2001年1月15日月曜日

メールと掲示板

  • 7月からこのHPにも掲示板(BBS)をつけ始めた。ぼくはBBSは好きではなかったが、新しく出す本の宣伝をかねて、おもしろい使い方を工夫してみようと思った。携帯の延長のような、ショウもないおしゃべりや質の悪い冗談ではなくて、もうちょっと役に立つものをつくってみたいと思った。
  • 個人の出すHPにはほとんど掲示板があって、そこが一番にぎやかな部分になっている。ホームページの作り方などを書いたものには、アクセス数を増やそうと思ったらBBSは必須アイテムとなっている。もう一つの定番は日記だから、個人の出すページはどうしても、極私的なものになる。日記がプライベートな話題のモノローグだとしたら、BBSは仲間内のおしゃべりといったダイアローグ的性格を持つ。そしてどちらも、自分一人の世界、あるいは友達同士の狭い世界に限定されて閉じたままになってしまう。それでも、やっている当人が面白がって、それにアクセスする人がのぞき趣味を満足させることができるなら、それはそれで結構だが、えてして安直で中身がない。日常生活というものがしょせんは同じことのくりかえしで、誰にとっても似通っているのは当たり前で、その表現を個性的にしようと思ったら、それなりの工夫が必要なのである。
  • 一方に、映画になったりテレビ・ドラマになったり、あるいは小説になったりして描き出される世界がある。それはいわば一つの時代や社会を代表する一つの現実だが、その分どうしても、巨大な受け手を想定した、最大公約数的な作り方をしなければならない。そして、他方に、一人一人が日常的に経験し、さまざまに考え、悩み、思いを巡らす個別の世界がある。HPはこの今まではほとんど公にならなかった世界の表現手段として興味を持たれている。しかしあまりに対照的に、ここに描き出されるのは、極私的でしかも画一的な世界でしかない。
  • このような傾向が、これからどんなふうに展開していくのか、ぼくは頭から否定せずに見ていきたいと思っている。けれども、インターネットやHPの世界には、もっともっといろいろな可能性があるはずで、それは基本的には先にあげた二つの世界の間を埋める中間領域の世界の表出だと思っている。
  • BSデジタル放送がもうすぐはじまる。ケーブル・テレビとあわせて、やがて100チャンネルを超えるテレビの時代が実現する。そんなにたくさんのチャンネルを埋める番組があるのか、と心配する声があるが、ぼくはそうは思わない。日本のテレビ局も、そして視聴者も数百万から数千万人が同じものを見るというスタイルに馴らされてしまっていると感じているからだ。数万から数十万人の視聴者が有料で獲得できれば採算がとれるとすれば、1億分の数万、つまり1万人に1人から千人に1人に関心をもたれればいいのである。問題は独自性を持った局の、あるいは番組の成立と、我々視聴者が、みんなと一緒ではなく、自分独自の関心を大事にするという意識に転換できるかどうかだろう。
  • インターネットは、いうまでもなく世界に開かれている。しかも、大半のHPは個人や小集団が自発的につくっているものだから、大量の受け手を想定しなくてもいい。と言うより、1日数十人のアクセス数があれば、個人の出すページは十分に成功していると言える。そのような手軽さを武器に、おもしろい内容にしようと思うなら、工夫の仕方はいくらでもあると思う。たとえば、それほど特殊なものではないが、しかし、ほとんど近づくことのない世界の紹介や描写。こういうHPが多様に共存するようになれば、インターネットの世界はもっともっと魅力的になる。そして私たちには、さまざまなメディアを通して、あらゆる世界に接近できるチャンスが生まれてくる。
  • ちょっと大げさに書いてしまったが、今度ぼくがHPにBBSをつけた意図もそこある。普通、本は書店で買う。その目的はもちろん内容を読むことで、その本がどのような人によって、どのようなプロセスを経てできあがり、本屋に並べられているのか意識することはほとんどない。しかし、その隠れた世界は動機づけしだいで多くの人に関心をもたれるものではないかと思った。
  • 学生のなかには出版社に就職したいと希望するものがかなりいる。多くは雑誌の取材や編集などを考え、頭に描くのはテレビ・ドラマなどの格好いい世界である。だからぼくは出版という仕事がいかに地味で、しかも経済的に不安定な業種であるかという話をする。そしてそれでも、やりがいは十分にある世界であることも。ぼくは、自分の本を出す機会に編集者の人にお願いして、作成の工程をBBSで公開することにした。なかなか、書き込んではもらえないが、興味を持って読んでくれている人は少なくないと思う。少なくとも本が店頭に並ぶ11月末か12月はじめまでは続けるつもりだから、徐々に書き込む人が増えてくれればと期待している。
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    unknownさんではなく、何か名前があるとうれしいです。