"Hank Williams;Timeless"
"Good Rockin' Tonight; The Legacy of Sun Records"
"Kindred Spirits; A Tribute to the Songs oF Johnny Cash"
"Return of the Grivous Angel; A Tribute to Gram Parsons"
・別に集めようという意図があったわけではないが、ここのところ「トリビュート」と名のついたアルバムを何枚も買った。要するに、いまはもう死んでいない偉大なミュージシャンを偲んで、強い影響を受けた人たちが集まって好きな歌を歌ったものである。ぼくはこの種のアルバムは好きだ。捧げられた人に対して関心があれば、参加しているミュージシャンもまた、好きな人たちが多いことが普通だからだ。
・ハンク・ウィリアムズはカントリーのジャンルでは伝説的なミュージシャンだ。ロカビリーといったジャンルが一時もてはやされたが、ロックンロールの誕生に橋渡し役をした人だといってもいい。参加しているのは、ボブ・ディラン、シェリル・クロウ、ベック、マーク・ノップラー、エミルー・ハリス、トム・ペティ、キース・リチャーズ、ジョニー・キャッシュ他。各自がハンク・ウィリアムズの持ち歌を歌っているが、ハンク・ウィリアムズそのままの人もいれば、独自の歌にしてしまっている人もいる。だから、誰かわからないままに聞き流す曲もあれば、誰かがすぐわかるものもある。
・そういう存在感の強さと言うことでいえば、やっぱりディランにかなう人はいない。どんな歌を歌ってもディランはディランでしかない。そんな気持をあらためて強くした。実はディランはその他のアルバムにも顔を出していて、それぞれに、自分のではない歌を歌っているのだが、どれもやっぱりディランの歌としてしか聴けないものに変わってしまっている。
・2枚目はサン・レコードに対するトリビュートだが、要するにエルビス・プレスリーに捧げられている。ここへの参加者は、ポール・マッカートニー、ジェフ・ベック、クリッシー・ハインズ、ジミー・ペイジ、ジョニー・アリディ、エルトン・ジョン、トム・ペティ、ヴァン・モリソン、ブライアン・フェリー、エリック・クラプトン、シェリル・クロウ他。ポール・マッカートニーはエルビス本人と聞き間違えるほどだが、ディランはやっぱりディラン。そんな違いがとてもおもしろい。
・3枚目のジョニー・キャッシュは最近亡くなった。多くのロック・ミュージシャンとは違って低くて太い声で歌う無骨な感じの人だった。参加者はボブ・ディラン、リトル・リチャード、ブルース・スプリングスティーン、スティーブ・アール、ジャネット・カーター他。スプリングスティーンもやっぱり、しっかりスプリングスティーンだが、黒人のロックンローラーのリトル・リチャードがジョニー・キャッシュの持ち歌をロックンロールにしてしまっているのにはかなわない。ディランはここでもディランだ。こんなだから、他の二枚に比べて、いろんなサウンドが錯綜した感じになっている。もちろん、それはそれで面白い。
・最後はグラム・パーソンズ。彼は若くして死んだカントリーのミュージシャンで、前記した3人ほどには知られていないが、早すぎる死ということもあって、彼を偲ぶ人もまた多様だ。死因はドラッグ。ジミ・ヘンドリクス、ジム・モリソン、ジャニス・ジョプリンが相次いで死んだ時期と同じだった。バーズのメンバーだったこともあって、カントリー・ロックの草分けといった役割をした人として語られることが多い。参加しているのはエミルー・ハリス、クリッシー・ハインズとプリテンダーズ、ベック、スティーブ・アール、シェリル・クロウ、デビッド・クロスビー他。
・どのアルバムもそれぞれに味わいがあっていい。けれども、このような企画が相次ぐということは、それだけ、あたらしい音楽やミュージシャンが少ないということでもある。このコラムでも、もう何度も書いているけれども、本当にあたらしい音楽やミュージシャンがでてこない。21世紀になっても音楽は、完全に行き止まりの袋小路に突きあたったままだ。だから当然後戻りする。
・4枚のCDをくりかえし聴いて楽しみながら、同時に思うのは、音楽のこれからの動きだ。音楽をつくり、発信、受信する技術がこれほどに高度になった時代はこれまでなかったのに、あたらしい音楽が生まれない。これは大いなる皮肉のようにも思えるが、また当然の帰結のようにも感じられる。
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unknownさんではなく、何か名前があるとうれしいです。