今、ライブで一番聴いてみたいのはトム・ウェイツ。しかし、そう思いはじめたのは最近のことだ。昔から嫌いではなかったが、CDを買い揃えるほどではなかった。というよりは、『Down
by
Law』や『黄昏に燃えて』など映画の印象の方が強かった。それが、ポール・オースターの『Smoke』を見てサントラ盤のCDを買ってから夢中になった。
風貌はゴリラのようで、声はガラガラの低音。がさつで愚鈍な印象を受けるが、歌はナイーブで優しい。それに、街や人々の情景描写がなかなかいい。場末の酒場で飲んだくれている用心棒やヒモといったイメージが強いが、この人は間違いなく詩人なのだと思う。
世界中、どこへ行っても見知らぬ者同士はお天気の話だけをする。
どこへ行っても、同じ、同じ、同じ。
それがはじまりで
それが終わり
見知らぬ者たちが離れると
そこに霧が立ちこめた(Strange Weather)
この歌はマリアンヌ・フェイスフルのために作ったものだ。ぼくは彼女の歌うものの中では一番好きだが、トムが歌うのもいい。二人とも中毒になるほどのアルコール好きだが、マリアンヌの歌はけだるくて、トムのはうら寂しい。
親父とお袋が喧嘩している
大人にはなりたくない
あいつらはいつも出かけていって
夜通し飲んでくる
大人にはなりたくない
外に出たって悲しいことや憂鬱なことばかり
だからこの部屋にいる
大人になんてなりたくない( I don't wanna Grow up)
"Nighthawks at the Dinner"の中でトムの笑い声が聞こえる。「エヘヘヘ.........」。あまりに無邪気な感じで、ぼくは何度聴いても一緒に笑ってしまう。彼はステージでは饒舌で、このコンサート盤では客たちの笑い声や拍手、嬌声が絶えない。
トムとディックにハリー、みんな結婚しちまった
一人になれずに苦労するがいい
ここにいるのは独身に飲んだくれ
みんなカミさんなんかいないほうがいいって思っているヤツばかりだ
昼過ぎまで眠り、真夜中に月に向かって吠えたりする
出かけるのも帰るのも俺の勝手
魚釣りに行くからって、いちいち断ることもない
カギの心配だってする必要もない"Better Off without Wife"
トム・ウェイツが本当に独身なのかどうか知らない。けれども、結婚して子供のいる男なら、そして女でも、こんな気持ちはもちろん願望だけど、しょっちゅう感じるはずだ。つまり「エヘヘヘ.........」は「みんなそう思うだろ?」という問いかけなのだ。
ぼくが「エヘヘヘ.........」と応えると、一緒に聴いているカミさんも「エヘヘヘ.........」と言う。で、二人でうなずいた。勝手気ままにやりたい二人が、なぜ一緒にいるんだろう?トムの言うとおりで、考えてみれば不思議な話だ。
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unknownさんではなく、何か名前があるとうれしいです。