・バルセロナでサッカーを見た。FCバルセロナは今、スペイン・リーグの首位にいる。スター軍団のレアル・マドリードほどではないが、ロナウジーニョやエトーなど、日本でもなじみの選手が多い。とてもチケットは取れないと思っていたが、ここに住んでいる友人が取ってくれた。一番安い席でも30ユーロ(4200 円ぐらい)したが、客席はほぼ満員だった。その最後列に近い席からフィールドを見下ろすように見た。収容人員は98000人、スタジアムの大きさがよくわかった。試合開始は何と夜の10時、毎日の強行日程でいつもなら寝ている時間だが、今日ばかりはそういうわけにはいかなかった。
・試合はロナウジーニョのフリーキックやアシストで5対1で勝った。相手はセビリヤのベティス、中堅どころでけっして弱いチームではなかったのだが、最初から最後まで一方的な試合だった。当然ファンは大喜びで、周囲の人たちは歓声を上げ、拍手をし、歌を歌い、ウェーブをした。ぼくには試合以上にこちらのほうが楽しかった。サッカーをよく知っている、一番熱狂的な人たちが集まっているところだったようだ。とにかく日にちが変わろうという時間なのにみんな元気がいい。シエスタでしっかり昼寝をしているのだろうか。ぼくも思わず一緒になって、立ち上がったり、拍手喝采をしたり……。
・バルセロナには、とにかく美術館や博物館が多い。それがどれも魅力的だから、ついつい欲張ってしまいたくなるが、一度入ったら2時間や3時間は必要になる。ピカソ、ミロ、ダリ、そしてガウディ……。観光客が多いが地元の人たちも来ていて、どこも大勢の人で賑わっている。ガウディの作った建物はサグラダ・ファミリア以外にもたくさんあって、それらが街に溶け込んでいるから、どこの通りを歩いていても建物やモニュメントなどに目が行ってしまう。歴史的なもの、町にゆかりのあるもの(人)を大事にするだけでなく、先進的で洗練されたところもあるから、スペインのなかではかなり異質な感じもする。温暖で食材も豊富だから、ぼくはすっかり気に入ってしまった。
・スペインにはシエスタの習慣が今でも残っている。昼の休み時間をたっぷり取って、食事をし、昼寝をするのだが、バルセロナでも、その時間には店が閉まり、人通りが少なくなる。ずいぶんのんびり、というより怠惰な感じすらしていたのだが、慣れてくるとなかなか合理的な生活スタイルなのではないかと思い始めてきた。朝が動き出すのが早い。若いお父さんが昼間、小さな子どもを連れて歩いている。店は夕方からまた開きははじめ、レストランは夕方閉じて、夜は8時から9時に再開する。だから深夜でも街はにぎやかだ。一日を仕事だけではなく、食事や遊びにも十二分に使う。忙しいばっかりで、くたびれはててから遊ぶ日本人とはずいぶん違う生活観だと思った。
・最後に料理について。前回のイギリス・アイルランド同様に、特にまずいと感じたものはなかった。というよりも、おいしいと思うものの方が多かった。ただ、塩気が強いこと、オリーブ・オイルがふんだんにかかっていることなどには慣れる必要があった。オリーブの塩漬けはビール(セルベッサ)をたのむと突き出しのようにしてついてくる。これが塩辛いが食べ出すと後を引く。喉が渇く。で、ミルク入れのエスプレッソ(カフェ・コン・レチェ)を飲む。これは砂糖を沢山入れた方がおいしい。スペイン料理は甘辛がはっきりしている。メインの料理にはほとんど甘みがない。その代わり、デザートと珈琲はたっぷり甘くする。
・行く前から食べたいと思っていて、食べられなかったものにイカ墨のパエジャがある。スペインではイカの他にタコも食べる。市場の魚屋さんに行くと、日本でもおなじみの魚がたくさんあって、その食材の豊富さに驚いてしまう。生で食べたい新鮮なものが多かったが、それはしないようだ。もったいないな、と思ってしまった。
・酒を出す食堂のことを「タベルナ」(Tabern)と言う。「タベルナで食べろ!」なんてダジャレて楽しんだが、スペイン語には奇妙に日本語に近いサウンドのことばがある。「カゴ」はうんこをするという意味だから、スーパーで「カゴは!」などと言ってはいけない。「カガ」は彼(女)がうんこをするで、加賀さんはきっとスペインでは笑いの対象になる。こんな話をバルセロナに住む友人から聞いた。どの街を歩いても、散歩途中に犬がしたうんこが放置されている。「「うんこ嗅ご」「嗅げ」「嗅がん」などと勝手に活用させてげらげら笑う。ぼくは英語の会話はいつまで経っても駄目だがスペイン語なら何とかなるかも、という気になった。しかし、覚えてもすぐに忘れてしまう。この記憶力の衰えがなんともうらめしい。