・今年のグラミー賞の授賞式でボブ・ディランの息子をはじめて見た。名前をジェイコブ・ディランという。まだあどけなさが残るが父親によく似ている。その後しばらくして、彼のことを書いた新聞記事を読んだ。偉大な父の後を追いかけて同じミュージシャンになった。そのしんどさが記事のテーマだった。コンサートで客から、親父の歌をやれとよく言われるという。最初は反撥したけど、最近ではそれもしかたがないと思ってリクエストに応えたりする。そんな内容だった。かわいそうだな、と思ったが、別に誰が強制したのでもない、ジェイコブが自分で選んだ道なのだから、やっぱりしかたがないか、と考え直した。
・父親の跡を継ぐ、というのは芸人の世界では珍しくはない。日本にもいっぱいいるし、歌舞伎役者などはそれが当たり前になっている。けれども、それは芸が才能ではなくて育った環境やチャンスの得やすさで何とかなる世界にかぎられる。実力だけが頼りの世界では、二世はなかなか親を越えられないし、一人前にもなりにくい。ジョン・レノンの息子のジュリアンはヒットを数曲出したが、最近ではほとんど名前を聞かなくなってしまった。ジェイコブはどうなのかな、彼がどんな歌を歌っているのかより、そんなことが気になってしまった。実は僕の息子たちも、そろそろ自分が将来何をするのか決める年頃なのである。だから他人事ではないのだ。
・で、The Wall Flowersの "Bringing Down The Horse"だが、これがなかなかいい。もっとも、洋盤を買ったから、歌詞はわからない。あくまでサウンドと声にかぎった話である。声は父親にというよりはダイアー・ストレイツのマーク・ノップラーに似ている。もっともノップラーはディランに声と歌い方が似ていることが注目されるきっかけになったのだが.......。あるいはスプリングスティーンにどこやら似ていなくもない。いずれにしても、僕には親しみの持てる声とサウンドである。学生に聞くと、メジャーとは言えないがいい線いってるという。ディランのことなどほとんど知らない彼らがそういうのだから、きっとそれなりの魅力があるのだろう。才能だってあるのかもしれない。できれば一発で終わるのではなくて、次々とアルバムを出してほしい。などと、僕の気分はすっかりディランに代わって父親になってしまっている。
・ロックは若者の音楽として生まれ、ずっとそのように扱われてきた。けれども、ミュージシャンの中にはすでに還暦を越えた人もいる。ディランもたぶんもうすぐだ。アメリカ人だから赤いちゃんちゃんこは着ないだろうが、そういう歳になったことにはかわりはない。そしてジュニアたちが活躍する時代になった。親子や家族での共演、それはなかなかほほえましい光景だが、ロックって何なのかな、とあらためて考えざるをえない材料にもなる。そういえば、ディランは病気で入院中とも聞いている。文字どおりの歴史と伝説の中の人になってしまうのだろうか。
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unknownさんではなく、何か名前があるとうれしいです。