2007年9月17日月曜日

Patti Smith "twelve"

 

・パティ・スミスの新しいアルバム"twelve"には自作の歌がない。盛りこまれた12曲はどれもが彼女にとって意味のある大事な歌のようだ。収録曲は以下の通り。若いころに憧れた人、よく聴いた曲、同世代のミュージシャンの歌が選ばれていて、彼女より若いのはニルヴァーナだけである。

1.Are You Experienced? (Jimi Hendrix)
2.Everybody Wants To Rule The World (Tears for Fears)
3.Helpless (Neil Young)
4.Gimme Shelter (The Rolling Stones)
patti12.jpg5.Within You Without You (The Beatles)
6.White Rabbit (Jefferson Airplane)
7.Changing Of The Guards (Bob Dylan)
8.The Boy In The Bubble (Paul Simon)
9.Soul Kitchen (The Doors)
10. Smells Like Teen Spirit (Nirvana)
11. Midnight Rider (Allman Brothers)
12. Pastime Paradise (Steavie Wonder)

・ぼくはパティ・スミスをデビューからずっと聴いている。女では一番好きなミュージシャンだから、このコラムでもすでに何度もとりあげている。そんなに久しぶりだと思わなかったが"trampin'"からは3年もたっている。2002年にベストアルバム"Land"を出した。後ろをふりかえらないという彼女らしいこだわりがあって、このアルバムには「わたしは過去とはファックはしない」ということばが書かれていた。彼女らしいと思ったが、それは決していいわけではなく、「ふりかえるけどふりかえらない」といった矛盾した気持の表現なのだと思った。
・"twelve"は完全に過去をふりかえっている。ただし、ノスタルジーではなく、自分の歩いた軌跡を記録してとどめておくためである。とりあげた12曲についてのコメントがどれもおもしろい。ジェファーソン・エアプレーンのグレース・リックは少女時代の彼女にとって「ロックンロールの異端の女王」だったし、ボブ・ディランはピカソのように、芸術的にも人間的にも永遠に広がり続けるステージに引き出してくれた人である。ジミ・ヘンドリクスの"Are You Experienced?"は70年代の頃からレコードに入れたかったが、その資格はないと思いとどまったと書いてある。
・どの曲も聞き覚えがある有名なものだが、やっぱり、パティの歌になっていて、自分の曲のように聞こえてくる。だから、オリジナルのサウンドはどうだったか気になって、何曲も聞きくらべたりしてみた。一番原曲に近いのはローリングストーンズの"Gimme Shelter"で、彼女の歌に一番なりきっているのはジファーソン・エアプレーンの"White Rabbit"。ビートルズの歌がなぜ、"Within You Without You"なのかというと、彼女が一番親しかったのがジョージ・ハリリスンだったからのようだ。
・ディランの"Changing Of The Guards"は「ストリート・リーガル」の1曲目の歌だ。聞きくらべようと思って探すとCDがない。買ってないことにあらためて気づいたが、理由は宗教色が強く出たりして、ディランが一番つまらない時期だったからだ。レコードで聴くと例によって針飛びがする。で、買い直すことにした。彼女がこの曲を選んだ理由は、ニューヨークで落ちこんでいる時に、これを聴いて涙を流したからだという。難解でよくわからない歌詞だが、ディランにとっては一つの時代への訣別宣言のようでもある。16年とはディランのデビューから数えて、この歌が発表されるまでの時間である。ぼくにとっては、訳のわからないところに行き始めた、という印象が強かった。

16年
16年の旗が共同戦線を張った
ところは良き羊飼いがなげく野原
彼らの羽を落ち葉のしたにひろげた

平和は来る
焔の車輪に静寂と豪華をのせて
だが にせの偶像の没落以外には なんのむくいもなく
「護衛の交代」『ボブ・ディラン全詩302篇』晶文社

・今ある自分は、さまざまな人びとや出来事との出会いや交差、衝突の結果として存在する。得たもの、失ったもの、変わったところと変わらないところ。そのことをふりかえってみることは十分に意味がある。ぼくも最近、そんなふうにして、ふりかえることが多くなった。

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