2011年5月16日月曜日

拝啓 菅直人様

・菅首相の決断により浜岡原発が停止されました。これまでの彼の言動からすれば、テレビの臨時ニュースに目と耳を疑うほどの画期的な声明だったと思います。賛否両論あってにぎやかですが、僕はもちろん、大賛成です。

・僕は地震が多発する日本に原発を作ること自体にずっと反対でした。スリーマイルやチェルノブイリの事故があったときには、当時住んでいた京都で何度か、集会にも参加したことがあります。ただし、職場が東京に変わり、住む場所が山梨に変わってからは、オール電化やクリーンエネルギーを宣伝する東電のCMに反発しても、それ以上に原発について意識したり、発言したりすることはなくなりました。どうして忘れてしまっていたんだろうと、反省するところ大です。実際に原発事故が起きてしまった後では手遅れですが、それでも、これ以上の事故や被害を避けるためにも、できることはやらねばと思っています。

・原子力政策は中曽根康弘が先頭に立って進めて以降、自民党の主要な政策の一つでした。すでに54基もでき、建設中や計画中の原発も10基以上あるようです。フランスを除けば先進国の中で90年代以降に新しい原発を作った国はほとんどないのに、日本では将来的には電力の70%を原発でまかなう計画ができているのです。

・地震による福島原発の事故がいつ終息するのか、本当にできるのか、放射能が拡散して避難しなければ行けない地域は半径20kmと北西方向に飯舘村だけでいいのだろうか。実際には福島市や郡山市にいたる全域で、せめて子どもだけでも疎開をさせた方がいいのではないだろうか。こんな不安や心配が一方で指摘されてもいます。けれども、稼働中の原発をすぐに停めろという主張や議論は、国会の中ではほとんど起こりませんでしたし、そもそも原子力についての政策を一から見直そうなどと言う動きも、全く見られませんでした。

・原発はいったん大事故になれば、収拾がつかないほどの惨事になります。その危険性を目の当たりにしても、だからやめようとは誰も言い出さない。一度動き出した政策や計画は、その無用さや危険が明確になっても、なかなか停めることができないのです。これは原発に限らず、国の政策はもとより、自治体や企業や学校などにも共通した日本的な特徴だと言えるでしょう。

・だからこそ、やめると宣言した首相の決断は重いのだと思います。突飛だ、唐突だ、人気取りだと非難されましたが、根回しなどやっていたのでは棚上げにされたり、骨抜きにされたりするのは目に見えていたのです。そもそも、原子力の推進を党の方針としてきた自民党は、なぜ、福島原発の事故に関連して、自らの政策についての反省や、これからの方針を明確にしないのでしょうか。鳩山前総理は就任時の国会演説で、自民党の批判に対して「あなたたちに言われてたくない」と発言しました。菅首相は、自民党の批判に対しては、あなたたちのおかげで、今大変な思いをして事故処理に追われているのだと言えばいいのです。

・ここのところ毎日のように、京大助教の小出裕章さんの話をネットで聞いています。女川原発の反対運動に参加して以来40年間、「原発をやめさせるための研究をしてきた」と言う彼の発言は、その真摯な態度と相まって、今もっとも信頼できる人として、多くの人の支持を得ています。夏の電力が心配とか、経済的な沈滞を避ける必要があるといった理由とは関係なく、すべての原発をすぐにでも停める必要がある。それは誰にとっても、自分がどのように生き、どんな生活をしたらいいのかと問わなければならない問題である。彼の言うことは、「ライフスタイル論」などをテーマの一つにしてきた僕にとっても、胸に突き刺さるような問いかけとして感じられます。→原発「安全神話」溶融

・菅首相は、浜岡原発の停止要請の後に、エネルギー政策を白紙に戻して、再生エネルギーの開発や普及に力を入れるべきだという政策転換の発言もしました。太陽光や風力、地熱、そしてバイオマスによる発電は、国や電力会社がその気にならず、むしろ発展を抑えてきたから、日本では普及していないのが現状です。アメリカでは原発よりも再生エネルギーによる電力の方がコストが低くなるほどに、普及してきています。ドイツでも原発を廃棄して、再生エネルギー中心の方針に大きく方向転換をしました。日本でも、今こそ、原子力発電の廃棄に向けて、方向を転換する必要があると思います。

・浜岡原発をとりあえず防潮堤ができるまで停めるのは、あくまで原発を廃棄するための第一歩にすぎないのです。普天間は国外、最低でも県外と言った前首相の発言は、結局、強い抵抗にあって腰砕けになってしまいました。それだけに、菅首相には、エネルギー政策の大きな転換に本気になってがんばって欲しいと思います。

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