Amalia Rodrigues "Art of Amalia" "Fado Lisboeta "
Dulce Pontes "O Primeiro Canto" "Lagrimas"
・NHKのBSでポルトガルのファド歌手を取りあげていた。「Amazing Voice 驚異の歌声」という番組で、ドゥルス・ポンテス(Dulce Pontes)という名の、ファドをベースにしたシンガー・ソングライターだという紹介だった。ファドと言えばアマリア・ロドリゲスと言われるほど、日本では彼女だけが異例に有名で、僕も彼女のLPレコードは持っている。しかし、それ以上の関心を向けることはなかった。だから、半ば懐かしい感じでファドということばを聞いたのだが、番組を見ながら、いいなと感じてAmazonで何枚か注文した。ついでというわけではないが、CDでは持っていないアマリア・ロドリゲスもあわせて買い求めた。
・ドゥルス・ポンテスは1969年生まれだというから、40歳を少し越えたところだ。CDを聴いてまず思うのは、その歌唱力である。国立音楽院でピアノを専攻したというから、クラシック音楽の出身で、確かにそんな歌い方だが、しかし、やっぱりファドに間違いはない。音楽的に新しい要素も加えていて、アマリア・ロドリゲスとはちょっと違うなという感じもするし、似たところもある。"O Primeiro Canto" という名のアルバムは1999年に発表されているが、ネットで調べると「ポルトガルの北半分を歩き、うもれていたフォークロアを集め、様々な国の音やリズムや楽器をほりおこし、ウェイン・ショーターなど国やジャンルをこえた一流ミュージシャンを集めてセルフプロデュースした」という説明を見つけた。全曲が彼女のオリジナルのようだ。
・ファドはポルトガルの伝統音楽で、スペインのフラメンコによく似ているが、踊りと一緒のフラメンコと違って歌だけだ。またフラメンコは、スペインの伝統音楽とはいえ、歌うのも演奏するのも、そして踊るのも、ロマである場合が多い。一方でファドには、そういう特徴はないようだ。また日本では、ファドといえばアマリア・ロドリゲスと、たったひとりの歌手で代表される音楽であるかのように思われている。
・アマリア・ロドリゲスの歌はきわめて演歌に近い。港町や酒場、そして男女の出会いや別れがテーマで、聴いていて八代亜紀を連想したりもする。けれどもまた、演歌とは違って、じめじめとした感じがない。演歌嫌いの僕が聴いていいと思う理由は、そんな乾いて明るいイメージを連想させるからなのかもしれない。
・CDでアマリア・ロドリゲスを聴いていて、また、アルゼンチンのフォルクローレのことを思った。ポルトガルは現在ではヨーロッパの西の果てにある小国だが、大航海時代にはスペインと競って世界中を植民地にする強国だった。だから、メキシコからアルゼンチンに至る中南米の国で歌われる歌は、どこのものでも、スペインやポルトガルの臭いがする。ポルトガルは70年代半ばまで独裁政権下にあって、アマリア・ロドリゲスは、国家的歌謡として擁護されたファドのシンボル的存在だった。だから彼女も、ファドも、民主化の過程では批判され衰退したのだが、90年代になってEUの時代になると、自国の文化の見直し機運の中でまた聴かれるようになった。
・ドゥルス・ポンテスの歌はファドを超えて世界に繋がっている。ただし、もう一枚の "Lagrimas"は、聴いていてアマリアなのかどうかわからないほどファドそのものだ。1996年の発表だから、99年の"O Primeiro Canto"との間に、大きな変化があったのかもしれない。で、最新作の"Momentos"(2010)も注文してあるのだが、こちらは注文後に品切れになったようで、まだ届いていない。僕と同様、NHKの「Amazing Voice 驚異の歌声」を見て、多くの人が注文したのだろうと思う。日本版は在庫ありだが値段が倍近くする。日本のレコード会社はなぜ、相変わらず、こんな商売をやっているのだろうか。