『文化社会学への招待』(世界思想社、2000円)は井上俊さんが京大を退官されるのを記念した論集として企画されたものです。編者は亀山佳明、富永茂樹、清水学さん。彼らをふくめて、著者たちはすべて、井上さんを師と仰ぐ人たちです。ぼくは同志社大学大学院で3年間、井上さんの授業を受講しました。その後も公私に渡ってお世話になり、多くのことを教えられ、強い影響を受けました。30年近くたって、退官記念論集に名を連ねるのには、何か感慨深いものがありますが、実はそんなに時間がたったとは思えないのです。何しろ井上さんは還暦を過ぎたというのに、外見的には出会った頃のイメージそのままなのですから。教え子の頭が白くなってしまっているのですから、もういやになります。せめて書くものだけは、井上さんより年寄りじみないようにと心がけています。
この本は、そんな井上さんの人柄のせいか、どこか儀礼的で堅苦しい記念論集とはひと味違うものになっています。義務や義理でというのではなく、もっと積極的に書く。おもしろい内容の本ができあがったのは、彼を慕う著者たちの思いのせいかもしれません。ぜひご一読ください。
目次;
◆ I 遊びとメディア
第1章 遊びにおける「離脱」と「拘束」……『丹下左膳余話・百万両の壺』をめぐって…… 長谷正人
第2章 『リング』あるいは秀逸なメディア論としてのホラーについて 西山哲郎
第3章 デジタル・メディアのなかの文学 岡田朋之
第4章 遊びの躍動 桐田克利
◆ II 子どもとジェンダー
第5章 双子の夢からさめるとき……吉野朔実と横顔の少年少女…… 清水学
第6章 孤児物語をめぐる考察 細辻恵子
第7章 性別化されたディスクールを超えて 伊藤公雄
◆ III 歴史と物語
第8章 大正のユートピア 河原和枝
第9章 物語のなかの他者性 小林多寿子
第10章 生きづらさの系譜学……高野悦子と南条あや…… 土井隆義
◆ IV 記憶と他者
第11章 記憶の重層……パトリック・モディアノ『新婚旅行』その他…… 富永茂樹
第12章 消失の技法……ポール・オースターの世界…… 渡辺潤
第13章 漱石と親密性……ある悪夢の選択…… 阪本俊生
第14章 他者の発見あるいは倫理の根拠……夏目漱石『道草』をめぐって…… 亀山佳明
◆ コラム
『遊びの社会学』を読んだ頃 吉見俊哉
ハッピー・マニア、あるいは「恋愛結婚」の終焉 近森高明
招かれざる客 永井良和
不思議な都の夏目漱石 門中正一郎
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unknownさんではなく、何か名前があるとうれしいです。