・テレビや週刊誌は、もっぱら不倫とセクハラの報道で賑わっている。視聴者や読者が喜ぶからなのかもしれないが、もういい加減にしろと言いたくなる。と言って、そんなものにつきあって、見たり読んだりしているわけではない。週刊誌の見出しやテレビの番組欄を見ているだけで、反吐が出てきそうになるのだ。もっと報道すべき大事なことがたくさんあるじゃないかと思うし、性倫理を盾に弱い者いじめをする心理がおぞましい。そして何より、権力にとって邪魔な者を執拗に追いかけるくせに、権力の側についた者については、知らん顔をする。そんな姿勢があまりに露骨過ぎるのである。
・伊藤詩織さんが元TBSワシントン支局長の山口敬之にレイプされたと訴えている事件は、新聞やテレビではほとんど取りあげられていない。ジャーナリスト志望の彼女に近づいて、酒や睡眠薬を飲ませてレイプした事件は、警察の捜査で逮捕直前までいきながら、警視庁本部の刑事部長(中村格)の指示で中止されて不起訴になり、再審請求でも「不起訴相当」という判決が出た。山口は安倍首相お気に入りの記者だから、上からの力が働いたのだろうと言われている。しかし、彼女が本(『ブラック・ボックス』文藝春秋)を出しても、外国特派員協会で発言をしても、メディアはほとんど取りあげない。タレントの不倫どころではない、れっきとした犯罪なのにである。
・他方で、不倫ごときで執拗に取りあげられる人もいる。衆議院議員の山尾志桜里に対する週刊誌の取材は現在でもしつこく行われているようだし、議員が不倫などとんでもない、といった論調が相変わらずよく聞かれる。しかし、不倫は犯罪ではない。道徳心や倫理観を盾にすればもっともらしく聞こえるが、性に対する意識は人それぞれでいいし、議員としての能力に関係するわけでもない。そもそも、本人はずっと否定し続けているのである。そして何より、ここにも政権にとってやっかいな奴は叩いてしまえといった意図を感じざるを得ない。
・アメリカでは有名な映画プロデューサー(ハービー・ワインスティーン)が長年にわたって大勢の女優にレイプや性暴力を含むセクハラをくり返してきたことが明るみに出て、あらたに被害を名乗り出る女優が続出している。さらにそれを機に、有名なスターの性的スキャンダルが次々に話題にされるようになっている。力のある者がその地位を利用して行うセクハラはアメリカでも、明るみに出にくいことだった。そんなことを改めて実感した。
・こんなニュースが飛び込んできたら、テレビや週刊誌は、日本ではどうかと騒ぎはじめても良さそうなものだが、やっぱり力ある者には弱いのか、そんな話題はとんと聞かない。かつての映画スターたちの武勇伝の中に、セクハラと言うべき行いが数限りなくあったのではないか。あるいは現在の芸能界で、自らの地位を利用してセクハラ行為を強制する者がかなりいるのではないか。そんなことは容易に推測できるが、おそらく、踏みこんで取材をしようなどという人はいないのだろう。
・伊藤詩織と山尾志桜里。奇しくも同名の二人だが、僕はどちらも頑張って欲しいと思う。地位や権力を笠に着たセクハラに、泣き寝入りせず訴える姿勢が当たり前になるべきだし、有能な女の政治家として現政権を揺るがす力を持っていると期待できるからである。
・それにしても、日馬富士の暴行容疑に対する新聞やテレビの報道ぶりはあきれかえる。