2001年6月11日月曜日

アンケートで考えたこと

 

  • 大阪市大の学生から卒論用のアンケートの依頼が来た。卒論のテーマは「発表という行為の価値の自明性」。質問は次のようなものである。
  •  釈迦と言う人物は仏教でいう「悟り」を見い出し、そしてその教えを広めた人物で すが、この「悟り」を見い出したときのエピソードがとても興味深いのです。釈迦は「悟り」を見い出したとき、余りの喜びに、「しばらく誰にも言わないでおこう」と思い、しばらくの間、誰にもその「悟り」を伝えなかったのだそうです。
  • つまり釈迦は最初はその発見を発表しないでいたのです。このエピソードから私は、「なぜ発表するのだろう」という素朴な疑問を抱きました(もちろん釈迦に対してではなく、発表一般に対して)。そこで、実際に発表していらっしゃる方、特に新しい発表の場であるインターネットのホームページ上に論文をアップしていらっしゃる人に直接お聞きし、探っていこうと思いました。あなたのように個人でこのようなホームページを運営されていらっしゃる方が、このテーマにふさわしいと思います。

    1.あなたにとって発表とは何ですか?
    2.何故あなたは、発表をしようと思ったのですか?動機をお聞かせ下さい。
    3.発表をしたことによって、どのような変化・効果・などがありましたか?
  • で、ぼくは次のように応えた。
    1)「発表」ということばに違和感を覚えますが、他人とは違う自分の思いや考えを持っているという自覚が、それを形にして公表しようとさせるのではないかと思います。ぼくが考えることは釈迦の「悟り」などというだいそれたものではなく、極めて私的な戯れです。世の中を変えようとか人を導こうなどとは間違っても考えたことはありませんが、やはり、反応があってコミュニケーションがおこることには喜びを感じます。
    2)研究者であるぼくにとっては、考えたこと、作り上げたものは公表するのが基本です。いろいろ考えてみたいことがあったから研究者になった。なったからには、考えたことは公表する。ようするに、それを職業として選択したのだと考えています。
    3)一概には言えません。紀要などに論文を書く、雑誌や新聞の依頼に応えて原稿を書く、あるいは本にまとめる。また学会で発表というのもあります。発表する場の違いは当然、受け手の違いになります。したがって、発表のスタイル(文体)や内容も変えることになります。発表が何か変化や効果をもたらしたという実感はあまり持ったことがありません。個人的な関係が生まれることはありましたが……。
     実は、このような反応の少なさには以前から物足りなさを感じていました。インターネットの存在を知ったときにいち早くホームページを開設したのは、それまでの発表の場とは違うスタイルで異なる人たちと出会えるのではという期待を持ったからです。そのような期待はある程度実現していますから、休業状態にならないよう、せっせとHPを更新しています。
     ですから、HPにいわゆる論文のたぐいは載せていません。本にしても、紀要にしても、それは図書館に行けば手にすることができます。そういうスタイルではない公表の場、幅広い受け手を想定して、思ったこと、考えたことを気楽に書いていく場として考えています。
  • と、もっともらしいことを書いたが、「書くこと」とそれを「公表すること」については、ぼくはその姿勢をG.オーウェルの「なぜ私は書くか(Why I Write)」というエッセイから学んだ。というよりは自覚させられた。彼が考える「書く」動機は次の4点である。
    1)純粋のエゴイズム………賢い人だと思われたい、人の話題になりたい、死んでからも覚えていてもらいたい、子どもの頃自分をバカにした大人たちを見返してやりたい、その他いろいろの欲望。
    2)美的情熱………自分の外の世界の美しさ、または言葉とその適切な組み合わせの美しさを感じること。一つの音がもう一つの音に与える衝撃、よい散文の確かさとか、おもしろい物語りのリズムの楽しみ。
    3)歴史的衝動………物事をあるがままの姿で見たい、本当の事実を見つけて後世の使用のためにたくわえておきたいという衝動。
    4)政治的目的………ある方向に世界をおしていきたい、どんな社会を実現することを目標として努力すべきか、などについて他人の思想を変えたいという欲望。
  • どれもあたっているが、「エゴイズム」を最初にあげているところが「精神的誠実さ」を作家としての基本姿勢にしたオーウェルらしいと思う。「エゴイズム」がなければ、エネルギーは続かないが、またそれだけでは人には伝わらないし共感も影響も与えない。
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    unknownさんではなく、何か名前があるとうれしいです。