P.F.Sloan "Sailover" "Here's Where I Belong: Best of the Dunhill Years"
Jimmy Webb "Just Across The River"
・P.F.スローンは高校生の頃に気に入ったミュージシャンの一人だった。とは言え、最初に彼の名前を知ったのは、バリー・マクガイヤーが歌った『明日なき世界』のソングライターとしてである。「破壊前夜」(Eve of Destruction)という原題の通り、ヴェトナム戦争や保有する核を競う米ソの冷戦などを強く批判した反戦歌で、アメリカでは1965年に大ヒットしている。その彼が歌った『孤独の世界』が翌年発表されて、僕はすっかり気に入って、『明日なき世界』とともに日本語に訳して歌ったりした覚えがある。その時はわからなかったが、この歌はアメリカではまったくだめで、日本だけでヒットしたようである。それも、66年ではなく、69年のようだ。気に入ってから3年もたってのヒットだったのだが、その辺の記憶は僕にはない。
・「孤独の世界」の原題は"From a Distance"である。直訳すれば「遠くから」とか「遠く離れて」となるのだろう。これがなぜ「孤独の世界」になるのか、訳して歌おうと思った僕を悩ませた問題だったように思う。学校の教科書にある英文には興味はないが、歌を訳すことには夢中だった僕にとって、この歌の出だしの'Have you ever heard a lonely church bell ring'が教科書に出てくる'Have you ever~'(〜したことがありますか)という文型と重なって、すぐに訳せたし、後々忘れなかったことなど、今ふり返ると、思い出すことは少なくない。
・すり切れてしまったドーナツ盤のレコードしかもっていないから、もう何十年も聴かなかったのだが、Amazonでふと思い出して検索してみると、若い頃のレコードをCD化したものだけでなく、最近のものもあることを見つけて、さっそく購入した。ジャケットに写っている顔はそれなりに歳を取っている。歌う声もずいぶん違うから、聴いていて懐かしいというよりは新鮮な感じがした。『明日なき世界』などの古い曲ばかりでなく、新しい歌を今でも作っていることもわかって、気に入って何度も聴くようになった。
・アメリカから帰ってすぐに、FMの「バラカン・モーニング」を聞いていると、「P.F.スローン」という題名の曲がかかってびっくりした。歌っているのはジミー・ウェッブとジャクソン・ブラウンで、ウェッブのアルバム"Just Across The River"におさめられているという。さっそくAmazonで購入することにした。ジミー・ウェッブはシンガーよりはソングライターとして名高い人で、この歌では、70年代以降すっかり忘れられてしまったスローンがウェッブのヒーローであったことが明かされている。
・70年代以降のポピュラー音楽には、ニール・ヤングやジェームズ・テイラー、そしてジョニ・ミッチェルといった内省的な歌を歌うミュージシャンが数多く登場したが、そんな雰囲気を先取りしたP.F.スローンはなぜか消えてしまった。ウェッブが歌うそんな思いは一緒に歌っているジャクソン・ブラウンにも共通したものだったようだ。この歌の説明として、ウェッブがかつて住んでいた家がジョニー・リバースの家だったことが書かれている。ジョニー・リバースにはいくつもヒット曲があるが、その中にはウェッブの他にスローンが作ったものもある。意外な曲だが、"Seacret agent Man"(秘密諜報員のテーマ)というよりは『スパイ大作戦のテーマ』である。二人はジョニー・リバースを仲介にして重なり合うわけで、この意味でも、ウェッブにとってスローンが消えてしまったことが気になっていたのである。
・だからウェッブの歌は「ぼくはP.F.スローンを探していた/彼がどこに行ってしまったのか、誰も知らない」で始まっている。カムバックしたP.F.スローンがこれからどんな曲を作り、どんなアルバムを作るのか。そんな期待を感じさせる曲であることは間違いない。
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unknownさんではなく、何か名前があるとうれしいです。