2011年2月7日月曜日

地デジ対策への脅迫的お願い

・テレビのアナログ放送の停止まで半年を切った。アナログ放送の上下に廃止のお知らせが常時映るようになったのは去年の9月だが、最近では、アナログ対応のままだとこうなりますよといって画面を砂嵐状態にする警告が、時折登場するようになった。テレビを買い換えたり、チューナーやアンテナを買ったりしなければ、テレビを見ることができなくなるぞ!、という脅しがいよいよ始まったのである。

・この欄ではすでに2度、地デジ化が政策的な大失敗であることを指摘してきた。しかし、テレビはもちろん新聞も、この問題にはほとんど触れることもない。その理由が既得権の確保や自己保身の姿勢にあることは明らかだが、これほど徹底されると、何度でも繰りかえして指摘し、批判しなければという気になってくる。見ているテレビが突然砂嵐状態になって、人気の女子アナが笑顔で対応を促したりすれば、余計に腹も立ってくるというものである。ちなみに我が家のテレビはデジタル対応だがブラウン管のままで、壊れるまでは液晶などに買い換えるつもりはない。

・テレビ放送のデジタル化は世界の趨勢で、これ自体は問題とされることではない。問われるべきは地上波だけを使ってやるという点にある。この地デジ化に政府は国策として10年以上の歳月と1兆円を超える金を費やしてきた。しかし、デジタル放送は他方で、CATVやBS、CSなどの衛星放送で地デジ以前から実用化されてきた。これらを有効に使えば、全国くまなく地デジで視聴できなくても、デジタル放送への移行はもっと簡単で費用もかからずに実現できたはずなのである。

・ちなみにアメリカではテレビの視聴はCATVが主で、その普及率は70%を越えている。衛星放送やインターネットを使うことも可能だから、地デジ化の方策は、ごく限られた地域だけで済んでいるようである。あるいはEUでは、それぞれの国によって事情が異なるが、衛星放送を主にデジタル化したところが多いようだ。いずれにしても、日本のように全国規模で一律にやっているところは少ないのが実情だと言えるだろう。

・なぜ、そうなのかについては、日本特有の理由がある。まず、前述した既得権を最優先にした政策があげられて、それはCATVや衛星放送から続く電波行政の姿勢である。新しい技術が実用化された時に、アメリカでは新しい市場、新しいコミュニケーションの手段という観点から、多くの参加者と多様な使い方を自由に工夫する余地が考慮されてきた。ところが日本では厳しい規制によってそれへの参加や使用法が制限されてきた。CATVや衛星放送に独自な局や番組が登場して、それらを視聴する人びとが増えたアメリカと、内容の貧困さゆえに普及が遅れた日本との違いは、何より、国の政策の違いにあったのである。ちなみに、日本でのCATVの普及率は15%程度でしかない。

・インターネットの急速な発展と普及によって、放送と通信の境界線がほとんどなくなってきている。電波の利用を有線と無線に分けて、前者を電話、後者をラジオやテレビの放送に使い分けるようにした主な理由は、そのコストや利益の回収方法に合ったといわれている。つまり利用者や使用料を特定する必要があった電話は有線、聴取者や視聴者ではなくスポンサーから収入を得るシステムを作りだしたラジオやテレビは無線にという棲み分けになったのである。その有線と無線の棲み分けがほとんど無意味化した現在では、放送と通信を一体化して取り扱う必要があるのだが、国の政策には、そんな発想が強く見られるとは思えない。

・だから日本における地デジ化は、国民に新しいテレビやチューナー、そしてアンテナの買い換えを負担させて、余計な出費とまだ使えるテレビをゴミにしたばかりでなく、これからますます利用の増えるインターネットやケータイに電波領域の多くを割り当てることができないのだ。これは、近い将来に必ず、大きな問題になるはずである。

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