・河口湖は全然雪が降らないから、拍子抜けのような冬だ。だから、夏が待ち遠しいということもないのだが、セブ島に出かけた。僕の還暦を機会に、久しぶりに家族そろって旅行をしようと計画をしたのだが、二人の息子は海が好きなので、シュノーケリングのできるところという理由で、セブ島ということになった。
・実は、セブ島は義父が太平洋戦争で従軍して、ジャングルをさまよいながら米軍の捕虜になったところだ。その話を何度か聞いていたから、とても遊びに行く気はしなかったのだが、息子たちの世代には、全くちがう場所になっている。ちょっと抵抗はあったが、その落差を確かめるのもおもしろいかもと思って賛成して、計画を立てた。
・残念ながら、戦争の痕跡を見ることはほとんどなかったが、きわめて現代的な、もう一つの落差を目の当たりにした。滞在したのはリゾート地で、広大な土地とビーチを高い壁で多い、頑丈で厳重な警護をしたところだった。もちろん、中はきわめて快適で、砂浜で泳ぎ、シーカヤックをやり、船で小島を巡って珊瑚礁のある浅い海でシュノーケリングを楽しんだ。生け簀の魚やカニやエビをこちらの注文通りにおいしく料理してくれるし、果物も色とりどりで、大いに満足した。
・ところが、そのリゾート・ホテルは極貧地域の中にあって、ゲートを一歩出ると、まるで違う世界が広がっている。タクシー、ジプニー、それにバイクや自転車にリヤカーを着けたトライシクルの運転手たちが雲霞のように寄って来る。スーベニールを買え、食べ物はどうだと、次々声がかかる。「ノー、サンキュー」と言い続けるだけでくたびれるほどだ。大人から子どもまで、多くの人が何するでもなくたむろしている。鶏、山羊にブタが放し飼いにされ、野犬がうろついている。とてものんびり散歩というわけにはいかず、早々にまた、ゲートの中に退散した。
・僕はやらなかったが、パートナーが頼んだマッサージの女の子は、彼女の稼ぎで一家を養っているという。移動した車から垣間見ただけでも、子どもの数が多いことはわかるし、とにかく、道ばたでぶらぶらしている人が多い。街を歩いて見物など、観光目的の旅行者には危険の極みだな、と痛感した。ちなみに、フィリピンの日本大使館が出している安全対策には「殺人約12倍、強盗約2倍、強姦約2倍」と書いてあるそうだ。豊かさと貧しさが隣り合わせ。その豊かで安全な場所から見えた貧困。百聞は一見にしかずであることを改めて考えさせられた。