・ユッスー・ウンドゥールはアフリカを代表するミュージシャンで、セネガルの出身だ。日本ではホンダのCM(「オブラディ・オブラダ」)で有名だし、ワールド・カップのフランス大会の公式賛歌を歌ったりしているから、名前は知らなくても歌を聴いたことのある人は少なくないと思う。僕が最初に彼の歌を聴いたのは「So
Why」という名のアルバムで、「アフリカ人による、アフリカ各地の紛争に対するメッセージ・アルバム」としてつくられたものである。
・ユッスー・ウンドゥールの音楽の魅力は、何と言っても明るいサウンド、軽快なリズムだ。しかし、いわゆる伝統的なアフリカ音楽とは違う。ロックだし、歌詞の多くは英語だから、それほど異質な音楽だという感じは受けない。彼の国はセネガルだが、歌は確実に世界を意識して作られている。そしてまただからこそ、その明るいサウンドとは裏腹の歌詞にも、したたかな計算が伺える。彼が歌うのはまさにアフリカの現実で、それを世界中に訴えようとしているのだ。
これは若者のためだ 銃を捨てて学習を最優先せよ
いつか君も大人になって 知識が役にたつのだから
そうなることを願うのみだ
いつか君にもわかるはず
'My Hope is in you' in "JOKO"
・ユッスー・ウンドゥールは1959年生まれだから、今年で 45歳。デビューは74年で15歳の時だというから、すでに30年のキャリアになる。アルバム「JOKO」にラーナーノーツを書いている北中正和によると、生まれたのはダカールのメディナ地区で、ここは植民地として統治していたフランスが自分たちが住む場所とは区別してセネガル人を押し込めたところだという。アルバム「SET]には、そのメディナを歌った曲がある。
そう、メディナ、オー、メディナ
あんたがおれを信じられないなら おふくろに聞いてみな
ここの子どもたちはいい子ばかりだって言うから
メディナの奴はみんなここに誇りを持っている
育ったところだし、伝統を身につけたところだから
メディナよりいいところなんて、他にあるものか
'Medina' in "SET"
・ユッスー・ウンドゥールはそのメディナでグリオ(伝承詩人)の家系に生まれた。王国の歴史を語る人、宗教行事を司る人、出来事を伝える人。語りは楽器に合わせて歌われたというから、ミュージシャンは彼の天職と言ってもいいのかもしれない。その彼が、今は世界に向かって、アフリカの現実を伝えている。
・僕が持っている彼のアルバムで一番古いのは「SET」で1990年の作品だが、1992年の「eyes open」と1999年の「JOKO」や2002年の「Nothing in Vain」を比べてみると、サウンドがシンプルなものから複雑なものへ、アフリカ的なものからロックへと変わっていることがよくわかる。ワールドカップなどの世界的なイベントに参加したり、CMに使われたりといった点とあわせて、「商業化」の好例だと言われかねないけれども、その歌の中身を聴くと、彼の姿勢に変化がないこともわかる。
・彼のアルバムには世界中に売り出されるもののほかにセネガルだけで出されるものがあるようだ。当然、使われている言語やサウンドに違いがあるはずだ。そんなことを考えると、彼が自分を「グリオ」として考えていることがよくわかる。
・僕が聴いていていいと思うのは、やっぱり最近のものだ。耳に違和感なく入ってくるし、アフリカの音楽だといった「ワールド・ミュージック」のレッテルを貼る必要も感じない。それは、世界言語としての英語に翻訳された歌詞であり、耳障りをよくするためにオブラートでくるんだ音楽であるかもしれないが、だからこそ、今のアフリカを物語る「グリオ」の声として聴くことができる。
・もう一人、気になるアフリカのミュージシャンも紹介しておこう。セネガルの隣国であるマリのサリフ・ケイタ。そのアルバム「MOFFOU」は小鳥たちから作物を守る笛の名前から取っている。残念ながら歌詞はわからないが、ウンドゥールのサウンドとよく似ている。インターナショナル・デビューが1987年というからウンドゥールと似たようなキャリアの持ち主なのかもしれない。
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unknownさんではなく、何か名前があるとうれしいです。