・今年テキサスと契約したダルビッシュについて動いたお金は、交渉権が5170万ドル(40億円)で、契約金は6年で6000万ドル(46億円)だった。この金額は松坂がボストンと交わした契約金を超えて、日本人メジャーリーガーとしては史上最高で、ストーブリーグでは、そのことが大きな話題になっていた。もう、総額1億ドルなんて数字を見ても驚かないが、原点に戻って見ると、異常さがはっきりする。
・野茂投手は1995年にメジャー入りして、その年の新人王に選ばれたが、彼はマイナー契約でわずか11万ドル(当時のレートで1300万円)だった。そこからメジャーに12年在籍して123勝をあげたのだが、おそらく、彼が手にした年俸の総額はダルビッシュや松坂が契約時に手にした金額より少なかったのではないかと思う。その松坂は昨年肘の手術をして、今は復帰に苦労をしているところだ。今年は契約の最終年度だが、これまでの勝ち星は野茂の半分にも満たない49でしかない。
・一方でイチローや松井は日本での実績に違わぬ活躍をした。ただし二人とも衰えが著しくて、イチローはヒットが打てなくなっているし、松井は契約自体がリーグが始まって1ヶ月経ってからで、打率は1割台を低迷している。松井の今年の年俸は最高でも60万ドル程度で、ヤンキース時代の20分の1にでしかないが、彼がメジャーで稼いだ額はすでに8000万ドルを超えている。イチローはもちろんそれ以上で、すでに1億5000万ドル以上になっている。ただし彼も今年が契約の最終年だから、来年度はがた落ちか、下手をすると契約するのに苦労するということになるのかもしれない。
・こんなにお金にこだわるのは、そのことを考えると、試合を見ること自体がばからしくなるからだ。たとえば、イチローが200本以上のヒットを打ったときも、ヒット1本に換算すると800万円になったし、松坂だったら現在のところ、1勝が1億円の計算にもなる。もちろん、サッカー選手なら1本のシュートが何億円にもなるわけだが、こんなに高騰したスポーツ選手の年俸に賞賛の声しか上げないスポーツ・メディアの姿勢は、それをただ増幅させることだけだ。
・とは言え、メジャーリーグの情報はネットでチェックはしている。今年メジャーリーグに在籍している選手は、マイナー所属も含めて20人ほどもいる。けが人も多いし、評価されずに試合に出られない人やマイナーに降格されたままの人や、契約解除された選手も少なくない。人数の割に日本人選手は目立たないが、テストまでされて安い年俸で契約した青木の活躍や、地味だけど実績を積んでいる黒田などもいる。
・ついでに言えば、巨額のお金が動くのは人気プロスポーツのグローバル化が最大の理由だが、それは一般の企業でも同様だ。トップばかりが収入を増やしている現象については、格差社会のアメリカでも、最近の極端さには大きな批判が上がって、ウォール街をデモする若者たちが話題になったりもした。日産のカルロス・ゴーンの10億円は別格かもしれないが、日本でも格差が当たり前になる時代はそう先のことではないだろう。
・一方で、消費税は上げても、高額所得者の税負担を重くする税の改革は見送られた。日本の所得税は1987年までは最高税率が70%だったのに、現在では40%に引き下げられている。土地や株式の譲渡所得などには分離課税が適用されるから、実質的には100億円の収入があっても十数%の税で済んだりもするようだ。個人所得を個人の能力として考えれば、その数字を問題にするのはわからないでもない。だとすれば、名誉として、その所得のほとんどが社会に還元されてもいいのではないかと思う。どんなに稼いでも、そのお金をあの世まで持っていくことはできないのである。