・このコラム、前回に続いて野球の話である。僕はメジャー・リーグしか見ないから、日本の野球はどうでもいいのだが、最近のプロ野球の動向の奇妙さには、ちょっと一言いいたくなってしまった。
・オリンピックの野球チームは「長嶋ジャパン」と呼ばれている。監督で行くはずが病気でだめになった。しかし、長嶋がいなくても「長嶋ジャパン」。試合開始時には選手達は、長嶋が不自由な手で「3」と書いた日の丸にふれてフィールドに出る。何か奇妙だ。「神様、仏様、稲尾様」ということばが昔はやったが、「神様、仏様、長嶋様」なのだろうか。
・国際試合があるたびにアナウンサーや解説者が説明することがある。「ストライク・ボール」ではなく「ボール・ストライク」の順でカウントすること、ストライクゾーンが外角にボール一つ広いこと、ボールの大きさが日本で使われているものより気持だけ大きいこと。オリンピックのゲーム中継でも、再三話題にしていた。しかし、そのちがいは、野茂が米国に行ったときからずっと話題になっていることだ。奇妙に思うのは、ちがいがはっきりしていながら、なぜ直さないのかということだ。もちろん、直すのはローカル・ルールの日本の方である。
・ギリシャでは、野球はどの程度に普及しているのだろうか。日本のドリームチームの試合でも、数千程度の座席しかないスタンドががらがらだ。しかし、芝生はきれいに手入れされている。Jリーグができてサッカーのフィールドはすっかり様変わりした。今では、どのスタジアムの芝生もきれいに手入れされている。なのになぜ、プロ野球の球場の芝生ははげたままなのか、あるいは人工芝で手ぬきをするのだろうか。内野に芝生がないのはどうしてなのか。ボールの転がりやバウンド、あるいはスピードがちがう。第一に見た目が全然違う。選手の体にもよくない。国際規格にあわせるという発想がここでもまるでない。
・野球とベースボールはちがう。そのような言い方も聞き飽きた。日本の一流選手はメジャーに行っても、やっぱり適応して一流の成績を残している。野球をベースボールに直したらいいじゃないかと思うのだが、そういう声はほとんど聞こえてこない。これはもちろん、プレイだけでなく、応援の仕方にも言えることだ。
・しかし、何といっても問題なのは、プロ野球を経営する人たちの意識の古さ、低さ、狭さにある。ビジネスとして経営する気がほとんどない。巨人に頼ってチームを減らし、1リーグにして各球団の赤字を減らそうというのだが、巨人の人気自体に陰りがあるのだから、縮小したら、ますます魅力のないものになってしまう。プロ野球が面白くないのは巨人がリーダーシップを取っているからなのに、そこから発想の転換ができない。
・野球にかぎらずプロ・スポーツはフランチャイズ・システムを基本にする。それは、世界中どこでもかわらない。もちろん、日本のプロ野球を除いての話だ。メジャー・リーグはニューヨーク、シカゴ、ロサンジェルス、それにサンフランシスコ以外には複数の球団を持っている都市はない。日本では、東京周辺と京阪神に集中している。さらに、アメリカのほとんどの小都市にはマイナー・リーグのチームがおかれているのだが、日本の2軍にはフランチャイズはない。
・メジャーリーガーを目指して野球をする人の数は、5000人とも6000人ともいわれている。それにくらべて日本ではプロ野球選手の数は
700人ほどにすぎない。日本ではノンプロや高校、大学野球がマイナーの役割を果たしてきた。しかし、それも怪しくなって、野球のできる環境自体が縮小しているのが現状である。
・日本には100万人以上の都市が10、50万人以上が10、40万人以上が20、30万人以上が24、そして20万人以上が39もある。
12球団がそれぞれ3つのマイナー・チームを持って全国の都市に配置すれば、我が町のチームとして応援できる都市が36も増える。プロ野球の将来を考えたら、そんなプランも出てきそうなものだが、そんな話はまったく聞いたことがない。だから、野球の将来を真剣に考えているとはとても思えないのである。(2004.08.24)