2022年12月19日月曜日

矢崎泰久・和田誠『夢の砦』

 

yume1.jpg 『話の特集』は一時期必ず買った月刊誌だった。和田誠や横尾忠則のイラストがあり、篠山紀信や立木義浩の写真が載って、野坂昭如や永六輔のエッセイがあった。その過激な政治批判に賛同し、鋭い社会風刺にわが意を得、公序良俗への挑戦に拍手した。おそらく1960年代の終わりから70年代の中頃のことだったと記憶している。『夢の砦』は編集者だった矢崎泰久がまとめたその『話の特集』の思い出話である。

『話の特集』が創刊されたのは1965年で、95年に廃刊になるまで30年続いた。僕が読んだのは10年ほどで、『話の特集』が一番元気な時期だったと思う。何しろ売り出し中の作家やタレント、イラストレーターや写真家が毎号登場して、その技や芸を競っていたのだから、発行日が待ち遠しいと感じるほどだった。大手の出版社が出す雑誌とは違っていたのになぜ、これほど多種多様な人々を登場させることができたのか。この本を読んで、そんな疑問の答えを見つけることができた。

「話の特集」をつくったのは矢崎泰久三二歳と和田誠二九歳。二人が追い求めたのは<自分たちが読みたい雑誌>だった。二人を中心に気づかれたその砦にはあちこちから個性的な才能が集まった。
創刊時にはほとんど無名だった若者たちが好き勝手なことをやり、それを面白がってまた新たな人たちが参加する。その斬新さはすぐに週刊誌や月刊誌のモデルになって、雑誌ブームの先導役にもなった。『夢の砦』にはそんな創刊時の逸話を語り合う記事がたくさん載っているが、また、この雑誌の中身を一貫して支えてきたのが和田誠だったことも強調されている。たとえばその一例は、川端康成の『雪国』を作家や評論家、あるいはタレントの似顔絵とともに、文体や口調をまねて書いたパロディが36編も再録されていることである。これは今読んでもおもしろい。

『話の特集』が創刊時から持ち続けた姿勢は「反権力・反体制・反権威をエンターテインメントで包み込む」だった。60年代の後半には大学紛争があり、ベトナム反戦活動やアメリカから世界に波及した対抗文化の波もあった。そんな時代を反映しながら、大まじめにではなく遊び心を持って雑誌を作ってきた。『夢の砦』を読むと、そのことがよくわかる。70年代の中頃になって、僕がこの雑誌を読まなくなったのは、似たような雑誌が乱立したせいなのか、雑誌そのものに興味をなくしたからなのか。今となってはよくわからない。

しかしそれにしても、今の時代には「反権力・反体制・反権威をエンターテインメントで包み込む」といった姿勢は、どこにも見当たらない。それどころか「権力・体制・権威にすりよってエンターテインメントで吹聴する」といった人がいかに多いことか。インターネットの初期には、面白く感じられる一時期があったが、今はそれも失われている。昔を懐かしむのは年寄りの悪癖だが、それにしても今はひどすぎる。

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unknownさんではなく、何か名前があるとうれしいです。