・山梨県では見られない「ポツンと一軒家」をアマゾン・プライムで見ています。久しぶりにおもしろい番組だと思いましたが、気になることがいくつかありました。それは、一軒家を探すスタッフが、見かけた人にいきなり「おとうさん」「おかあさん」と呼びかけることです。もちろん、この番組だけというわけではありませんが、あまりに頻繁に出てくる呼びかけなので、見ていてうんざりするようになりました。
・「おとうさん」「おかあさん」は、その子どもだけに限られた呼びかけです。ですから、いきなり知らない人から呼びかけられたら違和感をもつはずです。実際ぼくは、そんな呼びかけをされたことは一度もありません。これはテレビの中で始まったもので、今でもテレビに限られたものだと言えるでしょう。
・そもそも、「おとうさん」「おかあさん」は結婚していて子どもがいることが前提になるものですから、それがわからない人にいきなり使ってはいけない呼びかけのはずです。呼びかけられた人から、「俺には子どもはいないし、結婚もしていないよ」と言われたら、呼びかけた人は、どう返答するのでしょうか。今は未婚や子どものいない人が少なくない時代なのです。
・そもそも知らない人への呼びかけには、「ちょっと、すみません」などですむはずです。確かに「おじさん」「おばさん」「おじいさん」「おばあさん」「兄ちゃん」「ねえちゃん」「坊や」「お嬢ちゃん」などを使えば、距離感が縮まって親近感が生まれると思います。しかし、「おとうさん」「おかあさん」はいけません。より近しさを出すために使うようになったのかもしれませんが、呼びかけのことばとしては、きわめて限定的なものであることを自覚すべきでしょう。
・近しさを表現するなら、自分が名乗り、相手の名前を聞いて、名前を呼びあえばいいのですが、テレビでは、そこまですることは滅多にありません。仮にあっても、その後にまた「おとうさん」「おかあさん」が出てくるのはいかがなものかと思ってしまいます。「ポツンと一軒家」は人気番組で、尋ねられた人も見ている場合が多いです。呼びかけに親切に応えるのは、テレビに対する親近感からなのかもしれません。
・だからなのか、番組の出演者からは「やさしいね」「いい人だね」といったことばがよく出て来ます。そこには田舎の人はといった但し書きがついています。けれども、そういう反応をするのは、相手がテレビのスタッフやタレントであり、自分が映されていることを意識しているからなのです。意地悪なぼくなら、「あんたに『おとうさん』などと呼ばれる筋合いはないよ」と応えるかもしれません。そんな例は見たことがありませんが、あったとしても、放送には出さないでしょう。テレビ番組はあくまで、都合のいい部分だけで編集されたものなのです。
・もっとも「おとうさん」「おかあさん」についてもつ違和感は、もともとは夫婦が互いを呼びあうものに対してでした。子どもが生まれたら互いをそう呼びあうというのは、ごく当たり前のものでしょう。しかしぼくは、これにもずっとおかしさを感じてきました。子どもが独り立ちして家から出て行ってもまだ、そう呼びあうのには、何かさみしさすら感じてしまいます。互いの関係が、それだけでしかないのかと、思ってしまうからです。
・呼称を使う関係は日本人に典型的で、個人主義が行き渡っていない何よりの証拠かもしれません。ぼくが気に入らないのは、テレビがそれを増幅させていると思えるからに他なりません。とは言え、この番組については、他にも思うところがたくさんあります。そのうちに別のコラムで、内容について考えたいと思います。
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unknownさんではなく、何か名前があるとうれしいです。