"Chimes of Freedom"
・「アムネスティ・インターナショナル」は「国際法に則って、死刑の廃止、人権擁護、難民救済など、良心の囚人を救済、支援する活動を行っている」NGO(非政府組織)である。その活動50周年を記念して、ボブ・ディランのトリビュート・アルバムが作られた。4枚組のアルバムには70曲を超える歌が収められている。歌っているのは80組以上のミュージシャンで、その多くはこの記念アルバムのために収録されたものだ。CDのほかにデジタル版もiTuneなどで配信され、そちらの方が3曲多いようだ。
・ジョニー・キャッシュで始まり、ディラン自身の"Chimes of Freedom"で終わるこのアルバムに参加しているのは、パティ・スミス、ピート・タウンゼント、スティング、マーク・ノップラー、ジャクソン・ブラウン、ジョーン・バエズ、カーリー・サイモン、シニード・オコーナー、クリス・クリストファーソン、ピート・シーガー、マリアンヌ・フェイスフル、ブライアン・フェリー、エルビス・コステロなど有名なミュージシャンのほかに、初めて聞いた名前の人やバンドが少なくない。誰もが皆ディランの曲をそれぞれにアレンジして歌い演奏していて、アルバム自体としても聴き応えがある。中でもとりわけ秀逸なのは95歳になるピート・シーガーがラップのように歌う"forever Young"だ。
・このアルバムの収益はもちろん、全額、アムネスティの活動に捧げられる。アムネスティの50年はディランの50年でもある。その関係の深さについて、アルバムには次のような文章が寄せられている。
アムネスティ・インターナショナル・ミッションとボブ・ディランの結びつきについては、何ら説明する必要のないほど明らかで自然なことのように思われます。半世紀の間アムネスティは、独裁的な権威に抗する個々の良心の尊厳という立場から、世界中の迫害され、投獄された人びとの基本的人権の保証を訴えてきました。同様に半世紀にわたってボブ・ディランの芸術は、人びとがおかれた現代の状態に対する苦悩と希望を模索し表現したものでした。
・このアルバムの題名にした"Chimes of Freedom"には「無数の混乱させられ、非難され、虐待され、だまされたり、もっと悪くされた者たちのために」鐘が鳴っていた、という歌詞がある。それはまさしくアムネスティの賛歌なのである。もちろん、アムネスティの主旨を表す曲はほかにもたくさんある。「風に吹かれて」「時代は変わる」、そして「アイ・シャル・ビー・リリースト」等々。その70数曲が納められているこのアルバムは、まさにこの半世紀の間に世界中で起きた迫害や抑圧に対する良心の声だと言っていい。
・アムネスティ・インターナショナルのサイトには、現在実行中の活動として、シリアの反政府運動に対する残虐な攻撃と、それに抗議する国連決議案に拒否権を発動したロシアや中国、チベット人の抗議デモに対する中国政府の武力行使などへの批判のほかに、袴田事件の再審要求、ロシアの人権擁護活動家ナタリア・エステミロワ殺害の徹底的な捜査と犯人の処罰の訴え、シェル石油がナイジェリアで起こした原油流出事故とその被害、ノーベル平和賞を受賞したあとも投獄されたままの劉暁波、内戦が続くコロンビアで暴力や迫害を受ける人びとなどが数多く報告され、支援が求められている。
・このアルバムを聴きながらまず思うのは、アムネスティの活動やディランの表現にもかかわらず、世界は少しもいい方向には向かっていない、というよりは悪くなるばかりだという絶望やあきらめだ。しかしこういった訴えや活動がなければ、状況はもっとひどかったのも明らかだろう。その意味で、よりひどくなる状況を少しでもくい止めるためにする努力の必要性と、その志を持続させることの大切さを感じるアルバムであることは間違いない。
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unknownさんではなく、何か名前があるとうれしいです。