2024年7月8日月曜日

宮本礼子・顕二『欧米に寝たきり老人はいない』 中央公論新社

 
miyamoto1.jpg 老人ホームにいる母親が脳溢血で倒れたという連絡が来た。もう何回目かだが、今回は重症だという。入院している病院に行くと、意識はない。呼吸はしているし、時々咳払いのようなものをする。飲み食いは当然できないから、鼻からの栄養補給だった。この状態では今までいた老人ホームには戻れないから、終末医療のできるところを探さなければならない。幸い、同じ系列のホームが近くにあるという。どうしたらいいのか、妹たちと相談することになった。

ネットで調べると、宮本礼子という認知症を専門にする医師の論文が見つかった。彼女には夫婦で共著の『欧米に寝たきり老人はいない』 もあって、さっそくアマゾンで購入した。それを読むと、欧米やオーストラリアなどでは、寝たきり老人は存在しないという。つまり、自分の力で食べられない、飲めないとなったら、もう何もしないで死を迎えるというのが、当たり前になっているというのである。驚いたのは、意識のある人に対しても、そういった対応をするのが一般的になっているという点だった。

確かに食べることも飲むこともできなくなったら、延命治療してもしょうがない。そう思う人は多いだろう。それに、栄養補給などをすれば、痰がつまって吸引する必要が出てきて、それがひどくつらかったりもするようだ。寝たきりになれば床ずれも起きるし、筋肉は衰え、身体は硬直してしまう。この本によれば、結局延命治療は、できるだけ生きていて欲しいと思う家族の希望によることが多く、それは日本や韓国などに特徴的な傾向なのだということだった。

で、僕らはもう何もしないで今まで住んでいた老人ホームで死を迎えるようにしようと考えたのだが、手違いがあって、退院後に終末医療のできるホームに移すことになった。で、栄養補給をしても母親の状態に改善が見られない時には、それを止めることにするということで、しばらく様子を見ることになった。ところが、病院に3週間ほどいた時にはほとんど変化のなかった母親の様子が少しずつ変わってきたのである。

マヒしていない左手を握ると、放させないほど強く握り返してくる。目も開くようになって、こちらを追うようになったという。ホームでは誤嚥に気をつけて、口からの栄養補給も試みるようだ。今さらながらに母親の生命力や体力の強さに驚かされてしまった。逆に言えば、入院している間、病院では一体何をしていたのだろうという疑問も感じた。面会に何度か行ったが、医師やカウンセラーから何の話もなかったのである。

母親の回復は子どもたちにとっては喜ばしいことだった。しかし、当の母親はどうなのだろうか。それが聞けるほどに回復するとは思えないから、どこかでやっぱり、家族が決断しなければならないことだと思う。僕はこの本に書いてあることに納得して、延命治療はしないでと思っていたが、少しづつでも回復している様子を見ると、その気持ちは大きく揺らいでしまう。

0 件のコメント:

コメントを投稿

unknownさんではなく、何か名前があるとうれしいです。