2008年6月1日日曜日

模索舎と有機本業


・春休み中にA4版の茶封筒が大学宛に届いていた。大学に出かけたのがしばらくぶりだったから、メールボックスは一杯で、いちいちチェックをせずに机の上に積み重ねたままにしておいた。新学期が始まって、そこに新しい手紙やら、書類、それに教材がたまったのを整理して、すっかり忘れていたその封筒に気がついた。差出人は五味正彦とある。「うわー、懐かしい名前」と思って中身を見ると、私信と一緒に何冊かの冊子(GREENSTYLE)や新聞記事のコピーが入っていた。僕が書いた朝日新聞のキャンパスブログを懐かしく感じて出したと書いてあった。読みながら、ずいぶんほったらかしにして申し訳ない気持で一杯になった。で、これはぜひ紹介しなければという気になった。

・五味さんは新宿で「模索舎」という名の本屋さんを営んでいた。御苑の入り口近くにあって、さまざまなミニコミを委託販売する書店だった。僕は、そのミニコミに関心があり、雑誌に時評を書いていたこともあって、その店を時折訪ねていた。もう30年以上も前の話だ。永井荷風の『4畳半襖の下張』を掲載した雑誌『面白半分』のコピー版を販売した罪で摘発され、長いこと裁判をしたことでも知られている。マスコミとはちがう情報を伝えるメディアとして、ミニコミが存在していた時代、だからこそ、危険な媒体として見られることもあった時に、圧力に屈せずに交流の場を維持しつづけてきた。

・ミニコミの変容や、僕の関心が他に向いたことなどもあって、模索舎への足は次第に遠のいたが、五味さんは一貫して初心を貫いている。封筒の中身を拝見して、そんな印象を強く持った。模索舎は今でも開店しているようだし、「ほんコミ社」という「世の中と暮らしを考え直す出版物の流通屋」も手がけてきた。で、最近、「有機本業」という新たな試みも始めたようだ。そのサイトを訪ねると、「『国内フェアトレード』というコンセプトで、持続可能な社会の実現、地域経済活性につながるものづくりを応援しています。」とある。その、樟脳の製造と販売という部分に強い興味を覚えた。

・実は最近、ぼくも偶然、樟脳に出会った。造園業ではたらく知人にもらった材木を家まで運び、斧で割っていると、突然、メンソールの匂いが立ち上ってきた。その木を手にとって匂いをかぐと、強い香りがする。さっそくネットで調べると、楠木で樟脳の原料になると書いてあった。樟脳は防虫剤としてよく使われてきたものだ。風呂に入れると薬効があるというので、それ以後、我が家では小さく割って何本も浮かべている。さわやかな香りがして、心なしか体も良く温まる気がしている。カビもつきにくくなるようだ。

yuuki_hongyo.gif・「有機本業」では間伐林を利用した割り箸やトレイなども扱っている。割り箸は木の無駄使いとして悪者扱いされたりするが、けっしてそんなことはない。植林して放置された森林や、伐採されても使われずに捨てられる木材を有効に利用する、数少ない方法のひとつなのである。

・たとえば、風が吹いて庭の木の枝が落ちることがよくある。その木をストーブや焚き火の焚きつけにしたりもするが、形のいいものはとっておいて、箸やスプーンなどに細工をする。そうすると、落ちた枝とは思えないモノに変身する。森に住みはじめてから何度となく味わった喜びである。ストーブで燃やすために集めた木のなかにも、桜や白樺など、細工用にとっておいて、灰皿や表札、靴べらやさまざまな台所用具に生まれ変わらせたモノがたくさんある。

・楠木は神木として神社などによく植えられている。その香りや薬効が、この木を大切にする気持を生みだした。楠木から抽出した樟脳は、かつては日本の重要な輸出品で、防虫剤の他に、プラスチックが普及する前のセルロイドの原料にもなったようだ。しかし、現在ではほとんど見向きもされない木になっている。「有機本業」では、その役割を再認識して、広く使われることをめざしている。エコブームはマーケティング戦略が露骨でうんざりするが、地道に本気で考えている人もいる。五味さんからの手紙を見て、改めて、その思いを再認識した。

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unknownさんではなく、何か名前があるとうれしいです。