・NHKのBSで放送しているロックのライブ番組「ワールド・プレミアム・ライブ」を時々見る。知らないミュージシャンが多いから、つまらないことも多いが、気になってすぐCDを買うといったことがたまにある。2月に見た時にギター一本で歌う髭面が気になった。外見に似合わないハスキーな声で、ただコードを押さえて弾くだけのギターだったが、訴えかけてくるものがあった。
・レイ・ラモンターニュ。フランス人のような名前だが、ニューハンプシャー出身のアメリカ人で、放送したライブは、ビートルズで有名なロンドンのアビーロード・スタジオ。インタビューの形で語られたデビューのいきさつやレコーディングにまつわる話がおもしろかった。彼はすでに30歳を過ぎている。遅いデビューだが、音楽とはほとんど無縁の靴職人だった。きっかけはスティーブン・スティルスを聴いたことだという。
・さっそくアマゾンに注文して2枚のCDを聴いてみた。ライブに比べると、音がずいぶんにぎやかできれいだ。ちょっと違うなと思いながら、彼がインタビューでした話を思いだした。じぶんの作った歌なのにCDではまるで違うようになった。だから、一度も聴いていない。そんな不満をつぶやくように話したが、なるほどな、という感じだった。
・家出した父、職を探して点々として暮らす母と子どもたち。転校先でのいじめと、ファンタジー小説を読んで過ごした時間。歌詞には、こんな子供時代のことが随所に感じ取れる。たとえば、他の男と一緒になって子供を捨てる母に「行かないで」と乞う歌がある。
あいつと母さんが一緒にいるところなんて見たら
僕は気が狂っちゃう
だから出来るもんならもう一度、キスしてみろよ
僕はここに残って、裸で燃えてやる "Burn"
・一ヶ月後の同じ番組でもう一人、気になるミュージシャンを見つけた。やっぱりアビーロード・スタジオでの録音で、まずびっくりしたのは、ちょっと聴いたらどっちの声かわからないほど、ラモンターニュとよく似たハスキー声だったことだ。ただしこちらはバックをつけたロックだから、曲風もサウンドもかなり違う。
・もう一点気になったのは、アングルによって若い頃のディランによく似た顔に見えるところだ。それにモリソンという名前からジム・モリソンやヴァン・モリソンも連想した。で、これもさっそくアマゾンに注文した。聴いてみると、これはテレビで聞いたのとほとんど同じだった。
・モリソンはインタビューで、コマーシャリズムがじぶんをダメにするという批判を話題にして、じぶんの思うとおりに作品を作り演奏していることを力説した。ギター一本がじぶんの音楽であるラモンターニュとの違いが見えて興味深かった。その意味ではたしかに、ロック音楽は、そのサウンドからして本質的にコマーシャライズされているのだということもできるかもしれない。MTVがかつて企画した「アンプラグド」(電気楽器を使わない)などが意味したのは、まさにそういうことだったはずだし、逆にディランがエレキ・ギターをもったときには、堕落としてずいぶん非難された。
・二人の共通点は声だけでなく、その生い立ちにもある。モリソンの父もやっぱり家を出て、母親が子供3人を育てている。多額の借金と逃げるようにしてくりかえした引っ越し。ただし、モリソンは早くから音楽に興味をもち、高校を出た後職を転々としながらも、ストリートで歌うようになる。
僕はどん底まで落ちぶれていて、それはだれにもすぐわかる
そんなところにいるのはおかしいよって、人はいう
窓越しに眺め、輪の外にいれば、彼らがどんなに幸せかわかる
僕もそうなりたいけど、またどうせ、へまをやらかすんだ
"Wonderful World"
・二人ともいい声をして、いい感覚をしていると思う。それだけに、ビジネスやコマーシャリズムの世界で自分を見失わないようにしてほしい。ジムではなくヴァン・モリソンのように、と思う。