・ニール・ヤングが武道館でコンサートをやる。去年の「フジロック」に来ていたから1年ぶりだが、単独でのコンサートは久しぶりだろう。残念ながら、僕はこれまで一度も彼のコンサートには行っていない。だから、今度ばかりは無理をしてでも行こうかと思っているのだが、例によって、帰り道のことを考えると気が重くなってしまう。ルー・リードの時も直前まで、行こうかどうしようか迷っていて、結局くたびれるからやめようということになってしまった。あとでコンサート評などを読むと、かなりよかったようで、行けばよかったかな、と少し反省している。
・もっとも、コンサートに行くときにはだれであれ、予習をするのがこれまでの習慣になっていて、ルー・リードもこの間あらためてずいぶん聴いた。で今はニール・ヤングを聴き始めている。この習慣は、ディランが最初に日本に来たときからだと思う。一曲も聞き逃してはいけないと、歌詞やメロディを頭にたたき込むようにして聴いた。それでも、アレンジを気ままに変えるディランのコンサートでは、何の曲だかわからないものがいくつもあった。
・ニール・ヤングはいつでも同じように歌うから、知っている曲はわかるだろうと思う。ただし、バックのクレイジー・ホースとギンギンに乗ってしまうと何がなんだかわからなくなることもあるかもしれない。僕は彼の歌は断然、ソロで生ギターでやるのが好きだ。最近ではニューヨークの惨事のあとにしたテレビの特番で歌った「イマジン」が今でも忘れられないほど印象深く残っている。あとは『フィラデルフィア』のエンディング・テーマとか、MTVでやった「アンプラグド」のコンサート盤などは、部屋や車のなかで時折聴いている。だから、武道館という会場が「絶対行こう」と思えない大きな理由でもある。
・来日が近いせいか、古いアルバムが何枚も新装されて発売されたり、予定されている。9月に2枚組の新作"Green Dale"も出たようだが、まだ買っていない。僕がもっているCDで一番新しいのは"Are You Passinate?"だ。彼の歌には二面性があって、高音で鳴くように歌う静かなものと、クレイジーホースをバックに絶叫するものがある。静かなものは「ロンリー」とか「ヘルプ」といったことばがよく出てきて、聴いていて情けない気になってしまうが、"Are You Passinate?"は全曲がそんな感じだ。
・曲名も「失望さん」「やめろ」「家に帰ろ」「旧友」「癒し人」といかにもで、彼の歌はデビューの頃から一貫して変わっていない。メロディにはどことなく演歌くさいものもあって、そこにテンガロン・ハットで泣くように歌う彼の姿をかぶせると、日本人に受ける理由がよくわかる気がする。頭ははげて、ずいぶん太ったから、けっして格好いいとは言えないが、雰囲気と声は若い頃のままで、それはディランとは対照的なところでもある。歌が変わらないからいいともいえるし、年相応という面がないから不満だとも言える。
・以前にぼくのHPに興味をもった人が大学に会いに来て、その時に自分がプロデュースしたCDをもってきた。中身はニール・ヤングへのトリビュートで、ヤングの歌を何人かの人たちが集まって歌うというものだった。他にもあるのかもしれないが、ミュージシャンを志す人にとってニール・ヤングが根強い人気をもっていることを示すアルバムだと思った。ちなみにこのアルバムのタイトルは"Mirror Ball Songs"で、問い合わせ先はwww.elesal.com。
・このコラムで取り上げるミュージシャンはどうしても、ぼくと同世代かちょっと上の人たちが多くなってしまう。それは僕の好み、聞き慣れた音楽に対する愛着という点からも仕方がないのだと思う。けれども、ロックの第一世代のがんばりがずーっと目立ってきていることも確かだろう。この一年で僕がとりあげたもののなかにもスプリングスティーン、パティ・スミス、トム・ウェイツといった人たちばかりが目立つ。
・ 前回紹介したルー・リードのアルバムは意欲的に新境地を開拓しようとしたものであることがわかるし、ディランはまた映画作りに参加して"Masked and Anonymous"というサントラ盤を出した。映画のできはひどく不評だが、アルバム自体は結構おもしろい。「ライク・ア・ローリング・ストーン」がスペイン語のラップに作り直されていたり、他のミュージシャンが歌う「セニョール」や「珈琲をもう一杯」などにはあっと驚くほどの新鮮みがある。他にもスティングのニュー・アルバムももうすぐ出るようだ。ロック音楽は完全に行くところまで行ってしまって、なかなか先に進む道が出てこない。新しい方向を探るのは若い世代の使命だと思うが、還暦を過ぎた、あるいはそれに近い人たちばかりが目立つのは、ちょっと見通しが暗いと言わざるをえない気がする。(2003.10.13)