・韓国映画の『パラサイト・半地下の家族』が話題になっていることに気づいたのは、ひと月ほど前だった。カンヌ国際映画祭でパルム・ドール賞をとったことと、韓国の貧富の格差をテーマにしていることなど、その前年にパルムドール賞をとった『万引き家族』と似たもののように思えた。しかし、すぐに見に行く機会がなかったので、旅行から帰ってから見ようと思っていた。その間にアカデミー賞にノミネートされた6部門のうち4つで受賞をしたから、これはやはり見ておかねばと思った。
・『パラサイト』は、アカデミー賞では非英語映画で初めての受賞のようだ。それも作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞といった主要部門での受賞である。白人ばかりが取るという批判を受けて、ここ数年ではそうではない受賞も増えてきたが、字幕嫌いのアメリカでも高収益をあげての受賞は、画期的なものだと言えるかもしれない。
・『パラサイト』と『万引き家族』は日本と韓国の貧困家族を扱ったものとは言え、二つの映画は全く違っていた。血のつながらない老若男女が身を寄せあって、つましく暖かい家族を作り出す。そんな『万引き家族』と違って『パラサイト』の家族は現状には満足せず、何とか上昇しようと考えている。ソウルに多い、北の攻撃に備えて建物に作られている半地下に住んでいる。窓からは立ち小便をする酔っ払いが見え、近所のWifiを借用し、どういうわけかトイレが一段高いところに、目隠しなしに作られている。
・そこから這い上がるきっかけは息子に来た家庭教師の話だった。高台に住むIT企業の社長宅で女子高生に英語を教える仕事だった。家族はそこから、娘も家庭教師として潜り込ませ、父親を運転手、そして母親を住み込みの家政婦として雇わせることに成功する。もちろん、それ以前にいた運転手や家政婦を追い出してのことである。大富豪の家に、まんまと家族ぐるみで寄生(パラサイト)できたというわけだ。
・うまくいったと祝杯をあげるが、そこから破綻が始まる。その意外な展開が面白いし、スピード感もあって、娯楽映画としての魅力も十分で、アメリカでも受けている理由がわかった。しかし、2年続けてパルムドール賞をとったアジアの映画には、同じ貧困をテーマにしたものとは言え、その動と静の違いや結末の両極端に驚かされ、考えさせられもした。
・『万引き家族』は文化芸術振興費補助金を2000万円受けて作られた。しかし、日本の恥部をさらすといった批判を受け、返上騒ぎを起こしている。『万引き家族』は45億円ほどの収益を上げたようだが、製作費は公表されていない。他方で『パラサイト』はサムソンから別れたCJグループのエンタテインメント部門が13億円ほどの製作費を出し、国の補助もあって、すでに200億円近い収益を出している。アカデミー賞を取ったから収益はさらに飛躍的に増えるだろう。
・財閥系の企業が、韓国が今抱える社会問題を取り上げ、それをブラック・コメディに仕立て上げて、全世界に向けて送り出す。そのような発想は、今の日本には全くないものであることを映画を見ながら実感した。是枝監督は自分が撮りたいテーマを撮りたいようにして作品を作った。地味だがそれが評価されて、日本はもちろん海外でも意外にヒットした。しかし『パラサイト』は始めから全世界、とりわけアメリカを意識して作られている。もちろん、どっちがいいかということではなく、二つの作品に見る対照は、日本と韓国の文化政策の違いそのもののように感じられた。
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unknownさんではなく、何か名前があるとうれしいです。