2022年1月17日月曜日

楽曲の権利をなぜ売るのか?

 ボブ・ディランやブルース・スプリングスティーン、そしてデビッド・ボーイが楽曲の権利を売却したといったニュースを聞いた。ボーイは死んでいるから本人の意思ではないが、今なぜ?という疑問を感じた。金額はボーイが2億6千万ドル、ボブ・ディランが3億ドル以上、そしてスプリングスティーンが5億ドルだという。すでに巨万の富を得ながら、まだお金が欲しいのかと批判したくなるが、その理由を知りたいとも思った。

楽曲の権利とは著作権のことで、ミュージシャンがレコード会社からCDとして公開した楽曲について持つ権利である。楽曲の作者はCDの売り上げに応じた収入を得る他に、それがラジオやテレビなどのメディアで放送されたり、楽曲が使われたりした時にも報酬を得ることができる。また、CDの購入者が個人的に聴く以外の利用をした時にも、支払う義務が生まれる。ジャズ喫茶店や音楽教室などでの利用をめぐって支払い義務の有無が争われたりしてきたことは、これまでにも話題になってきた。

その、本来は作者の有する権利を買ったのは、レコード会社である。ボーイの楽曲権はワーナー・ミュージック、ディランはユニバーサル、そしてスプリングスティーンはソニー・ミュージックエンタテインメントだ。売却によってディランやスプリングスティーンは、ライブで自分の楽曲を歌う時にも使用料を払わなければならなくなるのだろう。もうライブはあまりやらないことにしたということだろうか。ディランは80歳を超えたからそうかもしれないが、スプリングスティーンは70代の前半だ。

このような動きには高齢化した大御所ミュージシャンの「終活」だという解釈がある。今金が欲しいというよりは、自分の死後にもしっかりした企業に楽曲の管理をして欲しいと思うからだというのである。楽曲の購入や利用は今ではネットを介したストリーミングにあって、その市場は爆発的に拡大している。一つのコンセプトをもって作られたアルバムも、ストリーミング市場では細切れになって売買される。長期にわたって得られるかもしれない収入を自ら管理するのが面倒な状況にもなっているのである。

調べてみると、納得できる理由がいくつか出てきたが、音楽の現状にとってよくないことだとする意見も見受けられた。一つはストリーミング市場が一部の大物に偏っていて、若手のミュージシャンが育ちにくい環境にあることだ。スーパー・スターといわれる人たちにも、最初は売れない時代があって、徐々に才能を伸ばし開花させる土壌があったのに、今はそれがなくなってしまっているというのである。ここには、コロナ禍にあってライブ活動が制限されているという現状も重なっている。

20世紀後半はポピュラー音楽が花開いた時代だった。ディランやスプリングスティーンはその代表的なミュージシャンだが、彼らの終活とともに、この音楽も終わりを迎えてしまうのだろうか。そしていくつかがクラシック音楽として残されていく。利益優先の大企業の手に渡された音楽だけが化石のようにして生き残る。そんな近未来を想像してしまった。

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unknownさんではなく、何か名前があるとうれしいです。