2016年5月9日月曜日

「ブラタモリ」と熊本地震

・「ブラタモリ」はタモリが古地図を手に東京周辺を散歩する番組だった。中沢新一の『アースダイバー』(講談社)を読んで,縄文時代と現在の東京の地層や地図の比較に興味を持っていたから、「ブラタモリ」も時々見ていた。ただしNHKの深夜の番組だったから,見たのはほとんど再放送で、たまたまと言うことが多かった。ところがタモリの「笑っていいとも」が終了したことによって、「ブラタモリ」が全国各地を歩く番組として,土曜日の7時半から放映されることになった。

・毎週欠かさず見ていたわけではないが、いつでもどこでもポイントになるのは地殻変動で,その痕跡を探すことと、その土地の特徴がその地殻変動と大きな関係のあることが,専門家とタモリの会話で明らかにされることがおもしろかった。特に興味を持ったのは熊本を歩いた番組だった。熊本県は「火の国」と呼ばれている。しかし番組のテーマは水で,熊本は「水の国」でもあることを、涌き水の場所や池、そして近くの特徴が見えるところを訪ね歩いて確認する内容だった。

・熊本市内には水が湧き出しているところがたくさんある。水前寺公園の池も湧き水だし、熊本市の水道も、地下水によってまかなわれている。なぜ、そのように水が豊富なのかというと,阿蘇に降った雨が地下を通って流れ下ってくるからで、そうなったのは阿蘇山の噴火によって流出した溶岩や火山灰が熊本市内までの地層を形作っているからだということだった。

・その時はおもしろいなと思っただけだったが、熊本地震があって、阿蘇山の噴火との関係の深さや中央構造線の上にあることなどから,起こるべくして起きた地震だったことを改めて実感した。阿蘇山は広大なカルデラを持つ巨大な火山だが、それができた時にはどんなことが起こっていたのか考えると、今回の地震とは比較にならない大きな地殻変動だったことは容易に想像できることである。

・富士山の麓に住んでいて,富士山にも何度も出かけているから、富士山を訪ねた放送も興味深かった。富士山は江戸時代に噴火をしていて,その宝永火口は今でも巨大な穴ぼことなっている。3.11以降、富士山の噴火の危険性が話題になることがあるが、今の形は地球の長い歴史から見れば,ほんの一瞬の姿に過ぎないのだということを実感するようになった。その意味で3回に分けて、麓(富士宮),宝永火口、そして山頂を訪ねた放送もおもしろかった。

・最新の放送は京都の嵐山を訪ねたものだった。ここも長年京都に住んで、何度も出かけたところだから、なるほどと思うところが多かった。しかし、嵐山の絶景が断層を利用して人工的に作られたものだという指摘には驚かされた。低いが急峻な山は断層によるもので、地表にはチャートの岩が剥き出しになっている。チャートは海中でプランクトンが堆積してできた地層である。プレートの動きで太平洋からはるばるやってきて、プレートの衝突でせり上がったという説明だった。

・日本列島は巨大なプレートがぶつかり合うところに位置している。だから火山があり,山脈があって、それこそ美しい風景を作り出しているし,温泉や水が豊富に湧き出している。しかしだからこそ,耐えず大きな地殻変動に見舞われる危険性を抱えてもいる。熊本の地震が阿蘇山の大噴火や中央構造線沿いの地震、あるいは南海トラフや東海地震の前兆ではないのか、といった不安は大げさな心配ではないだろうと思う。

・「ブラタモリ」はNHKの番組だから、富士山や嵐山はなぜ美しいかといった話に焦点を合わせていて、それが地殻変動ゆえであることを明らかにしても、現実的な危険性については何も話題にしなかった。だからこそ、タモリは,熊本の地震についてどんなふうに思ったのだろう、という疑問を感じた。何しろNHKは熊本の地震の直後から川内原発は通常運転を続けているとアナウンスをくり返し、地震の震源や震度を伝えるための地図から鹿児島県をカットし続けていたのだから。

p.s.今朝(5月9日)の朝日新聞で、本震後に涸れた水源が詳しく報じられていた。南阿蘇村の塩井神社、白川水源(名水百選)、内牧温泉、水前寺成趣園、嘉島町湧水で水や温泉が涸れたそうだ。一方で水量が増えた井戸もあるという。地下水や温泉の流れが大きく変化している。地震はまだまだ続いているから,これはあくまで途中経過に過ぎないのだろうと思う。

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