・ボブ・ディランは3月に日本でコンサートツアーをやる予定だったが、コロナ禍で中止になった。その後もキャンセルされたようだが、80歳になるから、コロナに感染などしないようにと思っていた。そうしたら、新譜が出た。
・ボブ・ディランのアルバムは3年ぶりだが、オリジナル曲を集めたものとしては2012年の"Tempest"以来だから8年ぶりで、ノーベル文学賞受賞後初ということになる。2枚組みで、2枚目は17分近い
ケネディ大統領暗殺事件を歌った'Murder Most Foul(最も卑劣な殺人)'
1曲だけである。全英チャートでは1位を取ったほど注目されているが、いつものことながら、日本では全く話題になっていない。
・アルバム・タイトルの"Rough and Rowdy Ways"は「ラフで荒れた道」といった意味だろうが、カントリー音楽の先達であるジミー・ロジャーズの" My Rough and Rowdy Ways"を意識してつけたと言われている。このアルバムは1960年に発売されているが、ロジャーズは1933年に死んでいて、復刻版として出されたものである。カントリーにかぎらず、フォークやブルース音楽にも大きな影響を与えた人で、彼の歌は多くの人に歌われているようだ。また、クリント・イーストウッドが監督・主演した『センチメンタル・アドベンチャー』(Honkytonk Man)の主人公も、彼がモデルだと言われている。
・アルバムにこのタイトルをつけたのには、ディラン自身が若い頃から敬愛し、自らも歌っていたからなのかもしれない。あるいはディラン自身の人生や、彼が生きてきた時代を表しているのだろうか。何れにせよ、このアルバム全体が回顧的な視点で作られていることはよくわかる。ケネディ大統領暗殺を歌った 'Murder Most Foul' はもちろんだが、プレスリーやビートルズ、あるいはローリングストーンズをはじめとして多くのミュージシャンや曲の名前が登場し、フロイトやマルクス、そしてエドガー・アラン・ポーの名前もある。ゴッドファザーとアル・パチーノ、マーチン・ルーサー・キング等々、各曲にちりばめられた名前は数多い。
・もちろん、地名もたくさん登場する。いろんなところに行って、いろんなものを見て、いろいろな経験をした。そしてもちろん、多くの人に出会った。そんな自分史を語っているようであり、また50年代から60年代にかけての、彼の経験した歴史を思い返しているようでもある。ディランはもう80歳を過ぎているが、コロナ禍がなければ、今年も世界中を回って、コンサート・ツアーをしていただろう。しかしそれができなくなって、隠ったところで、人生を振り返る歌を作りだしたのかもしれない。ひょっとしたら、これが最後のアルバムか、などと思ってしまうが、多分、それはないだろう。
プレスリーが歌う道を整えた人
マーチン・ルーサー・キングが歩いた道を切り開いた人
やるべきことをやり、自らの道を歩いた人
そんな人たちの物語なら、一日中話すことができるだろう 'Mother of Muses'
・今に始まったことではないが、このアルバムの歌詞も難解だ。ただし面白いフレーズもいっぱいある。最初の曲の題名は 'I Contain Multitudes'だが、これはホイットマンの詩からの引用で、定訳では「私は矛盾を抱えた存在だ」となるようだ。2曲目の 'False prophet' にある 'I opened my heart to the world and the world came in' (「この世界に心を開いたら、世界が入ってきた」)は含蓄があるし、3曲目の 'My Own Version of You' (「君を僕のバージョンで作り直す」)と、4曲目の 'I’ve Made Up My Mind to Give Myself to You' (「君に僕を捧げることに決めた」)は対照的な題名で面白いと思った。ネットで調べた限り、このアルバムの評価は極めて高いから、歌詞を見ながらでないと聞き取れないのが、今さらながら残念だ。
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unknownさんではなく、何か名前があるとうれしいです。