2003年5月12日月曜日

不況と少子化の影響


・SARSやイラク戦争のせいで連休中に海外に出た日本人の数は異常に少なかったようだ。国内の旅行より安いヨーロッパやアメリカ大陸行きの格安チケットが売り出されたりもしたが、たとえば、松井とイチローの初対決でNHKが大騒ぎしたヤンキースとマリナーズの試合は満員にはならなかったし、日本人でいっぱいというほどでもなかった。どう考えたって、外国旅行などという気分ではないようだ。


・それなら国内が混んだかというと、そうでもない。河口湖はさほど渋滞も起こらなかったし、高速道路の混み具合も大したことはなかった。友人のペンションのオーナーは、連休の間に平日が3日間もあったらゴールデン・ウィークにはならないと嘆いていた。そのせいなのかも知れないが、人びとの財布の紐の堅さは相当なものになっている。スーパーの売り上げも減り続けていて、日常の生活費も切りつめているのだから、レジャーでぱっと使うなどということは、もっと戒めているのかもしれない。


・大学生の身なりを見ていても質素になった気がするし、コンパも買い出しして研究室でやりましょうなどという。バブルの頃とは比較にならないが、数年前に比べても、景気の悪さは肌身で感じてしまう。僕の所属する研究科にはキャリアアップを目指す社会人が多く在籍していて、すでに何人もの人が修士論文を書き、博士課程に進んでいる人も多い。いわば研究科の柱になっているのだが、職場の不安定さで休学する人が続出している。


・少子化の影響で、東京の高校のかなりの部分が定員割れをおこしはじめているようだ。数年後には、同じ現象が大学でも起こる。東経大もそのような危機と無縁ではない。定員割れをしたら大学の評判はもちろん、中身もがたがたになる。そうならないためにどうしたらいいか。コミュニケーション学部でもその対応策を講じて、来年度からカリキュラムを大幅に変更することにした。そのための委員会をつくり長期間にわたってプラン作りをし、それをたたき台にして教授会でも激しい議論になった。


・それでも、なかなかいいアイデアは出てこないし、どこでも同じような検討をしているから、結局は差が出ないことになってしまう。それではかえって、何もやらない方がいいのではないか。そんな気にもなるが、結果が出なくてもがんばったという姿勢は見せなければいけない。


・もちろん、一番大事なのは入学してきた学生とつきあうことで、学力や知識や技術を身につけさせなければならない。大学は自分で勉強するところだという原則を、僕は今でも学生に言っているが、それでは不親切で教育熱心でない教師だと思われかねない。だから、「こんなこと自分で自覚してやなきゃだめだよ」と言いつつ、手伝ったり、アドバイスをしたりしてしまう。それが必ずしも学生のためになると思わなくても、そうしなければならないと感じはじめている。


・一方で文部科学省は大学に格差をつけようとしていて、補助金を出して大学ごとの共同研究を奨励しはじめている。いわゆる各分野におけるトップ30というやつだ。コミュニケーション研究科でも、院を担当する教員が中心になって共同研究を立案して応募した。もちろんぼくもそのメンバーになっている。最初から当たることはないとたかをくくっているが、実際に準備はしておかなければいけない。他に頼まれている仕事もあるし、自分でやりたいテーマもあるから、正直言って重荷だが、一人知らん顔をするわけにもいかない。何しろここでも、大学の生き残りがかかっているのだから………。


・少子化で少ないはずの高校生の就職率が悪いらしい。もちろん大学でも、就職が決まらないままに卒業していく学生が増えている。業績不振で減給や退職、あるいは倒産で失業といった話も周辺にあふれている。業績不振の建設業、巨額な不良債権をかかえる金融業の次は教育だと噂されている。大学の教師は他には何もできない人種で、その人たちが路頭に迷ったらどういうことになるか。人ごとならば、それは見ものと面白がるところだが、自分がそうなったらと考えるとぞっとしてしまう。僕には他に何ができるだろうか。誰が雇ってくれるだろうか。何よりふれたくない質問である。

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unknownさんではなく、何か名前があるとうれしいです。