アイルランドとあわせて600万人に回復しているが、世界中に移り住んだアイルランド人の子孫は、アメリカの4000万人のほかに、カナダやオーストラリアなどでさらに1000万人を越えるほどになっている。
・アイリッシュ・アメリカンが得た職は警察官や消防士などの危険な仕事やスポーツ選手(ボクシング、野球)、そして映画(監督、役者)が多かったようだ。たとえばきわめてアメリカ的な映画の西部劇を代表するジョン・フォードやジョン・ウェインは有名だが、映画に繰りかえし登場したビリー・ザ・キッドやパット・ギャレット、あるいはアラモの砦のデービー・クロケットもアイリッシュだったそうである。
・そんなことを読んでいるときに、ライ・クーダーとチーフタンズがメキシコに及んだアイリッシュの音楽をテーマにしたアルバム”San Patricio”を知った。メキシカンでもありアイリッシュでもある、そんな不思議なアルバムだが、内容はアメリカとメキシコ(米墨)の戦争(1846)でメキシコ軍に参加してアメリカと闘ったアイルランド人が登場しているようだ。アラモの砦はこの戦争の発端になった戦い(1836)のアメリカ側の陣地だから、アイルランド移民は、両軍に別れて闘ったことになる。ちなみに、この戦争に負けたメキシコはテキサスからカリフォルニアまでを失った。
・アルバムには90歳を越えたチャベラ・バルガスが登場して歌っている。息切れをして裏声になるところもあるが、"Luz De
Luna"はDVDにもあってなかなかいい。他にもリラ・ダウンズ、リンダ・ロンシュタット、それにエンヤの姉のモイヤ・ブレナンなど、参加者も多彩で聞き応えがある。それにしても、ライ・クーダーはいい仕事をしていると思う。
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unknownさんではなく、何か名前があるとうれしいです。