2019年9月2日月曜日

香港と韓国

 

・香港でのデモは、返還から22年の記念式典が開催された7月2日に始まった。主な理由は犯罪容疑者を中国本土に引き渡すという「逃亡犯条例」の改悪に反対するものだった。デモの参加者は最大で170万人にもなったようだが、これは香港の人口が740万人ほどだから、4人に一人が参加したことになる。これほどの数の人が反対の意思表示をする理由は、単に条例一つだけにあるのではない。それは香港の歴史そのものに関連するものである。

・香港はアヘン戦争後の1842年にイギリスの領土になって発展した都市である。それが「一国二制度」という条件で1997年に中国に返還された。つまり、香港は特別行政区として独自の法制度をもち、政治を司る「立法会」の議員を選ぶ権利があり、表現の自由も認められていて、中国本土とは大きく異なる制度を50年間は保証されたうえで返還されたのである。ところが、現在では議員選挙にしても、トップである行政長官の選び方にしても、中国の意向が強く働くようになっているし、批判的な団体や人びとが捕らえられたり、行方不明になったりもしている。香港がじわじわと中国化している。デモに参加した人には、そんな強い危機感があると言われているのである。

・香港に住む人の多くは漢民族だが、自分たちを中国人ではなく、香港人と思っている。何しろ150年間イギリスの支配下にあって、社会的にも文化的にも西欧流が根づいているのだから、共産党が支配する中国を拒絶するのは当然のことなのである。その形骸化した「一国二制度」もあと30年ほどで解消されてしまう。そうなる前に独立したい。それが香港人の世論なのである。

・2014年の「雨傘デモ」以来、抗議活動をリードしてきた黄之鋒と周庭の二人が警察に一時逮捕された。デモの沈静化を狙ったトップの逮捕だが、逆にデモの拡大や先鋭化を招くかもしれない。香港に隣接する深圳には中国の軍隊が待機していて、いつでもデモを制圧できる態勢になっている。アメリカは中国を牽制しているが、日本政府は沈黙したままだ。

・他方で、韓国で行われているデモは日本政府に対するものである。「反日」ではなく「反安部」なのだが、日本のマスコミはプラカードに書かれたハングルを「反日デモ」と偽って報道した。テレビでは連日、嫌韓を煽る番組を流している。徴用工の賠償請求や従軍慰安婦を巡る問題に反発して、安倍政権は半導体の製造に利用する材料などの輸出規制を強化した。いわゆる「ホワイト国」から除外という措置だ。テレビの嫌韓煽りの影響か、この措置を7割以上の人が支持しているという。

・対抗して韓国は日韓の軍事協定である「日韓秘密軍事情報保護協定(GSOMIA)」を破棄した。この条約は北朝鮮の核開発やミサイル問題に対応するために、日韓が協力して情報を交換し合うという趣旨で2016年に締結されたものである。ここには日韓だけでなく、米国も強く関わっている。日韓の関係は最悪の事態に陥っていると言えるのである。落としどころも見いだせない、とんでもない状況に陥ってしまっているが、日本の政権は一体何を目的としてこんな行動に出ているのか。理解に苦しむというほかはない。貿易も観光も、両国にとって大打撃にしかならないというのにである。

・しかし、日韓の間にある問題もまた、歴史的にしっかり見直す必要がある。日本が朝鮮半島を侵略して「日韓併合」をしたのは1910年のことである。ここから第二次大戦が終わる1945年まで、朝鮮半島は日本の植民地となり、朝鮮人も日本人として扱われた。このような歴史に対して1965年に「日韓基本条約」が結ばれ、戦争の賠償や戦後の補償として総額6億ドルの供与を行っている。徴用工や従軍慰安婦の問題も、この時点で解決済みだというのが安倍政権の姿勢だが、ここにはいつまでも謝ってはいられないという、韓国の人びとの気持ちを逆なでするような態度もある。

・しかし、侵略して植民地化し、多くの人が強制労働や兵隊の性欲処理の道具に使われたこと、戦中はもちろん、戦後もずっと在日韓国・朝鮮人に対する差別が横行してきたことなどを考えた時に先ず優先すべきは、いつまで謝る必要があるかは、加害者ではなく被害者である韓国や朝鮮の人びとが判断するという姿勢なのである。それを自虐史観などといって嫌韓を煽っていたのでは、関係はますます悪くなるばかりだろう。それで泥沼に陥るのは韓国ではなく日本の方なのである。

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