2003年6月9日月曜日

有賀夏紀『アメリカの20世紀』(中公新書)

 学部では去年から「現代文化論」の講義を担当している。ぼくは「現代」ということばにおよそ100年、つまり20世紀全体をあてはめているし、「文化」についても日本よりはむしろ欧米に照準を合わせている。現在の日本の文化現象について話が聞けると思っている学生には、いささか当てはずれという印象かも知れないが、今のことを今だけに限定して考えても確かなことはわからないし、日本のことも日本だけで事足りるわけもないからだ。
たとえば若い世代が楽しんでいるはやりの音楽やファッションは、アメリカの50年代、60年代にルーツをもっている。それらがどのような社会的背景のなかで生まれ、世界中に広まったか、あるいは政治や経済にはどのように影響し、また、されてきたのか。感覚的に気に入って身につけたり、食べたり、聞いたりしているものが、今自分のところにある、その移動や変化のプロセスについて、なるべく自覚的に理解してほしい。そんなつもりで授業をしている。
話をしていてくどいほど念を押すのは、時間と場所のちがいの自覚。つまり、10年、50年、100年のちがい、日本とアジアとアメリカ、あるいはヨーロッパのちがいを実感として理解することだ。最近の学生には歴史や地理の感覚がおどろくほど希薄だし、国や民族のちがいを多様性として認識する能力も身につけていない。「昔」ということばで1年前のことも100年前のことも一緒くたにして平気だし、「みんな」とか「普通」ということばで、いとも簡単にあらゆるものを一括りにしてしまう。
原因はいろいろあるのだと思うが、彼や彼女たちと接していて感じるのは、情報や知識の入手が圧倒的にテレビに偏っていることだ。いろいろ知ってはいるけれども、意味解釈がすべて同じ。ちょうどファミレスのメニューやコンビニ弁当の味つけのようなもので、一見多様に見えても、実はきわめて画一的で平面な認識や知識だったりする。だから、本を読みなさい!としつこく言うことになるのだが、いきなり専門書は無理で、わかりやすくてしっかりした入門書を用意しなければならないことになる。
前置きが長くなったが、今回紹介する『アメリカの20世紀』は、現代のアメリカの姿を100年の時間を追って理解するには最適の本である。「なぜ、どうのようにして、アメリカはこれほどの強大な国になったのか?」「アメリカの影響は何が、どれほど世界中に及んでいるのか?」読みながら、あらためて考えたり、確認したりすることは少なくない。
20世紀が「アメリカの世紀」と言われるのは、その強大な政治力、経済力に合わせて文化力ももっていたからだ。それは「『自由』と『民主主義』の理念と豊かな消費生活とが一体となった『アメリカ文明』の世界への拡大」で、20世紀の一方の雄、ソ連と比べれば、文化的影響力の差は歴然としている。「マクドナルドやコカコーラ、ロックやポピュラー音楽、映画、野球、ジーンズやTシャツ、スーパーマーケット、さらに『自由』とか『民主主義』の考え、アメリカ英語などが世界中を席捲しているさま………」。しかもアメリカは、その文化の海外への宣伝や浸透に積極的だった。
好例は、占領下の日本に対しておこなった政策で、日本人は政治や社会や経済の建て直しに、アメリカのあらゆるものを目標にした。経済大国になった日本は、それ以後のモデルとしてしばしば使われたが、それはアメリカが示したイラク戦争後のプランにも如実に現れている。その意味では、日本はアメリカにとって、アメリカが描いたとおりに国を再建し、アメリカに都合の良い強国になったということだろう。
だから、今の日本文化について考えようと思ったら、アメリカの影響を表層の文化だけでなく、政治や経済からも見なければいけないし、20世紀全体を見通さなければならない。『アメリカの20世紀』はそんな問題意識に答えてくれる入門書として読める。

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unknownさんではなく、何か名前があるとうれしいです。