2014年3月17日月曜日

エイモリー・ロビンス『新しい火の創造』ほか

エイモリー・ロビンス『新しい火の創造』ダイヤモンド社
『ソフト・エネルギー・パス』時事通信社

robins2.jpg・エイモリー・ロビンスの『新しい火の創造』は、都知事選で細川候補を支援して連日街頭に立って脱原発を訴えた小泉元首相のタネ本だと言われている。確かにこの本の帯には、「衝撃の小泉発言、原発ゼロの実現へ”根拠”はここにあった」と書いてある。しかし、エイモリー・ロビンスは最近脚光浴びた人ではなく、すでに35年も前に、ハードではなくソフトなエネルギーの開発と普及を主張した『ソフト・エネルギー・パス』を出していて、この領域ではリーダー的存在の一人である。なぜ今注目されるのか。この2冊の間にどんな違いがあるのか。そこに興味を持って読み比べてみた。

・『新しい火の創造』の原題は"Reinventing Fire"だから、直訳すると「再発明される火」だが、辞書を調べると、Reinventing には(すでに発明されていることに気づかずに)という意味があると書いてある。これについての訳者の説明はないが、この題名をつけた狙いは、まさにここにあるのではないかと思った。つまり、現代社会は火や電気、そしてエネルギーの原料として石炭や石油、天然ガス、そしてウランを使うことを基本にしているが、それらはすべて、太陽と地球の地殻活動によってできたものである。その数十億年をかけて蓄積されたものを、人間はわずか200年ほどの間に使い尽くしてしまおうとしている。だから、いずれなくなることがわかっているもの、環境を汚染し続けているものに頼らずに、忘れていた太陽や地殻活動を利用した火やエネルギーに戻ろうという提案が本書の内容だと言っていい。

・『新しい火の創造』は「燃料の非化石化」をはじめにして、「運輸」「建物」「工業」「電力」の章を設けて、すでに達成された技術開発と実用化された分野、これから普及していく領域について詳細な分析をしている。ただし、本書が力説するのは、その科学的、倫理的な根拠ではなく、ビジネスとしての可能性にあって、それはすでに動き出しているという主張にある。小泉元首相の意識を大きく変えたのもまさにこの点で、選挙期間中も細川・小泉は口を揃えて、脱原発は「イデオロギー」の問題ではないことを訴えていた。

robins1.jpg・ロビンス(ズ)が35年前に書いた『ソフト・エネルギー・パス』は原油が値上がりして「オイルショック」と呼ばれた状況のなかで出版されている。「スモール・イズ・ビューティフル」(シューマッハー)といったスローガンが社会変革を訴える人びとから発せられたが、ロビンズはその考えに好意的ではあるものの、あくまで「イデオロギー」や「価値観」からは距離を置いて分析するというスタンスを貫いている。ただし、この本で主張されていることは、今でも説得力がある。と言うよりは、35年間も放置されてきて、抜き差しならない状況になってしまっていることを改めて実感させられる内容になっている。

・たとえば「個人的メモ」として列挙された問題点には、「あまりに大量のエネルギーをあまりに早く消費する危険性」「自然のシステムに関する無知」「経済的合理性と経済的コストの誤り」「核分裂技術のやっかいさと危険性」「最小のエネルギーで上手に社会目標を達成する可能性」などがあって、その後の章で、各問題点が詳細に分析されている。日本語版への序文には「人口過密でかつ政治的には移り気な地震地帯に、恐るべき事故と注意深いもしくは不注意な原子爆弾の拡散を招く可能性の高い許されざる技術」が本格的に導入されはじめていることについて警鐘を鳴らす記述がある。

・日本の原発の多くは、この本が出版された後に建設され稼動したものである。日本に限らないが、この時期にロビンスの提案に賛同して、ソフト・エネルギーの開発と普及に努めていたらと考えると、この本の重みに今さらながら、溜息をついてしまう。まさに後悔先に立たずだが、現在でも、ロビンスの提案は、地球や人間の未来を考えてといったものではなく、あくまで経済性とビジネスとしての可能性として評価されている。そういう展望が開けてやっと動き出したことを嘆くべきか、あるいは喜ぶべきか。

・もっとも日本では、原発事故の当事国であるにもかかわらず、依然として原発を基盤電源に据えようとしている。電力会社を倒産させないためであれ、原爆を開発できる余地を残しておくためであれ、既得権益にしがみついてビジネスとしての可能性すら軽視する姿勢には、未来への展望がまったくない。

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unknownさんではなく、何か名前があるとうれしいです。