・確かに、物語は三部構成になっていて、第一部と第三部は壁に囲まれた「世界の終わり」が舞台になっている。もっとも,第一部の前半は主人公の少年と少女の出会いと手紙のやり取りやデートの話で、僕はそれを読んでいないからわからないが、これは最初の作品に書かれたもので、『世界の終わりと………』と併せて要約的にまとめたのだと思った。 ・新たに書かれた第二部は会津若松からさらに鉄道に乗って行く小さな街が舞台になっている。「世界の終わり」から戻った主人公はすでに30代になっていて、出版流通会社で働いていたのだが、それをやめて地方の図書館で働きたいと思うようになる。それで探し当てたのが福島の山奥にある小さな街だった。すでに死んでいるのだが幽霊のようにして現れる図書館の所有者だった老人や、学校に行かずに毎日図書館に来て本を読みあさる「少年」、そして街にあるコーヒーショップを営む女性との関係をもとに話は展開して、やがてまた「世界の終わり」に近づくようになる。 ・読み終わって改めて、この壁に囲まれた「世界の終わり」という街について考えた。この街に入るためには、入り口で「影」を切り離すことになっている。その「影」は「心」を担う部分で、その街で暮らす人には「心」がないということになっている。「心」をなくした「生」と「生」をなくした「心」。切り離された「影」はやがて死んで、そこに住む一角獣に吸い取られることになる。「心」がないから、街の人たちには愛憎の気持ちも欲望もない。争いごとのない平和な「ユートピア」でもあるし、街のシステムに抑圧された喜怒哀楽のない「逆ユートピア」のようでもある。 ・今の世界は欲望を動因にして営まれている。で、それが行きすぎているところに、さまざまな問題が噴き出している。それを解決するにはどうしたらいいか。あらゆる煩悩を乗り越えて静かに生きることが一つの道かも知れないが、それでは何のために生きているのかわからなくなってしまう。村上春樹が描きたかったのは、そんな人間の持つどうしようもない性(さが)についてだったのか、と思ったりした。 |
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unknownさんではなく、何か名前があるとうれしいです。