2013年3月25日月曜日

ポール・オースター『ブルックリン・フォリーズ』 他

・ポール・オースターの作品はほとんど読んできた。ただし、ここ数年は新作が出てもすぐ読もうという気にならなかった。初期の頃の作品に比べて、夢中になって読み進むほどおもしろくないと感じたからだった。ところが、アマゾンで何の気なしに検索したら、読んでいない本が何冊もあって、久しぶりに読んでみようかという気になった。

auster1.jpg・『ブルックリン・フォリーズ』は退職し、妻と離婚した60代の男が主人公である。その彼が一人暮らしをしながら、研究者を目指して挫折した甥っ子と再会し、奇妙な事件に巻き込まれ、一緒に旅をする物語である。偶然をうまく使って話を繰り広げる手法は健在で、久しぶりにおもしろいと思った。しかし、もっと共感したのは、自分の病気、離婚、娘との関係などについての語りが、同世代としてきわめてよくわかることばかりだったからだ。

・オースターの小説のテーマは「消失」である。僕が興味を持って「オースター論」を書いたのは15年ほど前のことで、素材にした小説はすべて若者が主人公だった。だからそこでテーマになった「消失感」は若者のアイデンティティに関わるものだったのだが、『ブルックリン・フォリーズ』の主人公が抱いているのは長い人生を生きてきて、さまざまな経験をした老人が感じるものである。

・若い人たちが味わう「消失感」は自分が何者かになろうとするときに捨てるものや、何者かになろうとしてなれなかったものに対して向けられる。けれども老人になったときに経験する「消失感」は、いったん手に入ったもの、実現したものを失うときに襲ってくる。その消失感とどうつきあうか、そんな主人公の心の持ち方が、奇想天外な物語の中でつぶやかれる。

auster2.jpg・『幻影の書』は中年の男が主人公だが、物語は妻と二人のこどもが乗った飛行機が墜落して、突然家族を失うところから始まる。大学に勤める研究者で、教員としての仕事も研究も放り出してただ呆然として時を過ごすが、たまたまテレビで見たサイレント映画が気になって、その監督が作ったその他の作品が見たくなる。で、世界中に散在したフィルムを追いかけ、資料を調べ、それを一冊の本にまとめて出版したのだが、とっくに死んでいると思っていた、当の監督が会いたがっていると書いた手紙が舞い込んでくる。

・この映画監督は、数本の作品を作った後に忽然と姿を消した人だ。その理由は謎に包まれていたが、今でも生きていて、未発表の作品を何本か作っているという。主人公は会いに出かけるが、対面した翌日に監督は死んでしまう。遺言には、つくった作品も資料もすべて焼いてしまうようにとある。出会いを仲介した女との激しい争いと恋愛と別れ。「消失感」がテーマであるのは、この小説も変わらない。

auster3.jpg・『オラクル・ナイト』の主人公もまた病み上がりで、出版社の仕事を辞めて小説を青いノートに書いている。オースターの初期の作品にはしばしば赤いノートが出てきて、それが重要な役割を果たしていたが、今度は青に変わった。物語はこの青いノートに小説を書くことで進むが、小説内小説、その中の小説と入り組んでいて、人物説明が注として挟み込まれているから、スムーズに読み進むことができない。まるでオースターに意地悪されているかのようである。

・と言うわけで、まだ読み終えていない。

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unknownさんではなく、何か名前があるとうれしいです。