・野茂の調子が悪い。それもかなり深刻だ。7月2日現在で3 勝10敗、4月の末から9連敗中で、2度目の故障者リスト(DL)入りになった。防御率が8点台で5回ともたずに降板することが続いてきた。監督もエースの不調だから、ずっと野茂を擁護し続けてきたのだが、ここまで来ると、他の球団へのトレードや解雇といった事態も起こりかねない状況である。正直言って今年のゲームは、怖くて見ていられない。いつホームランを打たれるか、連打を浴びて大量失点をするか。そんな心配ばかりが先に立ってしまっていた。
・原因は去年の10月にした肩の手術だろう。簡単な手術で来シーズンに影響はないということだった。しかし、春のキャンプからなかなか調子が上がらずに、とうとうシーズンも半分が過ぎてしまった。ストレートのスピードが出ない。フォークボールのコントロールがままならない。そこから、腕のふりを強くとか、トルネードをやめてセット・ポジションからの投球をとか、いろいろ言われてきたが、どこが悪いのか本人にもピッチング・コーチにもよくわからないのが現状のようだ。
・5月には試合中に爪を割って数試合欠場した。本当はその間にマイナーでじっくり調整したらよかったのだが、メジャーでは故障が治れば、それ以外の理由で長期間にわたるエースのマイナー落ちはありえない。何しろ野茂はドジャースで2年続けて16勝をあげた、一番の投手なのである。彼の今年の年俸はおよそ9億円。お金に見合う数字を残さなければ、トレードか解雇。つらい状況に追いこまれている野茂の心中を察すると、「ガンバレ」などと気軽に言うのは無責任だという気になってしまう。それでも、試合があるたびに、今度こそは何とか勝ってくれ、と願わずにいられなかった。
・今年のメジャー・リーグは松井稼頭夫がメッツに入って、W松井で春先からにぎやかだった。高津や大塚もリリーフ投手として活躍している。同僚の石井も調子がいい。そんな中にあってパイオニアの野茂が苦戦している。移り気なスポーツ紙は苦闘する野茂には冷ややかで、もうすでに過去の人といった扱いをしたりする。毎度のことだから腹も立てたくないのだが、野茂の調子があがってこないから、八つ当たりもしたくなってしまう。
・二度目のDL入りの理由は肩の炎症ということだが、痛みがあるわけではないようだ。おそらく、マイナーに行ってじっくり調整させるという首脳陣の判断なのだろう。ドジャースはまだ優勝の可能性を残している。後半の大事な時期に間に合えば、経験と実績のある投手だから頼りにされる存在になる。野茂にとっても納得のいく判断だったと思う。
・野茂がメジャーに行って調子を落としたのは2回目だ。前回は1998年で、ドジャースは野茂をメッツにトレードした。その年は結局思うような成績はあげられず、翌年春のキャンプで解雇。野茂は数球団のテストを受けて、5月になってからブリューワーズと契約したが、活躍をしてすぐにエース的存在になった。ドジャースも当然、この時の判断の失敗を承知しているから、今回は放出せずに、調子の回復をじっくり待とうというのだと思う。
・一応はホッとしたが、気になることがいくつもある。まず年齢。野茂は今年36才になる。引退してもおかしくない歳だ。前回の故障は30歳で、回復すればまだまだやれることはわかりきっていた。しかし、今回はどうか。もう一つは球速はすでに回復していて、昨年までと同じような球を投げているのに打たれるという点だ。微妙なコントロールがないということなのかもしれないが、これはどうしたら修正できるのだろうか。肩や肘にメスを入れると、身体の回復だけではなくて感覚の回復も必要になるそうだ。そしてその感覚がもどるのは身体の回復よりははるかに遅い。そのあたりになると、素人の想像を超えた世界だが、時間をかけた手探りの調整が必要なことはよくわかる。
・40歳を過ぎてがんばっている投手はメジャー・リーグには何人もいる。ランディ・ジョンソン、ジミー・モイヤー、カート・シリングやケビン・ブラウンも野茂よりは年上だ。誰もが故障を乗り越えて現役で投げ続けている。野茂の信条は不屈さだから、今の不振を乗り越えてきっと立ち直るだろう、と期待している。メジャーに一番似合うのは野茂で、彼の前にも後にも、彼に匹敵する選手は誰もいないのだから。(2004.07.06)