2013年11月11日月曜日

「ソロモン流:上原浩治」

・このコラムは前回もメジャーリーグが話題だった。ちょうどシーズンが終わったところで、これからプレイオフが始まるので、今シーズンを振り返ったのだが、その後の10月は、もう試合のことが気がかりで、家にいる時は必ず中継を見て過ごした。注目したのはもちろん、上原投手と彼が所属するボストン・レッドソックスである。

・上原は今年テキサスからボストンに移籍して、最初は中継ぎだったが、クローザーが不調で、6月からずっと、試合の締めくくり役を務めてきた。今シーズンの成績は4勝1敗21セーブで、防御率は1.09、73試合に登板して74回1/3を投げた。特にすごかったのは6月の末から9月にかけて、点を取られないどころか、四球も出さないし、ヒットもあまり打たれなかったことだ。直球のスピードは140キロちょっとのピッチャーがなぜ打たれないのか。不思議な感じがしたがプレイオフで何試合も見て、その理由がよくわかった。

・彼の持ち玉は直球とフォークの2種類だけだそうだ。ただし、そのフォークが時に右に、左に曲がって落ち、直球は打者の手許で浮き上がるように見えるようで、強打者達がくるくると空振りしてしまうのである。ボストンの相手は、最初はタンパベイで、次がデトロイトだった。相手チームの監督は打てないのはしょうがないと諦めていて、勝つためには上原を出さないことだと言っていたが、先行してもボストンに逆転される試合が多く、上原が出てくれば、ファンはもう勝ったも同然という感じになった。

・テレビ東京の「ソロモン流」がその上原に半年密着取材をした番組を見た。彼は2009年にボルティモア・オリオールズに入団して2年半を過ごしている。家も購入して家族と一緒に暮らしていたのだが、テキサスにトレードされ、今年はボストンと契約したから、ここ数年は単身での生活を強いられている。ボストンではけっして高級ではないホテル住まいで、試合が終わって部屋に戻ると、一人でマッサージをし、テレビを見ながら食事をする。カメラにそんな様子を写されながら、体の調子やチームの雰囲気、メディアの対応と日本での報道のされ方、そして家族のことなどを話すのだが、彼のことばはきわめて正直で、時に辛辣だ。

・メジャーリーグでプレイする日本人選手は今年も10人を超えている。ただし、試合の結果や成績が報じられるのは、イチローとダルビッシュばかりで、地味な黒田や岩隈のことはすこしだけになるし、上原のような中継ぎ投手は、ほとんど話題にされることもなかった。「5試合に1試合しか出ない先発より、毎試合準備していつでも出られるようにしなければならない中継ぎの方がずっとしんどい。」そんな彼の気持ちは、メディアではほとんど語られない。

・実際、メジャーリーグの中継も、レンジャーズやヤンキースが中心で、レッドソックスなどは数えるほどしか放送しなかったから、上原の活躍は、ぼくもプレイオフになるまでほとんど見ることはなかった。ただし、彼は毎日のようにブログを更新していて、出場した試合で対戦した選手への配球と狙いや結果をメモしている。さらにツイッターもやっていたから、調子の良さはずっとフォローしていた。「ソロモン流」ではホテルの部屋でスマートフォンを使ってツイッターやブログに書き込みをする様子も映していた。

・おもしろいのは、スポーツ新聞などが、そのブログやツイッターを借用して記事を書いていたことで、彼は番組の中で、そのことについて、「取材もせんとよう書くわ」と憤慨していた。昨年までいたレンジャーズでは、大勢の日本人の取材記者がダルビッシュを取り囲んでいて、上原には知らん顔といったこともあったようだ。それが、今シーズン後半からワールドシリーズまでの活躍で、手のひらを返したような取り上げ方に変わった。

・上原は自ら「雑草魂」と言う。巨人のエースだったからスター選手であったことは間違いないのだが、メジャーリーグに来てからは地味な存在でしかなかった。もらうお金もイチローやダルビッシュの比ではないし、CMなどの声もかからない。そんなやつらを見返してやる。この一年は、そんな気持ちが実現した、彼にとっては最高のシーズンだったのだと思う。ただし、すでに来年度の契約は済んでいるから、今年の活躍が反映されて大幅アップということにはならないようだ。

0 件のコメント:

コメントを投稿

unknownさんではなく、何か名前があるとうれしいです。