2020年2月3日月曜日

駅伝とピンクの靴

 ・年末から正月にかけて一番人気のあるスポーツ番組は駅伝だ。高校、大学、実業団、そして都道府県対抗といろいろあって、京都や箱根、広島や群馬などで行われている。もちろんこれはテレビで中継されていて、どれも視聴率を稼いでいる。中でも箱根は大晦日の紅白歌合戦に続く、正月番組の目玉になっている。それらのすべてではないが、僕もその競走を楽しんで見た。今年はどれも大会新記録続出で、その理由の一番が履いている靴にあることに、大きな疑問を持った。

pink2.jpg・ 選手がはいていた靴はナイキ製で底が厚く、カーボンが入ったものである。それで弾力が増してスピードが出るそうで、この靴によってマラソンでも2時間を切る記録が出たし、設楽や大迫選手が日本記録を出したときも履いていたようだ。そして、この靴が使用禁止になるのではというニュースも流れた。スポーツと用具の関係は、その善し悪しを判断しにくい難しい問題だが、僕は駅伝を見ていて、このピンクの靴はダメだろうと感じた。底の厚さはともかく、弾力を増すカーボンを入れて記録を出しても、それは用具によって出たものにすぎないと思ったからである。

・ 禁止された用具には、これまでにも競泳の水着やスキー・ジャンプのユニフォームなどがあった。その理由は不公平になることと、人間の身体能力を超えた記録に対する不信感だったと思う。記録は用具によって超えられてはならない。日本や世界の記録が意味を持つのは、それが鍛練や練習方法、あるいは栄養などの改善によって更新されてこそ価値があるのであって、用具に頼るのはドラッグと同じだと考えられるからである。

・もちろん、記録が重視されないもので、公平さが求められれば、用具の改善には、それほどやかましく言わなくてもいいのかもしれない。たとえば自転車は70年代までは鉄製であったが、それがアルミになり、今はカーボンになっている。それによって自転車の重さは半減して、スピードが飛躍的に増し、選手の負担も軽減された。しかし自転車競技の多くは記録を競うものではないし、大会によって距離も高低差も道路状況もまちまちである。そして勝負を左右する用具の技術革新が、この競技の魅力の一つだったりもする。用具メーカーがチームを作り、競い合う。それはアルペン・スキーやモーター・スポーツにも言えることである。

・記録を争う陸上競技でも、用具によって記録が著しく伸びたものはある。たとえば竹の棒からグラスファイバーに変わった棒高跳びがいい例だが、逆にやり投げは飛びすぎて重心の位置を変えたりもした。あるいは、踵が離れるスピード・スケートのスラップ・スケートなどもある。スケートの記録はリンク・コンディションでずいぶん違うから、選手全員が履けば問題ないとされたのかもしれない。そう言えば、陸上のトラックも土からアンツーカー(レンガをくだいたもの)、タータン(合成ゴム)と変わり、今ではポリウレタンガ使われている。水はけと弾力性に優れていて、選手の記録更新には大いに寄与している。

・そんなふうに見てくると、厚底でカーボンを入れた靴もいいのではないかと、考えを改めたくなる。しかし、何の規制もなく、メーカーの競争に任せたのでは、やっぱり公平さに欠ける。靴の違いで勝ち負けが決まるのはおかしいし、新記録を出しても靴のせいだと思われては選手はもちろん、見るほうも評価が半減してしまう。そう言えば、メジャー・リーグでも昨年はホームランが飛躍的に増えて、ボールのせいだと疑問が出た。サイン盗みの問題などもあって、大騒ぎだが、ドーピング同様に基準を明確に決めるべきだと思う。

・ここまで書いて終わりにしようと思ったら、世界陸連が現在市販されているナイキの靴を認めたというニュースが流れた。すでに大量に売れ、多くの選手が履いているのだから、もう禁止できないと判断したのかもしれない。開発段階で陸連に判断を委ねるべきだったと思うが、開発競争は極秘で行われるものであるから、難しかったのだろう。しかしあらかじめ明確な規制基準を設けなければ、また新しい靴が開発されて、あっという間に広まってしまうことにもなりかねない。新記録の意味がなくなったのでは、元も子もないのだから。

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