・アメリカの大統領選挙が近づいてきた。馬鹿ブッシュにこれ以上続けられたらたまらない。そんな気持で一杯な人たちはアメリカにもたくさんいる。その代表はマイケル・ムーアだろう。彼のつくった『華氏911』はアメリカはもちろん、日本でも大ヒットしている。僕はまだ見ていないが、今までの彼の作品からおおよその感じはわかる。ブッシュ嫌いの人には痛快な内容なのだと思う。ニューヨークで開かれた共和党大会に対して50万人(当局発表12万人)のデモがあって、ムーアは先頭を歩いたようだ。
・ミュージシャンたちも立ち上がった。代表はブルーススプリングスティーン。彼のオフィシャルサイトには"Chords for
Change"(変化のためのコード)という題名の文章が載っている。内容は、アメリカ人であること、ミュージシャンであることの意味、豊かさと貧困、人種の壁………。そういったことをあらためて考え直すことの必要性と、目前に迫った大統領選挙に対する自分なりの態度を表明したものだ。で、キャロル・キング、パール・ジャム、R.E.M.、ジェームズ・テイラー、、ボニー・レイト、ジャクソン・ブラウンといったミュージシャンと一緒になって、ブッシュ批判と民主党のケリー候補を応援するコンサート・ツアーを企画した。オフィシャル・サイトのスケジュール表によれば、9月の末から10日間ほど、いくつかに別れて全米を回るようだ。最後は全員集まってのマイアミでのコンサート。前回の大統領選挙では、何よりマイアミでの投票結果が大きかったからだ。
・こんな行動は当然反響も大きい。スプリングスティーンは「ザ・ボス」と呼ばれるが、共和党は「ボイコット・ザ・ボス」というキャンペーン広告をテレビで流しはじめたようだ。『華氏911』については、反ブッシュの人たちが一層ブッシュ嫌いになる効果はあっても、ブッシュ支持層にはかえって反発されるから、選挙の体勢には影響しないのではないか、ということが言われている。スプリングスティーンの行動はどうだろうか。
・彼の「ボーン・イン・ザ・USA」はベトナム反戦の気持を歌にしたものだが、同時に愛国的で、歌のかっこよさからいろいろなところで使われる歌になった。共和党も選挙に使いたかったぐらいだから、ブッシュを支持する人たちの気持ちを変える力になるのかもしれない。もっとも、コンサート・ツアーに参加するミュージシャンはみな中年以上の世代で、しかも大半が白人だ。若い世代や黒人、あるいはマイノリティの層にはどれほどのインパクトがあるのだろうか。
・そんなふうに感じて、たまたまアマゾンで「ブッシュ」で検索したら、おもしろいCDが見つかった。"Rock
Against
Bush"というタイトルで2枚出されている。さっそく購入したが、知っているミュージシャンはまったくなかった。若い人たちばかりで、しかもパンク、オルタナ、メロコアなどなじみのないジャンルばかり。正直なところ聴いてもうるさい曲ばかりで、ジャケットの耳を塞ぐブッシュとおなじような気持になりかかってしまった。けれども、社会に背をむけるのを格好いいとするパンクが政治に対して正面からメッセージしてきたのだから、これは評価したいとも思った。
・このアルバムにはそれぞれDVDがついていて、ライブやビデオ・クリップのほかにコントやブッシュの迷演説も収められている。日本版はないから字幕もないが、1000円ちょっとの値段だから買って損はない。ブッシュは、米国の大統領の姿勢や資質が世界中に大きな影響を与えることを如実にしめした。その意味では、ブッシュ反対の声は、アメリカの外から、もっと出てもいいと思う。