2001年3月12日月曜日

U2 "All that you can't leave behind"


・今年のグラミー賞でU2は3つの主要な賞にノミネートされて、そのすべてをとった。去年の主役はサンタナだったし、その前はディランやクラプトンと、ベテランばかりがとる傾向は21世紀になっても変わらないようだ。若い人が出てこない、新しい流れがおこらない。あるいは、世紀の変わり目で、功労賞的な性格を持たせている。理由はいろいろ考えられるが、授賞式自体が年々大がかりになるのとは反対に、新鮮みがないという印象が何年もつづいている。

・ベテランといえば、マドンナは、毎年いくつもノミネートとされながら今年も無冠。ぼくは、80年代以降の音楽の流れを変えたのは誰よりマドンナだと思っているから、今年は彼女の番だろうと思っていた。アカデミーをなかなかとれなかったスピルバーグのようだが、理由もやっぱり似ているのかもしれない。要するに、賞に価する品格がないという認識が根強く残っている気がするのだ。

・マドンナはロックをポップにした張本人で、社会派のロック・グループとして脚光を浴びたU2とは対照的だが、しかし、女性に自信を持たせたということで言えばまた、彼女の右に出る者はない。90年代の女性シンガー・ソング・ライターの続出はマドンナの存在なしには考えられないと言ってもいいだろう。

・それを意識したわけではないだろうが、U2は90年代にはいると路線を変更して派手な活動を展開した。その頂点が前作の"Pop"。ぼくは"The Joshua Tree"(1987)に大感激して、日本でのライブも見に行っていたから、彼らの変身には今ひとつなじめない気持ちを持ちつづけてきた。で"All that you can leave behind"である。

・ボノの声は歳のせいか艶っぽさが薄れて枯れた感じがするが、エネルギッシュなところは変わらない。サウンドは昔に帰ったようなシンプルさがある。そういえば、CDのジャケットに映っているボノは厚化粧ではなく素顔だ。どこかの空港で時間待ちといった写真も、まるで使い捨てカメラで撮ったスナップのように、凝ったところがまるでない。
・グラミーで取り上げられたのは1曲目の"Beautiful Day"だが、ぼくが一番気に入っているのは6曲目の"In a Little While"。エッジのギターが印象深いし、ボノの声がせつない。内容はラブ・ソングだが、歌詞もなかなかいい。

もうすぐ、君はぼくのものになる
もうすぐ、ぼくはそこに行く
もうすぐ、この傷も傷でなくなる
君のいる家に帰るのだから

心臓の鼓動を落ち着かせよう
男は空を飛ぶ夢を見て
空にロケットで飛び出した
夜には死にかかる星に住んだが
光の拡散する中、跡をたどって帰ってきた
明かりをつけよう、明かりを、ぼくの明かりは君がつけて
"In a Little While"

・どこかに行って、そして今帰ってくる。この曲は今のU2の心境を象徴しているのだろうか。アルバムタイトルは「捨てられないもの」で、ジャケットは空港の待合所。これからどこかに帰るところ、それとも帰ってきたところ?捨てかけたものの大切さに気がついたのか。憧れたものに飽きた、あるいは失望したのか。とにかく初心に帰ろうというメッセージがサウンドにも歌詞にも、そしてジャケットにも強く読みとれる。

・悪いことではないと思うが、「じゃーこの10年、いったい何がしたかったの?」と尋ねたくなってしまう。"The Joshua Tree"でたどり着いてしまったゴールから新たな試行錯誤をして、結局元に戻った。それでは今ひとつおもしろくない気もするが、今のところ、ぼくにはそれ以上のメッセージを読みとることができない。

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